「どうでもいいわ」
「こんにちわ、いらっしゃいませ!!」
秋穂はお店に来たお客さんに大きく挨拶をしていた。それを後ろで由紀子と皐月は微笑ましそうに見ている。
取り壊しが決まっていた幸せ処だったが、何故か突如として中止となったのだ。
理由は、突如として建設中だったらホテルが正司が居なくなった事により、進める事が出来ず流れてしまった。
ニュースにも大きく取り上げられ、秋穂達は少し複雑そうな表情を浮かべながら見ていた。
正司がなぜ姿を眩ませたのか、秋穂達が寝てしまったあと何をしていたのか。
三人は今も分からないままだった。そのため、秋穂は真実を求め、何度も明人がいる小屋を訪れているのだが、なぜか辿り着く事が出来ない。
林の中をさ迷うだけで終わってしまう。
☆
「──また、元依頼人が林の中をさ迷っているようなのだが、良いのか明人よ」
「あぁ? どうでもいいわ。あいつの匣には全く興味ねぇ。あんなに綺麗な匣を抜き取ったらこっちが浄化されるわ」
林の奥にある古い小屋の中には、明人が小瓶を片手に弄んでいた。
黒く染った匣は彼にとって大事な物。手に入れる為ならどこまでも追いかける程。
「それに、黒い匣じゃねぇと意味ねぇしな」
「しかし、本当にそれで明人の記憶は元に戻るのかい?」
「知るかそんなもん。ただ可能性はゼロではない。それだけだ。それに、これはただの予備だ。本命は俺の記憶を見つけること」
「それは分かっておる。その為に──」
「誰かが俺の記憶を抜き取った。それだけは変わらねぇよ」
カクリの言葉を遮り口にする明人。表情は先程匣を眺めていた時より険しく、何かを考えている。
「俺の記憶を取った奴……。それは間違いなく
明人は立ち上がり、ポロシャツを脱ぎ始めた。
「ここで脱ぐのかい……」
「暑いんだからいいだろうが。なんだ、俺の引き締まった素敵ボディを見て興奮すんのか」
「気持ち悪い事を言うでない」
明人がポロシャツを脱ぎ色白の肌が顕になった。その際、背中に刻印されている呪いの証が紫色に輝いているのが見える。
呪いの証である紋章が明人の体に刻まれていた。
その周辺は黒く染まっており、今はまだ右側の肩から腰までに留まっているが、この先どうなってしまうのかはカクリにも分からなかった。
「あまりゆっくりもしていられぬかもしれんぞ」
「そんなに広がってんのか?」
「背中真っ黒だ」
「嘘つけお前」
呆れた声を漏らし、彼は小屋の奥へと姿を消した。
「…………あながち、嘘では無いかもしれぬぞ」
カクリは呟き、本棚から本を抜き取り読み始めた。
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