これからなにする?(1)


 *────



 惑星カレド地表面のとある脱出ポッドの内部。

 それは瞬きの間に行われた。

 空間の宙に、どこからともなくふっと現れた無数微小の青白い粒子が、

 くるくると渦巻きながら、人の形を形成する。

 そんな青白いヒトガタに、

 ぱりぱりと、どこかホログラフィックなエフェクトが覆いかぶさり、

 そこに現れたのは――



 *────



「たっだいまー」

「あっ、おかえり、なさいっ。フーガ、くん!」

「おっと、もしかして待たせた? すまんな」

「そんなこと、ない、よ?

 時間、たぶん、ぴったり?」


 ニューロノーツによりこの世界へと送り出された俺の視界が、パリパリという電子エフェクトとともに構成されていく。

 地味に今回がこの世界への直接の初だ。

 昔風に言えば初ログイン。

 俺から見れば目の前に世界が構成されていくように見えるが、

 まわりからは俺がここに転移してきたように見えるだろう。


 俺を迎えてくれたカノンの顔に、零れるような笑みが浮かぶ。

 そこに浮かぶ色に、ひとまずの安堵を覚え――それにしても。


 『おかえり、なさいっ』


 ……おかえり、か。

 そういや、もう何年も言われてないな……。

 いや、一人暮らしの自宅に帰ったときに、という区分でね。

 仕事先ではどっかで言われてるだろうけれど、それらは社交辞令としての挨拶だろう。

 そこを行くと、先ほどの『おかえり』には染みるものがある……。


「……あの、フーガくんを、待ってる間、に。

 脱出ポッドの中、いろいろ、見てた、んだけど」

「おっ、なにか面白いものあった?」


 やっぱりちょっと待たせてしまったのかもしれないな。

 彼女が、どれくらい早くここに戻って来て、

 いつから俺を待っていたのかは、わからないけれど。


「面白くは、ない、かも。

 でも―― 靴、とか、ベストとか、あったよ?」

「わお、まじでッ?」

「う、ん。まじ、だった」


 そう言って、カノンは洗浄室の隣の壁あたりに設えられた、なにかハッチのようなものを手前に開く。

 すると、なんということでしょう。

 そこには靴やブーツ、グローブ、ベストやズボンといった、初期装備の予備が、一式揃っているではありませんか。

 ブーツもある。革靴よりブーツの方がサバイバル適正が高そう。

 俺の初期装備は革靴だったが、カノンの初期装備はレザーブーツだった。

 初期時点では男女で分かれてるのかな?

 実用性を度外視しても、カノンはブーツの方が似合いそうだ。

 それだけではなく、資源採取に役立ちそうな革袋まで――


「……ん? なんで今作、最初っからこんなん用意されてるんだ。

 前作って、こんな恩情なかったよな?」

「えっと、拠点のコンソールを、弄ってて、見つけたんだけど。

 たぶん、外を出歩くための、最低限の、装備?

 こういうのがないと、戻された、ときに。

 人によっては、いぬつーだと、外に出られなくなっちゃう、から?」

「はー、そりゃそうだ」


 俺の死に戻り地点が頭がおかしかっただけで、普通のプレイヤーはみな、死んだら、自分の拠点に戻される。

 そのとき、死ぬ前に身に着けていた装備はもちろんすべて失っている。

 そこでもし「作ることができる靴がない」なんてことになったら、靴を作るための素材を得るために、裸足で外に出歩かなくちゃいけない。

 でもそこが砂漠だったら? 雪山だったら?

 人によっては外に出られなくなってかねない。

 そのためにも、初期装備は最低限の保障として拠点に備え付け必須というわけか。


「あー、でもここにあるの、当然カノン用の予備だろ?

