架唯

「私……」

「おい!! 早く救急車を呼べ」

「何があったの?」

「うわっ、グロ……」

「撮影──じゃないよね……」

「と、とりあえず救急車と警察に!!」


 今は朝の八時半。

 通勤する人や学校指定の制服を着た人が歩道を歩いていた。その人達は驚きの声と共に一か所に集まり、携帯で電話をしたり、隣の人と話している。


 集まっている所は車通りが多い二車線の道路。

 軽トラックが道路の真ん中に停まっており、左側のヘッドライト付近には赤いシミが付着している。

 軽トラの近くにはセーラー服を着た女子生徒が頭から血を流し、倒れていた。目は虚ろで空を見上げている。


「わ、たし……。まだ──てない」


 ボソボソと呟いているためまだ意識はある。だか、眠たそうに目を閉じかけていた。

 その時、救急車のサイレンが聞こえ始める。それに安心してしまったのか、女性は微かに開いていた目を、そっと静かに閉じてしまった。


「まだ、私は────」


 ☆


 林の奥にある小屋。中では明人と一人の女性が向かい合い話していた。


「私は友達に酷い事を言ってしまいました。なので、謝りたいのですが……。その、上手く言葉に出来ないんです。私はまだ、意地を張っているんです」


 顔を上げられず、明人から目線を逸らしながらポツポツと説明している女性は、少し明るめの黒い髪に青縁眼鏡。セーラー服の上にベージュ色のカーディガンを着ていた。


「そうですか。それでしたらお力になれそうです」

「ほ、本当ですか……?」


 下げていた顔を上げ、明人の言葉に喜びを見せる。顔色はすごく悪く、目元には隅が出来ていた。


「ですが、匣を開けるのはボランティアとして行っている訳ではありません。もちろん、お代は頂きます」

「お、お代って……」

「貴方の記憶を頂きます」


 明人は機械のように淡々と自分が頂いている物を伝えた。その言葉に、依頼人は元々白い肌から血の気が引いて青くなってしまう。体が小刻みに震え、困惑する。


「──まだ、時間はあります。ゆっくりと考えてからでも遅くはないかと」


 まるで分っていたかのようにフッと、彼は紳士的な笑みを零し、優しく伝えた。


「気持ちが定まりましたら再度お越しください。その時でも遅くはないでしょう」


 明人の最後の言葉で、小屋の中での会話は終わった。そして、依頼人はとぼとぼと林の中を歩き家へと帰って行った。


 ☆


「また来るのかい」

「知るかよ。だが、今回はもう一つも同時に抱えてんだ。そんな何人もの匣を一気に開けられるわけねぇよ。引いてくれて助かったわ。…………まぁ、一人目がまだここについて覚えてたらの話だがな」

浅井架唯あさいかいの事かい?」

「そうだ。ま、開ける開けないを決めるのは俺じゃねぇし、次来た時は開ける。それでいいだろ」


 めんどくさそうな口ぶりだが、何故か難しい表情をしている。何かを考え込み、眉を顰める。


「明人、体の方は大丈夫なのかい?」

「問題ねぇわ。俺は寝る」


 カクリに対し適当に言い放ち、いつも通りソファーで寝息を立て始める。カクリは呆れたように肩をすくめ、奥の部屋に行ってしまった。

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