47話 分裂させることはできなくもない
マリーの日常は忙しい。
国家のトップとして判断することは多く、毎日が学びと実践の繰り返しだ。
多くの家臣に支えられてはいるが、それでも仕事量は少なくない。
そして今日は内務卿やダンジョン公社のエルフ社長とエネルギー事業について会議がもたれていた。
エネルギー事業は国家の柱だ。
おろそかにすることなどできない。
「――続いて領内の生命エネルギー量ですが、こちらはやや不安が残ります。前年比より余剰エネルギーは減っております」
「うん? なぜだ? ホモくんのダンジョンを増やしたではないか」
内務卿の発言にマリーが疑問を挟む。
エネルギー量を殖やすためにダンジョンを増設したのにマイナスとは納得ができない。
「無論です。ホモグラフト卿のダンジョンは開設したばかりですが善戦しておると言えましょう」
内務卿がモニターを操作しグラフを表示させる。
そこには72号ダンジョンの集めたエネルギー量が表示されていた。
「やっぱり増えてるじゃないか」
「左用、増えております。しかしこちらもご覧ください」
内務卿が再度操作をすると、画面が切り替わる。
次は増え続けるグラフだ。
見れば『領内消費エネルギー量』とある。
「こちらをご覧いただくと分かりますが、領内の魔導化が飛躍的に高まっております。こちらの図からは――」
内務卿の説明は続く。
マリーに詳細はよく分からないが『増えるよりも減る量の方が多いらしい』と理解した。
魔王が専門家になる必要はないのだ。
「ダンジョンは増やしたばかりだ。次は魔道具を規制するのか?」
「いえ、規制は下策。魔道関連は勢いがある産業ですからな。ダンジョン公社としてはエネルギー増産は可能ですかな?」
内務卿が水を向けると、ダンジョン公社のエルフ社長が「それでは、こちらの資料をご覧ください」とモニターを操作した。
見れば各ダンジョンから送られたエネルギー量が表になり並んでいる。
「ふーん、こうして見るとホモくんのダンジョンはまだ少ないんだな……ん? エネルギーがゼロのダンジョンがあるじゃないか」
「そうです。実は外部からのアクセスを全く受けつけなくなってしまったダンジョンがありまして、ダンジョンコアが回収できないのです」
マリーには意味が分からない。
なにか不調であるならば修理すれば良いのではなかろうか。
それともできない理由があるのか。
「実はこのダンジョンのマスターは極端な引きこもりでしてな。ここ数年は施工業者のメンテナンスやコアの交換くらいしか立ち入れなかったのですよ」
「ふむ、それでも解任されていない……つまり、結果を出してきたマスターだったわけですな?」
内務卿の質問を受け、エルフ社長は「いかにも」と頷いた。
「このダンジョンは6層、攻略対象は1層目の12レベルから6層目の24レベルと低いのですが、とにかく冒険者のボリュームゾーンを狙い撃ちにした造りです。それなりに繁盛しており、エネルギーも多量に生み出していたのです」
エルフ社長は一旦言葉を切り、コップの水をごくごくと飲んだ。
実にうまそうに飲んでいるが本当に水だろうか。
マリーはこのエルフ社長が大変な酒豪で、本まで出している有名な食道楽だと知っている。
「失礼、つまりこのダンジョンがマトモに稼働すれば増加した消費量のエネルギーは賄えましょう。次回以降も消費が増え続けるならばダンジョンの増設も視野に入れるべきかと」
「ふむ、しかしアクセスはできぬと聞いたぞ。冒険者に破壊されたとか、事故で壊れたんじゃないのか?」
マリーが疑問を口にするとエルフ社長は「たしかに事故の可能性はございます」と頷いた。
「ゆえに近くのダンジョンから調査に向かわせてはおりますが、ダンジョンマスターと連絡できぬために外からマスタールームに侵入するしかありません。そうなるとダンジョン攻略をせねばならず、調査は難航しております」
この言葉を聞き、マリーは即座に「ホモくんだ。ホモくんを派遣せよ」と命じた。
こうすれば解決するのだから考える必要もない。
「なりませぬぞ、ホモグラフト卿のダンジョンは公社のもとにあります。陛下が組織の序列を乱して命じてはなりませぬ」
「ホモくんなら解決するに決まってるではないか。新入りに功績を立てさせたくないならば他のダンジョンマスターも同行させればよい」
内務卿は「なりませぬぞ」と再度口にした。
エルフ社長は苦笑いだ。
「そのような情けなきワガママを申すものではありませぬ。ホモグラフト卿がいまの陛下を見てどう思うでしょうか」
「ありのままの私を受け入れ、敬うであろう」
この言葉に内務卿は呆れて大げさなため息をつき、エルフ社長は「ぶふっ」と吹き出した。
「承知しました。陛下からの『ご提案』は『前向きに善処』いたしましょう。内務卿、これでよろしいかと」
「すまぬなあ。陛下のワガママにも困ったものじゃて」
内務卿はぼやくが、マリーは知っているのだ。
この『じいや』は最終的にはマリーのワガママを許してくれるのを。
「うむ。なんなら私が『暴れん坊魔王』みたいに出向いてもよいぞ。スケルトンのスケさんはホモくんがやれば良い」
「なりませぬぞ、そんなもん記録に残せませぬ」
マリーが調子に乗ると、内務卿はすぐに叱る。
いつものことで慣れてしまった。
「それでは次の議題に移ります。次は新規事業の展開ですが――」
エルフ社長がニヤけながらも会議を進め、内務卿の興味はそちらに向かっていった。
(新規事業かー、ダンジョン攻略の動画とか面白いかも。あっ、グロは成人指定かな)
ぼんやりとダンジョン関連の新規事業を考える。
この思いつき、意外といける。
「ちょっといいか? 新規事業についての提案だが――」
意外なほどエルフ社長はマリーの提案にくいつきを見せ、予定の時間より30分もオーバーしてしまった。
会議は生き物、これはこれで仕方ないとマリーは割り切っている。
居住区に戻ると、妹のリリーが大勢のコックを集めてメニューの開発をさせていた。
ろくに包丁を握ったこともないリリーでもできる簡単で美味しい料理コンテストだ。
なにやらホモくんに手料理を振る舞う約束をしてしまったらしく、張りきっているのだ。
(はあ、彼氏がいていいなあ。私なんかオジイちゃんたちと会議してたのに……)
ホモくんが分裂してくれれば問題が解決するのだろうかと考え、無駄だと気がついた。
分裂させることはできなくもないが、ホモくんを分裂させてもリリーが複数のホモくんにチヤホヤされるだけであろう。
「はあ、彼氏がほしい」
最近、妹が構ってくれなくて寂しいマリーなのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます