第17話 双子は見た目は同じだが中身も同じとは限らない③
「私の腕の見せ所ね!」
メアリーが張り切って言う。俺達は今、どういうわけか玩具屋の店主であるモランの妹探しをする事になった。ちなみに妹はヤバい。はっきり言ってクレイジーだ。どれだけヤバい奴かと言うと、その辺の人間を拉致して砂にしたり稲妻に変えたりするイカれた女と言えば良いだろうか。
「でも、一体どうするの?最後に送られたのはさっき見せた動画だけで、場所の特定も出来ないのに……」
モランが首を傾げながら言う。
「私はアクション映画の中で例えれば椅子の人よ!」
「椅子の人?」
「目の前のパソコンをカタカタ打って敵の情報を分析し、場所や弱点を調べる役って事よ!」
メアリーはどこからか取り出した眼鏡を掛けてクイッと指で動かしながらもう片方の手でパソコンを打つふりをした。
「いつからお前はパソコンが得意なオタクになったんだよ」
いつの間にかジョブチェンジしていたメアリーはフランを探す呪術の準備をしていた。地面に木の棒で何かを描きながら片手で祭り道具らしき謎の鈴をシャンシャン鳴らしながらブツブツと何かの呪文を唱えていた。
しかし、今まで俺はコイツの事を人を呪う能力があるだけの女かと思っていたがまさか人探しも出来るとは思わなかった。呪術とは案外奥が深いのかもしれない。
「いやぁ凄いな呪術は!」
ダンゲルがメアリーを関心を持って褒めた。それに対してメアリーはにへらと顔を緩ませた。褒め慣れていないのか?
「や、やぁね……お世辞なんて……」
「そんな事はない!先程の砂男の動きを止めた時も凄かった!アレがなければ俺とカナデはどうなっていたか分からない!君の力は凄い!」
ひたすらダンゲルは褒めに誉めた。それに比例してメアリーはもっと顔を赤くさせ、手で顔を隠した。
「お前ってキャバ嬢向いてそうだな」
褒めるのが上手いダンゲルに俺も何か褒めてやろうかなと思い、なんとなく言ってみた。
「キャバ嬢ってなんだ?」
そもそもキャバ嬢という単語を知らなかった。
「御影様、貴方絶望的に誉め方が下手くそですね」
「やかましいわ。なあ天使、ここは俺達の世界の文化ってどれくらい根付いているんだ?」
俺は天使に聞いてみた。最初に来た時には街頭テレビがあったり元の世界と同じような食べ物があったりと結構見劣りのない光景だったので少し気になっていた。
「そうですね…ある程度は浸透しているとは思いますよ。ですがそれではこの世界の景観を損ねてしまいますから建造物などは元のままの方が多いです。貴方達が見たあの建物は一部分に過ぎませんから」
と簡潔に説明してくれた。言うなればアレか、京都のセブンイレブンのような地元の雰囲気に配慮したような作りが多くて俺達が見た景色だけが全てではないということか。
「それにしても呪術ですか……なんというか、旬ですね」
「何がだ?」
「今人気の週間少年ジャンプの漫画ですよ!アニメ化もしたあの!」
さっきから何を言ってるのかさっぱり分からん。天使がジャンプの話してるのもさっぱりだがもう段々慣れてきた。慣れが怖い。
「悪いがジャンプは最近読んでないんだ」
「そんな!なんでですか!?」
「もう脳年齢が老化してきてな……最近の奴は受け付けないんだ」
「貴方まだ高校生ですよね?」
まぁ読む気力が無いというのは正解ではあるが、もう一つ理由がある。ああいうトレンディー(死語ではないと信じたい)な漫画やアニメ、創作物等は人間だけでなく幽霊という例外もめちゃくちゃ好きなのだ。
俺がコンビニに用があって入った時、ジャンプを立ち読みしてた20代のサラリーマンの後ろには20人以上の幽霊達がぎゅうぎゅう詰めで盗み見していた。それ以降最近のサブカルチャーには手を出しにくくなり、ついでに月曜日の朝のコンビニと本屋にもあんまり行きたくなくなった。
「ちょっと!あんなしょうもないのと一緒にしないでくれるかしら!?」
メアリーが意外にも反論して来た。案外漫画が好きそうな気がしていたのだが彼女は好きではないのか?
