23話 下 敵か味方か、黒い鎧の戦士っす

 翌朝、不審な冒険者たちは入れ替わりでキャンプを空けたが、これはおそらく開拓村に物資を補給に行ったのだろう。

 すぐに全員が集まり、再度ダンジョンに入るようだ。


「連日か……ご苦労なこった」

「ああ、昨日はボス部屋を2回も探ってたが見つからなかったようだな。こちらは少し肝が冷えたぞ」


 さすがに皆が退勤した後、マスタールームの入り口をベタベタ触られた時は少し緊張した。


「全く、昨夜はよっぽど飛び出してやろうかと……って何やってんだ!?」


 驚いた俺は思わず大声を出してしまった。

 例の冒険者たちはペンキのような黄色い塗料を壁づたいに塗りつけながら移動してるのだ。


「なんだありゃ!? さすがに放っとけねえだろ!」

「あんなのヒドイっす! でも、たしかに認識阻害の箇所であれやられたらどうなるか分かんないっす!」


 タックによれば想定外の事態のようだ。

 俺としてもダンジョンが荒らされるのを放置するわけにはいかない。


「ゴルン、浅いとこで迎え撃つ! 別の冒険者パーティーが現れる可能性がある、フル装備で出るぞ!」

「おう、支度はバッチリよ」


 俺とゴルンは急いで甲冑を身に着ける。


 俺は鉄靴てっか籠手こて」佩盾はいだて(太ももや膝を守るパーツ)、胴鎧を身につけた。

 愛用の長剣は左右の腰に佩く。


(コートは無いからな。これを身に着けておこう)


 軍だとこの上に部隊を示すコートを羽織るのだが、退役した今、それはない。

 いつぞや、試練の塔で手に入れたマントを鎧の上から羽織ることにした。


「ぎゃー、カッコいいっす! 敵か味方か、黒い鎧の戦士っす!」


 俺の鎧を見たタックがわけの分からない喜び方をし、ゴルンが「敵のわけないだろうが」とため息をついた。


 タックが言うように俺の鎧は黒い。

 本来、この鎧はミスリルでピッカピカの鏡面仕上げだったのだが……何度も傷や破損を補修してるうちに誤魔化しようがなくなってしまい、上から黒い錆止めを分厚く塗って粗隠ししてるのだ。

 しかも黒いマントを羽織ったものだから黒一色である。


 ゴルンは鎖帷子に胸当て、ドワーフの伝統的な角兜だ。

 背に戦鎚を背負い、左手には手斧を4本まとめて持つ。

 こちらは全体的にアダマンタイトと呼ばれる鋼色の渋い金属色だ。


「作戦はシンプルだ。片方がバカを排除をする。片方は終わるまで入り口を封鎖し、後続の冒険者を遮断する」

「よし、ワシが足止めをしよう」


 ゴルンは言うが早いか、転移ポイントの上に乗る。


「やってくれ」

「はい、入り口の外に3人組の冒険者パーティーを確認しました。アベレージは11レベルです。初めの分岐点に転移させます」


 リリー座標を指定し「ご武運を」と送り出す。

 だが、何も心配はいらない。

 レベル11じゃゴルンの手斧を防ぎきれずに即死だろう。


「よし、俺も頼む」


 俺は兜のバイザーを下ろし、転移ポイントに乗る。


「はい、5人組の後方、やや離れた位置に転移させます」

「了解だ。問題ない」


 この転移は、ダンジョン内であれば問題なく可能だが、侵入者と近すぎる転移は危険なのでやや離す必要がある。


 俺は5人組が前方に確認できる位置に転移した。

 転移には魔力光と呼ばれる現象があるため、彼らもこちらに気がついたようだ。


 俺は2本の剣を抜き、通路を遮るように左右に広げ近づいていく。


「おい、アンタ何のつもり――」


 先頭の盾を持つ冒険者が声をかけてきた瞬間、俺は左手の剣を投げつけた。

 剣は吸い込まれるように冒険者の首へ飛ぶ。

 だが、俺はその結果を見る前に走り出していた。


「うわっ! 何だコイツは!?」

「野郎、やりやがったな!」


 冒険者たちは身構えるが、いきなりのことに動転している。


 俺はそのまま冒険者の中に突っ込み、長剣を振るう。

 彼らの粗末な革鎧など、オリハルコンの剣の前では泥を裂くようなものだ。


 前衛の男は臓物をぶちまけ、悲鳴を上げながらこぼれ落ちた腸をかき集めている。

 斥候の2人は仲良く重なり合うように倒れた。両者ともに首はついていない。


(ふん、新兵以下だ。敵を前に無駄口とはな)


