「意地になればいいだろう」

「ちょっ、ちょっと! 離しなさいよ!!」


 知恵は明人に腕を掴まれているため、文句を言いながらもついて行くしか出来ない。

 そんな明人は警察官を巻くようにわざと人混みに突っ込み、その後は人気のない細道へと逃げる。

 警察官達は二人を見失い、それぞれ手分けして探す事にし分かれ始めた。


 細道を少し進むと人気が全く無くなり、明人はやっと足を止めた。


「ここまで来れば大丈夫か」

「そうだな」


 明人は肩で息をしているが、カクリは全く疲れておらず平然としている。

 知恵は今にも倒れそうなほど疲れてしまい、膝に手を付きなんとか息を整えていた。


「さてと。お前、何やらかしたんだ?」

「な、なにも。して、ないわよ……」


 なんとか質問に答える知恵だったが、その様子を一切気にしない明人は、いつもの口調で次々と質問をぶつける。


「なぜ走っていた、警察はなぜお前を追いかけてる。お前、学生みたいだがやんちゃでもしたのか? それとも──」

「まっ、待って待って!! そんな一斉に質問されても答えられる訳ないでしょ!」


 なんとか話せるくらいに回復した知恵は、明人の次から次へとぶつけてくる質問を止めた。

 そんな知恵の言葉に、彼は軽蔑したような表情を向ける。


「こんな質問も答えられんのかお前は。脳みそはどうなっている。しっかり入っているんだろうな。お前の頭の中には何が入っている」


 明人の表情と言葉に知恵は最初、開いた口が塞がらない状態でポカーンとした表情になる。時間が進むにつれ理解でき、だんだん怒りが込み上げ顔を真っ赤にし、明人に対し怒鳴り散らした。


「初対面で何言ってんのよ!! あんたこそ常識がなってないんじゃない?! 脳みそしっかり入ってるのかしら?!?!」

「安心しろ、お前より脳みそはしっかりと入っている」


 明人の言葉に彼女は体を震わせる。拳を作り、殴りたくなった感情を何とか抑え込んでいた。


「明人よ、今はどうでも良いのではないか?­­ とりあえず、この状況をどうにかする方が先だと思うのだけれどね」


 冷静に口にするカクリを、知恵は不思議そうにじぃっと見下ろしている。

 何故ここにカクリのような少年が居るのか不思議に思っていた。しかも、話し方や雰囲気が普通の少年とは異なるため、気になっている。


「ちょっと、なんでこんなガキがここにいるわけ。まさか誘拐犯?」

「こいつを誘拐したところで俺にはなんのメリットもなければ、趣味でもねぇ。一目見ればわかるだろうが。こいつは俺から逃げない、逃げる気が無い。誘拐犯では無い事はすぐに判断できるはずだ餓鬼」


 明人の返答は一言二言多いため、聞いている人からすれば相当苛立つ。

 カクリは溜息をつき、知恵はまたしても拳を握り作り震わせた。


「んで、結局お前は何やらかした。もしかして若気の至りで万引きでもしたか? 遊び半分でやる奴は今多いからな。だが──」

「やってない!!!」


 明人の言葉に対し、知恵は過剰な反応を見せた。その反応に、明人はちらっと目線を向けたあと腕を組み、考える素振りを見せる。

 それを知恵は、息を荒くし睨んでいた。


「やっていないのであればなぜ逃げた。逃げる必要などないだろう」

「……誰も私の言葉なんて信じないし、それに実際私の鞄にはCDが入っていた。証拠はしっかりと見られている。その状況でどうすれば良かったのよ。何を言ったところで意味なんてないでしょ」


 込み上げていた怒りは沈み、知恵は肩を落とし目を伏せてしまった。もう諦めてしまっている。

 このまま戻ってもどうせ、何かしらの罰は与えられると思ってた。


「言葉には意味を成すが、今のお前の行動は確かに意味無いな」

「どういう事よ……」


 明人は呆れた様子で彼女に向き直し、わざとらしく大きなため息を吐いた。


「お前がやっていないのならそれを言い続ければいいだろう。そうすれば警察側も何か手段を考えるはずだ。防犯カメラを見たり聞き取り調査などしたりな。相手を諦めさせるため何かしらの証拠を取ろうとするだろう」

「それ、私が意地を張っても意味ないじゃない。どうせ──」

「そうか、なら今回お前は万引きしたのか」

「だからしてないってば!!」


 知恵は再度同じ事を言われ、怒りのあまり声が荒くなる。だが、それに対して先程から何も変わらない彼は、そのまま言葉を続けた。


「なら証拠など見つかるはずがない。やっていないのだからな。証拠がなければ捕まえる事もできん」


 明人の言葉は最もだが、知恵は鞄の中にCDが入っているところを見られている。それを証拠と言われても仕方が無い。


「でも、私は鞄に……」

「なぜお前はもう諦めている。もっと意地になればいいだろうが」


 今の言葉に驚き、彼女は目を見開き明人を見上げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る