「本ッ当に勘弁してほしいわ!あの漫画のせいで必ず聞かれるのよ!『呪術って妖怪倒せんの?』とか「領域展開出来るんでしょ?』とか!呪術をバカにしてんじゃねぇよ!!」
メアリーはキレ散らかしながら呪術の準備をしている。というかさっきから一体何をしているんだ?俺には土いじりしてるようにしか見えないが……
「呪術は、人を殺すも活かすも出来る力。一度でも力の使い方を誤れば、心を呪いで蝕まれるの……あ・の・人・み・た・い・に・」
「あの人……?」
「…準備出来たわ。モラン、円の中に入って」
俺はオウム返しで聞いたが、答えが返ってくる事はなかった。
モランが円の中に入ると、メアリーは腰につけていた鞄の中から化粧品を取り出した。白い塗料と赤い塗料、そして黒の塗料。それらを自分の顔に塗りつけた。
「お、おい。何してんだ?」
「儀式の前のお化粧よ。これをしないと……」
「しないと?」
「死ぬわ」
「死ぬの!?」
メアリーはさら謎の香水をシュッシュッとかけ、先程の鈴のついた道具を持った。
「さっ、これで今度こそ準備良しよ。それじゃあ始めましょうか」
ついに準備を終えたメアリーがぱんぱんと手を叩いた。今のメアリーはまるでなんというか……
「ジョ…ジョーカーじゃん……」
そう、顔が完全にあの道化王子だったのだ。怖い。俺はピエロが苦手なんだ。スプラッタ系のホラー映画や殺人人形、モンスターが出てくる奴は軒並みNGなのだ。
「えっ?ちょ、ちょっと?なんで引いてるの?」
「や、やめろ……これ以上寄るな……」
「……!」
俺は彼女にそう頼んだが、何故か彼女はジリジリと寄ってきた。なんだ、息が荒い。そして俺は怖くて身体が上手く動かせない。
「おい!やめろ!来るなって言ってるだろ!?」
「ハァ…ハァ……!なんだが興奮してきたわ……!」
クソッ!なんでこんなタイミングで発情してんだよ!頼むから時と場所を考えてくれよ……!
「あの……準備が終わったのなら早く始めてもらえないかしら?」
後一歩、といったところでモランがメアリーに早く儀式を始めるよう急かした。
「そ、それもそうね!早速始めましょうか!」
間一髪で俺はメアリーの魔の手から逃れる事ができた。モランが喋らなければ、俺は奴にエゲツない目に遭わされていたかもしれない……
「モラン……お前は良い奴だよ。本当に……」
「えっ?あぁそれはどうも…?」
彼女には借りができた。この恩はいつか必ず返す。
「それじゃあ手順を説明するわ。まずこの儀式はティアラ様の力の一部をお借りして探したい人物の位置を割り出すの。さらにそれだけじゃなくて相手の五感を共有し、今何をしているか何を考えているか、さらに過去の記憶まで見ることができる。どう?凄いでしょう?」
メアリーは淡々と説明してくれた。凄い能力だ、一方的に位置を割り出してこちらには何のダメージもない。本当に凄い力だ。
「お前、そんな便利な能力があったのか!今まで俺はお前の事をファッションヤンデレポンコツ呪術師だと思ってたが今回ばかりは本当に凄いぞ!」
たまには褒めてやるのも仲間兼相棒の役目だ。俺は興奮しながらメアリーを褒めた。彼女は最初のうちだけキメ顔をしていたのだが砂の城のように徐々に崩れ、最終的にエヘエヘと恍惚的な表情になってしまった。
「も、もう!褒めても何も出ないわよ?あっ、愛情以外はね……」
「貴方達本当に仲がいいわね」
未だ蕩けきった表情を元に戻さず、デレデレしてるメアリーを白い目で見ていたモラン。
「そ、そうかしら?まぁそうよね!なんたってここには皆の期待に応えるエリート呪術師がいるものね〜〜〜!」
完全に皮肉を込めていったのだろうが、全く意味を理解していないメアリー。表情を戻すのに数秒を要し、ようやく儀式の準備を済ませ、キリっと澄ませた表情になった。
「さぁやるわよ!」
メアリーの掛け声に、モランは無言でうなづいた。
メアリーは両手で鈴のついた道具を掲げ、未知の言語で天に仰ぎながら呟く。
「ヌ・ボルタラ・ドゥ・ゲンド・ティアラグ・ガイ……」