 俺が貰い受けるのはさすがに申し訳ない――」

「えと、ここにあるの、製造装置が、定期的に、補充してくれる、って。

 なんか、合成してる、らし、い?」

「……、よし、頂こう。製造装置先生はすごいなあ」

「う、ん。ありがたい、ね」


 たぶんそこは気にしちゃダメなとこだ。

 俺はありがたく、カノンの拠点に備わっていた初期装備一式を借り受ける。


 こんなにありがたい、気配りが行き届いた拠点を、初手で失ったやつがいるらしいっスよ。

 やっぱバグはなにか大切なものを失うな……。

 等価交換で持っていかれたものは大きい……。



 *────



 最低限文化的な装いを取り戻した俺は、先ほどと同じように無骨な腰掛けを借り、カノンに話しかける。

 ちなみに、靴はブーツタイプのものを借り受けた。

 そこまで厚手ではないが、脛までをきちんと覆ってくれている。

 俺の初期装備だった革靴くんより、こっちの方が数段サバイバル適正が高そうだ。


「助かったよ。カノンが見つけてくれてよかった。

 ほんとは俺が見つけなくちゃいけなかったんだろうが――

 公式で情報確認してたらついつい時間が押しちまってな。

 特に目新しい情報はなかったけど」

「イベント、とか?」

「そうそう。パラダイムシフトとかこっちだとどうなってんのかなーって」


 敢えて言うまでもないだろうが、「パラダイムシフトイベント」の事だ。


「あっ、……確かに、そうだね?」

「どうも全着陸地点で同時に起こるっぽいぞ。

 どうせしばらくは起こらんだろうけど――

 どんなのが来るか、いまから楽しみだな、カノン」

「あっ――うんっ!そうだ、ねっ。

 わたしも、楽しみに、してる――」


 そこに浮かぶ安堵の色を見て、ひとまずは安心する。

 この言葉選びで間違っていない、と。


「パラダイムシフトはまあ、例外みたいなもんだから置いといて。

 『犬2』の最初のイベントはどんなんだろうな」

「『いぬ』の、さいしょのは、どっち、だった?」

「ああ、カノンはそこらへん知らないか。

 『テレポバグ騒動』あたりの参入だもんな。」


 ええと、たしか、


「1回目のイベントはカラミティ。つまり悪い方だったな。

 ザックリ言えば、異常進化した先住生物による拠点襲撃、って感じかな?

 イベント名は忘れたけど。」


 たぶん派手な光景のイベントにしたかったのだろう。

 それでいてかつ、プレイヤーの工夫次第で対処の仕方が無数にあって、それらの対処方法の実行が比較的容易で、プレイヤー同士の連携も取りやすくて、事前の準備が必須ではなくて、対処に失敗してもあと腐れが少ない。