 両手を失った回復職の男は奇声をあげ走り回り、洞穴の奥でローパーに食われて死んだ。

 どうやら気が触れたらしい。


 俺は投げた剣を回収し、己の内臓を集めている冒険者の胸を突いてトドメを刺した。


(ふん、他愛もない)


 俺は剣をぬぐい、鞘に収めた。

 しっかり拭いておかないと鞘の中が臭くなって嫌な感じになってしまうのだ。

 後でちゃんとメンテナンスもしよう。


(お、そう言えば、コイツらの装備って宝箱で使えるかも?)


 防具は血まみれだし、盾と武器だけを回収することにした。

 大したものでもないが、これも節約術だ。


(まあ、こんなもんかな。マスタールームに向かうか)


 適当に回収が終わると、ちょうどいいタイミングでゴルンが現れた。

 特に怪我をした様子はない。


「おっ、終わったかよ。こっちも楽勝だったぜ」


 ゴルンはチャリチャリと音が出る袋を「ほれ」と俺に差し出した。

 成果を聞けば、ゴルンは冒険者を殺さず、金品を奪ってきたらしい。


 俺が「ひい、ふう、み……」と声に出して財布の中を確認すると、人間の通過で300ダカットちょいしかなかった。

 魔貨にしたら35000くらいかな?


「3人でこれか? ずいぶん少ないな」

「だろ? まだ持ってると思ってジャンプさせちまったぜ!」


 ゴルンのそれは完全にカツアゲである。

 だがまあ、冒険者を穏便に帰らせたのはファインプレーだろう。

 あまり殺しすぎては次の来場者が来なくなってしまう。


 そして……俺たちがマスタールームに戻ると意外なことに女性陣からは微妙な顔をされてしまった。


「ダンジョンで強盗が出たというのは来場者を減らす結果になってしまいます」

「信じられないっす! あんなに殺したら次が来なくなっちゃうっす!」

「あの、泥棒はだめですよ……返してきた方が」


 意外なことに俺たちの戦利品にも物言いがついた。

 しかし、冒険者の装備は放置しても朽ちるだけではないだろうか……見ればゴルンも隅っこでしゅんとしている。


「そうですね……5人もいたわけですし、全滅させなくても良かったのでは?」

「いや、半端に姿を見せて強力な魔族が守っていると知られたくはない。機密を重視したわけだ」


 俺は「アイツらからしたらマスタールームを探って強い魔族に襲われた、なんて不自然だろ?」とリリーらに説明し、一応は納得してもらった。

 ゴルンの方は『強いドワーフにカツアゲされた』という状況なので魔族は関係ない。


 しかし、ぶち殺した侵入者の装備を剥いだら『泥棒はダメ』と注意されるのだ。

 ダンジョンとは不思議な空間である。いやホントに。


 ちなみに奪った金は皆で焼き肉に行く軍資金とした。

 アンの歓迎会にちょうどいいタイミングだ。


 この歓迎会、残念ながら俺はちょこっと顔を出しただけである。

 ダンジョンを長く空けとくことはできないし、これは仕方がない。

 早く留守番が欲しいもんだ。



■リザルト■


冒険者レベル26(死亡)DP260

冒険者レベル25(死亡)DP249

冒険者レベル24(死亡)DP244

冒険者レベル20(死亡)DP199

冒険者レベル19(死亡)DP193

冒険者レベル11(負傷)DP17

冒険者レベル11(負傷)DP15

冒険者レベル11(負傷)DP16

滞在ポイント合計74


合計DP1267

残りDP8473

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