シャンシャンと鈴を鳴らしながら呪文を呟くメアリー。その姿は普段俺を困らせ引き攣らせ憔悴させるネジが数本飛んだようなヤンデレの姿は無く、さながら御仏にお祈りをしている麗しき巫女のような姿だった。
少し雲があり、青を十分に見れなかった空は通常よりももっと速い速度で雲を邪魔だ邪魔だと押しのけるように消え、真っ青な空になり、太陽は燦々と燃えるように輝いた。
「ズリーズ・ズリーズ!ゲンド・ガイ・ドブ・ドルーズ!」
カッと目を見開き、鈴をさらに天高く掲げ、祈るように見つめた。
その瞬間、一瞬だったが俺達の周りが真っ暗になった。
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視点は変わり、メアリーとモランはフランの中へとダイブした所から始まる。
『あぁもう!こんなんじゃダメよ!地味すぎる!もっと凄い物を作らないと!皆が私を忘れないような素晴らしい発明を!』
フランは焦っていた。何かに追われるように頭を抱えながらガリガリと筆で何かを乱雑に書いていた。
「これが、フランの視点?」
モランは誰に聞くでもなく確認するように呟いた。目の前にはテレビがあった。古いタイプで今時のような薄い板ではなく、分厚く、重そうな昔ながらのテレビだった。見続けているとフランの見ている物、考えていること、感じていること全てがモランに流れ込んで来ていた。
「いいかしら?ここはモランの今行っていることをリアルタイムで追跡出来る場所よ」
メアリーはモランにそう語りかけた。だがどこにもメアリーの姿はいない。
「ちょっと!どこにいるのメアリー?」
「ここにいるけどここにはいないわ」
「いや普通に私の後ろにいるでしょ」
と思わせておいてモランの背後にいた。囁くように言っていたが吐息も聞こえて気配もあったため秒でバレた。
「普通の人が分かるように言ってくれる?私は貴方みたいな不思議ちゃんじゃないのよ?」
「ちょっと!?酷いこと言わないでよね!…私達は意識だけここに辿り着いたの。場所はもう特定した。でも長い間はここには居られないから出来るだけ早く彼女の目的と原因を探すのよ。わたしは五感を担当するからあなたは記憶と感情を探して。いい?」
メアリーの言葉に、モランはうなづいた。
「記憶の探し方は簡単。周りを見れば光があるから、その光に近づけば記憶の断片を見ることが出来るからね」
メアリーはそれだけ言うと目を閉じた。
「さぁて貴方は一体何をしようとしているのかしら?」
メアリーはフランの視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚を共有し、フランに限りなく近づいた。今のメアリーはフランそのものだ。
『次の……次の段階に進むしかない』
フランは謎の焦燥感に駆られながら次の段階とやらに移行しようとしていた。彼女の目に映ったのはたくさんのモニターだった。モニターの中には沢山の文字が羅列され、研究のデータのような物が表示されていた。
さらに、どういうわけかメアリー達が暮らしているサンゼーユの街全体の地図も表示されていた。
『この粒子を人体に浴びさせれば能力は発現させられる……後は拡散装置を組み立てるだけ……』
フランはモニターを時折見ながら呟いていた。チラリと見ては、キーボードをカタカタと鳴らしながら指で叩いている。入力してる内容も分からないメアリーにとっては何をしているのかさっぱりだった。
『魔法人間の元になる粒子を作って、それをサンゼーユ中の人達に摂取させられれば……私もお姉ちゃんと同じように……!』
メアリーはフランの鼓動が速くなるのを感じた。そして多幸感がさらに高まり、嬉しさで汗がジトリと直で感じた。
「モラン…貴方の妹思ってたよりヤバい事考えてるわよ……!」
メアリーはフランの恐ろしい計画を曲がりなりにも理解した。彼女は砂人間や雷人間といった超人を街全体の規模で作るつもりだ。こんな事を野放しにすれば一体どれだけの被害が生まれるか分からない。早く止めなければとメアリーは考えた。