 それが、そのような先住生物による襲撃イベントだったのだと思う。


「じゃあ、襲ってきたのと、戦った、感じ?」

「うん。戦った……というか、頑張って戦おうとした。

 プレイヤー側もまだこのゲームのノリを勘違いしてたから、『あいつらを撃退するイベントだ!』っていう機運が高まってな。

 石製の剣やら棒やらで殴りかかって……まぁ、当然のように返り討ちされてたな。

 イメージとしては『ジェヴォーダンの獣』……はちょっとマイナーか。

 日本人的にはアレだ、『三毛別さんけべつの羆』。

 あれが四つ足ついて襲ってくる感じ」

「あっ、それ、無理……」

「うん。まぁ人類が真っ向勝負で勝てるわけがなかったな」


 でかい。速い。タフい。三拍子揃った野生の獣。

 その時点で真っ向勝負はもう無理だ。

 それなのに、当時の俺たちは真っ向勝負を挑んでしまった。

 ゲームなんだから、ぎりぎり勝てるようになってるんじゃね、とか。

 なにか、そこをつけば簡単に倒せるような弱点があるはずだ、とか。

 こんなのがイベントだなんておかしい、なにか救済措置があるはずだ、とか。

 そんな予想は俺たちが都合よく作り出した幻想でしかなく、そのことごとくが裏切られた。

 俺を含む当時の多くのプレイヤーは、このゲームのことをまだ、よくあるMMORPGだと勘違いしたままだったのだ。

 すなわち、自分たちに襲い掛かってくる敵はモンスターであり、エネミーであり、倒せる敵であり、資源であり、ゲームとしてそうであるべきである、と。

 ……そういやプレイヤー間で「敵」だの「MOB」だのという通称が使われなくなったのって、このイベントのあとからだっけ。

 公式はもともとそういった用語をいっさい使っていなかったんだけどな。

 このイベント以来、不適切だってことでプレイヤーも使わなくなった。


「結局、真っ向勝負で倒せないなら、倒せるなにかが見つかるまで泥沼の籠城戦するしかないってことになってな。

 生き延びるための決死の資源採取部隊とか水汲み部隊とかが結成されて、死屍累々の被害(デス)を挟みつつ、人類側が生き延びてる間に……あれはたぶん餓死だったのかな。

 とにかくその異常種たちが衰弱死して終了」


 衰弱死の理由は、じつは最後までよくわからなかった。

 食い散らかした人間の血肉が合わなかったのかもしれないし、もとより自分の生存を支えられないような進化だったのかもしれない。

 巨体化して、必要なエネルギーが爆発的に増えて。

 凶暴化して、周囲の肉を手当たり次第に食い散らかして。

 それでもそのエネルギーが賄えないなら、もう死ぬしかない。


「それ、イベント、成功してる?」

「最終的に人類側が生き残ったんだからそりゃ勝ちよ。」


 当時俺が居を構えていた集落に襲来してきた先住種は六体だった。

 それぞれにアルファとかブラボーとかチャーリーとか個体名が与えられて、「アルファが来たぞ!」「ああ、ジョンがやられた!」とかやってたなぁ。懐かしい。


 今でこそいい思い出のように語っているが、当時の俺たちはそりゃもう必死だった。

 なにせ、自分たちよりも強い野生の獣との、いつ終わるかわからない生存競争だ。

 彼我の戦力差は一目瞭然、なにせその獣の腕の一振りでワンショットスプラッタ。

 パニック映画かなにかかよと思う間もなく、幾度ともなく惨殺されたものだ。


 調査隊を組んで様子を見に行ったら、いまだ湯気の立ち上る血だまりだけが残っていたとか。

 そこでビビってたら背後から強襲されて血だまりのおかわりとか。

 ようやく逃れたと思ったら、いつのまにか回り込まれたとか。

 そのときはじめて相手が単体ではなく群れであることに気づいたとか。

 ……うん、それに気づいた瞬間は、まさに絶望だったな……。

 絶望のあまり膝から崩れ落ちるなんて、あの時経験したのが人生初だった。

 そうして崩れ落ちているところに、獣の爪が俺の……いや、この辺でやめておこう。

 とにかくそのイベントで、俺たちプレイヤーは『人は巨大な獣に勝てない』という根源的恐怖を存分に刻み付けられた。


 そんな感じの死屍累々の初回イベントではあった。

 まさに天災カラミティの名に相応しいイベントであったといえよう。

 ……だが、悪いことばかりでもなかった。


「……で、その異常進化した先住種なんだが、イベント終了後にあらためてそいつらの出自の調査をしてみたら、もともとの生態はかなりおとなしかったことがわかってな。

 余計なことをしなければ人間には襲い掛からない。

 むしろ、ほかの獣を狩るための、牧羊犬みたいな役割ができるってんでな。

 あとは単純に、大きな四つ脚のもふもふ獣ってんでかわいかった。

 ってことで、そのイベントの後、そいつらを馴化……ようはそいつらと仲良くなろうぜって流れになったんだ。

 それがあの『アミー』だ。カノンも知ってるだろ?」

「えっ……あの、ふさふさの犬、みたいな?」

「うん、あいつあいつ。犬というか、狼というか……まぁあいつだ。

 あいつ、イベント当時は俺たちプレイヤーと殺し殺されの関係だったんだぜ?」


 アミーは環境への順応性が高いのもあって、惑星カレドのあちこちで飼われていた。

