第47話 期待以下の思い出作り
限界だった。これを我慢してしまえば、間違いなく体外に溢れ出してしまったに違いなかった。
もちろん、自分自身の恥と衛生上の問題のアレのことに過ぎない。
そんなことにならない為にも、なりふり構わずに動き出した。
それなのに、何でこうなった――
「その汗はどういう意味の汗なんですか? きちんと答える余裕があるようなら、私は多分怒らないと思います」
「…………あ、ああぁぁぁっ……い、いいいぃぃ」
「何ですか? 幹くんっていつから感じやすく……えっ!? ちょっと、顔が青くなってますよ? 幹くん、どうし――」
「モルモルモルモル……」
せっかく押し倒したところで申し訳なく思うが、リンを押し倒した状態で漏らしてしまえば、間違いなく出禁を喰らう。
そうじゃなくても変に誤解させる汗を彼女の顔に垂らしているというのに。
「え――あっ……は、早くっ! 行って来てくださいっ!!」
「――!!!」
尋常じゃない汗を流しまくったことで、ようやく気づいてくれたらしい。
俺は急いでトイレに向かった。
しばらくして――
「トイレに行きたいなら行きたいって、言ってくれれば良かったじゃないですか! どうしてそんなに我慢してまで……」
すっきりして戻って来た俺に対し、まるで責任なんて感じていないようなことを言い出した。
元はといえばリンのせいでこうなったのに。
そう考えると無性に腹が立って来た。
しかも何事もなかったように、服をきちんと着ている。
「リンが悪いんだぞーー! リーダーの俺を拘束したどころか、閉じ込めて身動きまで封じるなんて一体何を考えてんだよ! 今日こそはっきり言わせてもらうからな!!」
バーチャルリーダーとはいえ、俺の言葉には反論すら許されない。
そう思っていたら、リンはうつむいてしばらく何も言わなくなった。
どうやら本気で反省をしているらしい。
こっちとしても手荒な真似さえしてくれなければ、そこまでぶち切れるつもりは無かった。
「…………」
「ま、まぁ、リンが悪いのは明白だったわけだし、俺としても全く許さないわけでは――」
「それだけ……ですか?」
「え?」
「被害者ぶって、言いたいことはそれだけですか? ねぇ……幹……くん?」
「も、もしかして、怒って……る?」
俺が被害者には違いないのに、どう見ても怒りで我を忘れかけているのはリンのようだ。
一方的にやられただけの俺に何故怒るのか。
「最っ低なんですけど!! 幹くんは何っにも分かってないです! 拘束するのだって色々準備が大変だったし、VRだってそうだし、私がどれだけ万全の思い出を作ろうとしたか全……っっ然!!」
これは本気な奴だ。そして俺から何を言っても通じない。
「思い出って何の……」
「それをリンの口から言わせるつもりですか?」
思い出といえば、みこさんから受けた膝枕などなどが思いだされる。
しかしリンが作りたい思い出は、一体何なのだろうか。
「い、言いたいのなら、是非とも……」
「最低です!! 幹くんの私への扱いが何から何まで最っっっ低!! どうしてこんなにまでしているのに、ちっとも分かってくれないのか幹くんの頭を疑うレベルです!」
何という言われようだ。
そこまで言われるなんて、言いたいのは俺の方だというのに。
「そこまで言うことは無いだ……ろ――っ!? え、な、何で泣いてん……の?」
「幻想の中の思い出を美化しすぎただけなんです。でも、――に、なっちゃってから嘘はつけないし止められないしで、リンもどうすればいいのか分からなくなっただけで……ぐすん」
一気に罪悪感が出て来た。何もしてないはずなのに、思いきり悪者になった感じだ。
今が何時で昼なのか夜なのかも分からないが、朝から拉致られた挙句に俺が悪者とか笑えない。
「えーと……悪いのは俺……かな?」
「ううん、リンと幹くんだけです」
「そ、そうなると、どうすれば解決に向かうのかな?」
「してくれたら解決します」
「……な、何を?」
「それも私から言わす気ですか?」
拘束VRから噛みつかれの流れからの泣かせコンボで、かなりピンチなのでは。
解決への答えをとにかく考えよう、それしかない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます