第11話 話をすると言うことは

「こっくりさんはお帰りになりました。他のお友達のところにも、もう出ないと思うよ」

 メグが太鼓判を押すと、美月は目に見えて安心した。膝から崩れ落ちそうになるのを、梅園と担任が支える。

「あ、ありがとうございます……!」

「一体どうやって?」

「校庭にお借りしたあの紙を置きまして」

 アサが説明した。

「久遠と佐崎で外に出るように誘導して、出てきた所を『お帰り下さい』と」

「ああ、なるほど。それで使った紙がないか聞いてたんですか……」

 梅園は納得したように頷いた。

「そう言うことです。美月さん」

「は、はい」

「五条の言うように、お友達の所に出ることもないとは思いますが、万が一何かあれば都伝に連絡してください」

「はい、これ連絡先」

「あ、ありがとう」

 メグが名刺を渡すと、美月はそれを受け取って、大事にしまった。同年代である彼女の存在は大きかったのだろう。

「今後も、オカルトに心引かれることはあるだろうけど、気を付けるんだよ。オカ研入ってもね」

「もちろんです」

 気楽な調子で告げられるナツの言葉にも、彼女はしっかりと頷いた。

「こっくりさんに誘われても絶対やりません。あと、オカ研は考えてません」

「まあ、普通に集団ヒステリーになることもあるからね」

「はい」

「受験だよね。頑張ってね」

「ありがとうございます」

 何か言いたくて、ルイはありきたりなことを言った。相談者と警察官というよりも、親戚の様な挨拶を交わし、校長に報告した。また調書に記載する内容を確認することもあるだろうが、今日はこれで一旦帰庁する旨と、何かあれば連絡して欲しいことを伝えてルイの名刺を渡した。




「それにしても、校庭のあれが間に合って良かったよ」

 運転をナツに頼み、ルイは助手席で呟いた。一般的に、車の上座は運転席の後ろと言われているが、都伝ではルイも含めて誰もそんなことにこだわらなかった。今はメグが座っている。

「50音は流石に諦めましたね」

 アサは肩を竦めた。メグがはしゃぎながら、

「アサ、渾身のドヤ顔だったね!」

 エアガンの使用と全校生徒の下校の他に、もう一つ取り付けた別の許可とは、消石灰によるライン引きの使用についてだった。職員室で借りたのは、ライン引きがしまわれている倉庫の鍵だ。アサとメグは、それを使って大急ぎで校庭に大きな「はい」、「いいえ」、鳥居の絵を描いたと言うわけである。50音は書く時間がなく、美月から預かった件の紙をその傍に置いて代用した。

「こっくりさんが元で大騒ぎになったし、友情にひびが入っちゃわないと良いけど」

「あの子たちなら大丈夫だよ。友達の机開けるのにちゃんと許可取るんだから。これからもやってけるって。人間関係って、合意の積み重ねだもん。話が通じる喜びを分かち合うのさ」

 ナツがハンドルを動かした。車道を走る自転車を追い抜く。

「それなら良いけどね」

 話が通じる。普段は忘れがちだが、それはとても尊いことだ。自分の意見を聞き入れてもらえる。それが、生きていく中でどれほど支えになることか。

(ああ、それじゃあ、うぬぼれかもしれないけれど……)

 自分がすんなりと、「具現化する都市伝説」の話を受け入れたことは、この3人にとって、何らかの力になったのだろうか。

「何にやにやしてんの?」

 ナツに言われて、ルイは自分がうぬぼれでにやけていたことに気付いた。慌てて真顔を作り、

「いや、桜木さんのドヤ顔見てみたかったなって」

「俺はドヤ顔なんかしてませんよ。五条が適当なこと言ってるだけです」

「えー? すごいタイミングでにやってしてたよ」

「ああ、アサ、そりゃドヤ顔だよ。庁舎に戻ったら再現して」

「馬鹿を言え」

「室長、命令して」

「それはパワハラです」


 これからも、自分たちは互いに自分の考えを伝え、話を聞き入れる努力をしなくてはならないのだろう。

 それが人間同士だから。

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