 カノンも含め『犬』のプレイヤーならば、一度は見たことがあるはずだ。

 アミーってのはちょっとかわいらしい響きだが……正式な名づけはもっと長い名前で、どこかの言語で友情という意味らしい。


 このアミーという名前だが、ちょっと素敵な逸話がある。

 もともと名もなき害獣であったアミー種は、そのイベント中は、化け物だの人類種の天敵だのと呼ばれ、恐怖の象徴として忌み嫌われていた。

 イベント後しばらくの間は、それらの名前で呼ばれていたのだが……。

 その獣を馴化するにあたって、新しい名前を与えることをとあるプレイヤーが提案したのだ。

 殺し殺されの関係から、自分たちと共生する関係へ。

 関係のかたちが変わるなら、それに相応しい名前を。

 そんな理由でどこかの誰かが名付けたらしい「アミー」という種族名が、ほかのプレイヤーたちに受け入れられたのだ。

 誰かさんの素敵なアイデアのおかげもあって、イベント中に俺たちプレイヤーを屠りまくったアミーは、イベント後には俺たちプレイヤーにかなり早く受け入れられた。

 サービス後期には、人間の友と呼んで差し支えないくらいプレイヤーに愛されていた獣だった。

 ……かわいかったな、あいつ……。


「でも『アミー』って、おっきくても大型犬くらい、だったよね」

「襲ってきた異常進化個体は、それを二回りか三回りでかくした感じでな。

 でかいやつだと四つ足状態で体高1メートル体長3メートルとかあったぞ」

「……どう考えても、勝てない、よね?」

「勝てるわけがなかった。でも、勝てると思っちゃったんだよなぁ」


 思い込みというのは怖いものだ。

 まぁ、イベントが終わるころにはそんな思い込みは粉砕されていたわけだが。


「イベントが終わってみれば、『アミー』自体が……イベント報酬って形だったのかな?

 とにかく俺たちプレイヤーは、そのイベントを通じて仲良くなれる先住生物と遭遇した。

 自分たちの対応次第では、仲良くなれる先住種も存在することに気づくことができた。

 イベント自体は災害的ではあったけど、それもまたプレイヤーに恩恵をもたらすことになったってわけだ」

「なんというか、プレイヤー、たくましい、ね?」

「あれでだいぶふるいに掛けられたというか、鍛えられたのは間違いないよな」


 『犬』世界の洗礼を受けたというか。

 こういう世界ゲームなんだとわかったというか。

 この星の上で生きるためになにが必要なのか分かった、というか。

 未開地サバイバルとか言ってもこんだけ初期設備整ってたらヌルゲーじゃん、とか言ってた層の鼻っ柱が折られた、というか。

 ああいう天災カラミティがあるからこそ、技術水準というのはより高きを求められていくのだと実感した。


 ちなみに俺はその鼻っ柱を折られた層にばっちり含まれている。

 あのときは俺も若かった。当時はまだ高校生だったしな。

 ……あれから八年かぁ。時の流れって怖い。


「じゃあ、今回、も?」

「そこまでは流石にわからんな。

 たぶん、派手なイベントで来るんじゃないかとは思うんだが」


 もしカラミティの方で来るとしたら、これから最初のイベントが発表されるその日までに、徐々に世界になにかが起こり始めるはずだ。

 そこから察することになる。

 そしてその情報収集のためには、他のプレイヤーとの交流が必要不可欠。

 つまりゲーム開始直後であるこの時から初回イベントまでは、くらしの安定とプレイヤー同士の交流網の構築の時期なのだ。



 *────



「さて、いつなにが来るかわからないイベントの話は置いといて、カノン。

 ……これからどうする?」

「えっ、と?」


 カノンが首をかしげる。ちょっと曖昧な聞き方になってしまったか。


「ゲームが始まったばかりの今、カノンはなにがしたい? という話だな。

 テレポバグが起こせない現状、俺もカノンも、しばらくの間は一般プレイヤーと同じだ。

 それまでは素直にこの世界を楽しむ感じになるんだが――

 カノンも、普段はどんなプレイスタイルで行くか決めなくちゃな」


 ひたすら資源を採取する、とか。

 ひたすら歩き回る、とか。

 よりよく過ごせる環境を整える、とか。

 気が向いたときに気が向いたことをやる、とか。


 たとえ「テレポバグ」がなくても、俺は『犬』というゲームが好きだ。

 カノンは「テレポバグ」を目的に『犬』をはじめたようなものだったけど、

 テレポバグ以外でも、このゲームを楽しんでくれれば嬉しいと思う。


「俺は前作でも発売のほぼ直後からやってたからな。

 前作と同じ事やるのもなんだし、

 今回はカノンのプレイスタイルで楽しんでみようかと思って」

「えと、――フーガくんと、一緒にできる、なにかがいい、けど。

 さいしょ、なにからやればいいのか、よく、わからない、かも?」

「あー、確かにカノンが参入してきたころは、既にそこそこゲームが進んでたもんな。

 わざわざ水の確保とかしなくても、誰かしらが水引いてたし。

 この手のゲームで最初なにをやればいいのかわからんってのはあるあるよな――」


 でも、あれ?