***
視点は変わり、モランはフランの記憶を探していた。何故こんな事をしたのか、モランには全く分からなかった。記憶に触れれば少しは理解できるのだろうかとモランは不安に思っていた。
するとメアリーが言っていた通り、目を凝らすと鈍く光る小さな灯りが見えた。
「あれがメアリーの言ってた記憶の断片かな?」
モランは光に少しずつ近づいた。すると光は徐々に強くなり、モランの周りを包み込んだ。
「うわ眩し……!」
モランは咄嗟に目を瞑った。だが一瞬だったため、すぐに目を開けると、今まで真っ黒だった空間から一変していた。
「あ、あれ?今まで周りは真っ暗だったのに……しかもここ私の家!?」
モランは気づけば家の庭にいた事に、そしてここが自分の家だと理解した。だが今の家ではない。かつて子供の頃家族と住んでいた、懐かしい景色だった。
「凄い…昔と全く同じだわ……!何で植えたか分からない無駄に大きい木!何で買ったか分からない悪趣味なおもちゃ!何で読んでたか分からない全然タメにならない自己啓発本!…今思えば本当に何でこんな物が家にあるか分からないわね……」
せっかく懐かしの家にやって来たのに急にナイーブな気分になったモランは自身の目的を改めて思い出した。そうだ、フランがこうなったきっかけを調べなければ……!と。
モランは家の扉を開け、玄関へと入る。中に入ると二人の男女の声が聞こえた。
『貴方ー?私の本を知らない?』
『えっ?もしかしてあの【女の興味を財布の中身からパンツの中身にすり替える108の方法】ってやつ?庭に置きっぱなしだったような……そもそも誰も読まなそうだし娘達には悪影響だから捨てた方がいいんじゃないか?』
父と母だ、とモランは確信した。そして庭にあったあの謎の本のタイトルも明らかになった。何故あんな自然素材の無駄遣いのような本が家にあったのかは謎だが、モランはこっそり隠れていた。
「こ、これは隠れた方がいいのかな?そもそも記憶の中だから動き回ってもいいのかな?」
モランが判断を決めかねていると、目の前に彼女の母が現れた。
「うわっ!」
『それがねぇ、結構タメになる事が書かれてるのよ。女の心理が事細かく記されててこんな女にならないよう気をつけよう!って気になれるのよ』
だがモランの母はモランを貫通したまま通り抜けていき、庭へと出ていった。
『あんなの資源と金の無駄だろう……』
モランの父は呆れながら呟いた。モランも「それは私も同意するしかない」と聞こえないとは分かりつつもうんうんとうなづきながら言い、2階へと上がっていった。2階には私のの部屋があったはず、と思い出しながら階段を上がる。
『それでね、その本に書いてあったのよ。【女は金持ちの男が好きだがイケメンとスポーツが出来る優秀な男にはすぐについていく。なのでまずは顔面を変え、何かスポーツに励むべし】って!コレって本当なのかな?』
幼少期のモランが一人で喋っていた。正確には彼女の中にいる妹であるフランとだが。
『お姉ちゃんその本は興味ないかな』
『ええっ!?』
フランはあっさりとモランの言葉を一蹴した。
『じゃあ次は【ババゴリアンでも分かる!ゼロから始める魔法入門書】を……』
『それも興味ないかな』
『そんな!?』
フランは残酷にもモランの読んだ本の話題をゴミを捨てるかのように切り捨てた。現在のモランも「何故私はこんな本を読んでいたんだろう」と自分で後悔していた。
『じゃあ話題変えよっか……フラン。もし、もし自分の身体があったら…何がしたい?』
と、いきなり幼少期のモランが核心をついたような事をフランに聞いた。フランは『う〜ん』と考え込んだ。
『分からない。考えた事もなかったな。特にないかも』
『またまた〜。何かしらあるでしょ?お腹が爆発するくらい料理を食べたいとか、目が枯れるまで本を読みたいとか足がボロボロになるまで大地を踏みしめたいとか!』
『そこまで自分を苦しめたい願望はないかな』
明るく話すモランに冷静な返しをするフラン。昔の私はこんなにもアホだったのかと現代のモランはため息をこぼした。
『本当に?本当にないの?』
『うん…ないかも。ごめんね』
フランは申し訳なさそうに謝り、『そっかー』と返すモラン。
『…私はいつかフランの身体を作ってみせる。そしたら『私の自慢の妹のフランはここにいる!』って皆に言うの!』
モランは意気揚々と将来の夢を語る。そうだ、私の原点はいつだって妹のためだった。妹のためだったらどんな辛い事だって耐えられるし、実際研究していた時は大変だったけど楽しかった……とモランはフランの記憶の中で思い出していた。
『だから……私の妹なんだもん、私の発明を超えるような発明をしてほしいの!私が貴方にしてあげるように、誰かのためになるような素敵な発明をして欲しい。これならどう?』
『……!』
モランは笑顔でそう言った。もっとも心の中で会話しているため、笑顔は必要なかったがフランはモランの話を聞いて、何か感銘を受けたようだった。
『分かった。私、お姉ちゃんを超えるような発明をする!皆に私の存在を知ってもらうような凄い発明をする!』
フランは明るい声でそう言って笑った。彼女には顔が無かったが、モランは今の彼女は笑顔で微笑んでいることはすでに分かっていた。
「もしかしてフランは子供の頃からずっとこの夢だけを実行しようとしていたの……?」
記憶で出来た部屋は消え、辺りは再び暗闇に戻った。
「モラン!」
「メアリー?そっちはもう終わったの?」
「もうここから出ないと!」
「え?そ、そうね!確かフランが危ない事を……」
「それもそうだけど違うわ!奴ら……メモリーレイスが私達を嗅ぎつけた!」
「えっ?」
そこにメアリーが現れた。メアリーは必死な形相で儀式の最中に唱えていた呪文を早口で言い終え、モランの手を掴んだ。そして、メアリーの言う通り、彼女の後ろには死神のような恐ろしい姿をした異形の存在が近づいていた。
「ギャアッ!?」
「いい驚き方ね!私も初めてやった時貴方にも負けないような顔をした物だわ!」
「そんな事より早く出してよォ!?」
「目をつぶって。そしてここから出るイメージをするの。いい?」
「いいわよ!」
メアリーとモランはお互いの手を掴み、目をつぶってここに来る前の外の風景を頭に思い浮かべた。
すると身体が羽のように軽くなり、上昇しているような感覚になった。
「絶対に目を開けちゃダメよ!開けたらアイツ等があっという間に追いつかれてずっとこの中で彷徨い続けることになるからね!」
「わ、分かったッ!」
メアリーの警告をしっかりと聞き、メアリーの手をガシリと掴み自分の目をギュッと瞑った。
「オアァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
死神の嗚咽のような叫びが聞こえた。モランは「ヒィィィィィィィィ!」と怯えた。
「あばよとっつぁ〜〜〜ん!」
「今ここでモノマネするゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!?」
ルパン3世の微妙に似てるような似てないような声真似をしながらこの空間から出ていった、、
********************************
やがて上に昇るような感覚は消えた。だがモランはメアリーに言われた通り、まだ目を瞑り手を握っていた。だが。
「モラン。もう手を離しても大丈夫よ。現実の世界に戻ってきたわ」
メアリーが安心させるように言う。ここは現実、ここは現実……モランは自分で念仏のように心の中で唱え、少しずつ目を開けた。
「ねっ?大丈夫でしょ?」
モランの目の前には真っ白な顔面に目元が黒く、赤い口紅をつけたピエロのような顔の女が肩を掴んで笑顔で笑っていた。
「ヒィィィィィスレジャァァァァァァァァ!?!?!?」
直後モランはあひあひと痙攣しながら気絶した。
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