第28話 手招きさんの救出作戦

 う~ん……抜け出せない。

 これは困った。もしヒナと二人きりだったなら、今されている状況はオイシイ展開だったに違いない。


 ただし適正な力加減に限る。

 ヒナは俺の首に腕をかけながら、ギリギリギリ……と少しずつ力を入れながら落としに来ているようだ。

 何をされるのかは想像したくないが、たとえ落とされても変なことはして来ないはず。


 しかし問題は、この生徒会室内には義妹の一樹いつきがいることだ。

 一樹も参戦してくるとなると、もはや逃げ道も無いわけで。


 まして一樹は、俺への想いがいつの間にか増長。

 危険な一線を越えようとしているに違いないのだ。


 とにかくこの場から逃げたい。いや、逃げよう。

 どんな手段を使っても、ハーレム空間から脱出しなければ。


「あれっ? 幹くん、もう落ちちゃう系? ゲームの中じゃ最強だったのに、情けないなぁ。でも、ヒナの締め技で落とされた後には、いいことしてあげるよ~」

「……(返事が出来ない)」

「マジなのかな? まだそんなキツく絞めてないんだけどな~」

「駄目!! 緋奈! ミキちゃんから離れて! ミキちゃん苦しそうなんだよ?」

「え~? 手加減してるんだけど?」

「それ以上やるなら、わたし本気出して緋奈を――」

「あれ、マジになっちゃった? ごめんごめん、いっちゃんと争うつもりなんて無くて~」

「じゃあ今すぐミキちゃんを解放して!」


 どうやら真面目に落とされたらしい。

 リアルの俺なんて、所詮非力でこの前までぼっちだった男。


 攻略組の彼女たちに近づかれたところで、今に冷めて離れて行くのがオチだ。

 このまま気を失って、情けない姿で運ばれるのも悪くはない……。


「(こっち、ほいほい。イツキくん、こっちに手を近づけて下さい)」

 ……ん? 何かどこかで招き猫な手招きが見える上、幻聴まで聞こえている。


 俺の体はヒナの締め技から解放され、情けない姿のまま床に寝ている状態だ。

 幸運なことに、一樹とヒナが口喧嘩を始めていて、俺が見えている手招きは見えていない。


 手招きの先にいるのが安心かどうかは不明だが、生徒会室ハーレム空間から出られるなら。

 そう思いながら寝そべった状態で腕を伸ばし、声がする方に手を近づけた。


「(イツキくん、駄目ですよ? 放課後は私と――なんですから)」

 などとよく聞こえないまま、ズルズルと引っ張られていく。


 そしてそのまま、何とか生徒会室から脱出出来たらしい。

 放課後に何だったか、忘れたけどとにかく助かった。

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