「ん? でもカノン、初期アイテムで魔法瓶選んだり、真っ先に水資源を確保したり、

 俺から見て、なかなかの玄人ムーブしてたように見えたけど」

「魔法瓶は、なんとなく、かも。

 水の確保は、最初にやると良いって、チュートリアルで」


 なんとなくかあ。

 カノンは今日も正しいな。


 そこで一つ、俺は自分の認識を改める。

 カノンは確かに生粋のワンダラーではあったけれど、

 紛れもなく『犬』に馴染んだ住人ではあったけれど。

 『犬』最初期の粗野な環境に順応したサバイバーではないのだ。

 「最初になにをすればいいかわからない」。

 そんな当然の疑問があってしかるべきなのだ。

 ゲーム開始直後の今、なにができるのか。

 それがわかっていなければ、プレイスタイルなんて決めようがない。


 俺が先導する、俺が楽しみ方を教えてやる、なんてことは言わない。

 というか、俺もまた生粋のワンダラーで、途中から「未開惑星サバイバル生活」を半分放棄していたようなものだから、そもそも先導することなんてできやしない。

 だが、わずかながら先達として、彼女がやりたいことを探す手助けくらいはできるだろう。


「うん、チュートリアル先生は頼りになりそうだな。

 他になんか言ってた?」

「水と、食べ物の確保、もあるけど、

 だいじなのは、衣食住の、改善?

 まず最初に、より過ごしやすい環境を整えるといい、って」

「チュートリアル先生は正しいなぁ」


 そりゃそうだ。これからはじまるのはサバイバル生活だもの。

 ましてや今作はフルダイブ、この世界における過ごしやすさの追求は喫緊の課題だろう。


「そのために、まずは製造装置ファブリケーターを使いこなそう、って。

 それにはまず、適当なものを分析装置アナライザーにかけてみよう、って?

 道具を使わなくても、この星から得られるものはたくさんあって、

 それらを加工すれば、より幅広いものを得られるようになるでしょう、って。

 最初におすすめなのは、木、とか? 石、とか?

 ものによっては、うつわとか、刃物とか、作れるでしょう、って」

「うぉーすげぇ、ちゃんとしたチュートリアルだ……」


 すごいまともだ。

 『犬』をやったことのないプレイヤーでも、徐々にこの世界の楽しみ方が実感できるような段取りになっている。

 そりゃあ、あるよな、その手のチュートリアル。

 あってしかるべきだ。


「じゃあ、チュートリアル先生の導きに従うなら、

 衣食住の改善を当面の目標にして、そのためにいろいろ動いてみる、と。

 カノンはそれでいいか?

 別にチュートリアルに従わなくても、たとえば、

 『北に向かってひたすらまっすぐ歩いてみる』みたいな遊び方もできるけど」

「んぅ? フーガくんは、そういうの、したい?」

「すまん今のは失言だ忘れてくれ。

 昔の――検証スレのあいつらからの電波を受信しただけだ。

 俺はそんなアホみたいなことをカノンに勧めるつもりはない」

「んっ、すごいヒト、いっぱい、いたね?」


 お手製の迷彩服を好んで身に着けていた男の姿を思い出す。

 余計な電波飛ばしやがってあの野郎。

 お前のその自称、技能フル活用と死に戻り前提のクレイジーミッションじゃねぇか。

 なんだよ「道具は使っちゃいけないんだ」って。

 「どの技能の組み合わせを選べばもっとも遠くまで行けると思う」って?

 そんなこと聞かれても俺に分かるわけねぇだろうが!

 でも登攀と跳躍は欲しいよね! あと投擲もくれ。


 必死で電波を振り払っていると、カノンがこんな提案をしてくれる。


「んと、じゃあ、まず、服、作るの、どう?」


 ほう、カノン先生、その心は?

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