豆腐でカサ増しするのが良い。

久納 一湖

羊たちは沈黙(飲食)

 とある日の都内某所、住宅街を抜けた先にあるモンゴル料理の店だった。会社の集まりで食事をした。モンゴル料理といってもメインは羊肉だった。私は北海道出身でもともと羊肉になじみがあるため、楽しみにしていた。


 店に入ると薄暗い照明が異国情緒を醸し出していた。私たちは案内された席に腰かけてひとまず飲み物を頼んだ。私はお酒が飲めないので、現地っぽいドリンクを頼んだ。ラッシーに近い味だった気がする。


 乾杯をすると料理が運ばれてきた。大皿に骨付き羊肉が豪快に盛られていた。初めての光景に全員が目を丸くした。「すごいね」なんて言って。するとナイフを手に取った嶋田久作似の店員さんがビニール手袋をはめ、骨付き肉を片手で掴み取り肉を削ぎ落したのだ。肉を削ぐなんて言葉、進撃の巨人以外で近年は聞かないけど、削ぐ場所がちょうど首から肩にかけての部位だった。つい、うなじを探してしまう。

 硬いナイフと骨が接するとギリギリ音がして、なんとも猟奇的な雰囲気であった。みんながそれを見つめていた。


 削いだ肉をつまむ。小皿に用意されたタレをつけて、口に放り込むと鼻に抜けるのは野生のにおいだった。草原を行き交う獣のにおい。

 そうか普段、私たちが食べていたあの羊たちはきっと日本人向けに飼育されておいしく加工されていたんだ…なんて思いながら無言になる。隣の女性社員に目をやると、俯いてあまり動かない。電源が切れたみたいだった。何か別の飲み物を勧めたけど首を横に振った。すでにギブアップらしいが、今度は鍋が運ばれてくる。モンゴルの伝統的な音楽の演奏も始まり、異国のもてなしを堪能に味わった日だった。


 食文化って様々だなと改めて思った。日本の納豆も、においでびっくりする人いるものね。クセの強い食べ物を好む人は、恐らくあの羊肉は口に合うかもしれない。

 強烈だったけど、羊肉は今でも好き(ただしジンギスカンかラムしゃぶ)。

 

 ちなみに翌日出社したら、みんな口の中はまだ獣臭いって言ってた。

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