第18話 罪深きひと口

 正直言って攻略組パーティメンバーの大部分は、ネカマなのだと思いながら、ハーレムパーティを作っていた。


 たとえ中の人が同性の野郎であったとしても、キャラが綺麗で可愛くて、おまけに性格が良い……それはそれで最高じゃないか。

 ……そう思いながら、ゲームの中で色んなイベントに参加した時期があった。


 どうせ現実リアルで出会いっこない……それなら、恋人、結婚、愛人。

 ダンジョンを真面目に攻略しながらも、俺はほぼ全てをやり切った。


 そんなハーレムパーティを抱えながら、自己満足により引退。

 ゲーム内での約束も、所詮ゲーム内だけ……そう思いながらやめたのに。


「その口を開けるだけで構わない。悪いが、さっさと開けてくれないか?」

「い、いや、みんなが見てるし、こ、困るよ……」

「……構わないよ。むしろ、証明してあげたいくらいだ。僕たちの絆は、中だろうと外だろうと関係無いってね!」

「だ、駄目だっ!!」

「――んっ!? んぐっ……ぷふぁっ! ふふ、君からの返事を有り難く頂いたよ」

「あぁぁぁぁぁ……」


 あぁぁ、リンやイツキ、ヒナ……その他大勢の女子たちの目が、とてつもなく恐ろしい。

 どうしてこうなったんだ。


 ◇


 2学年に上がり、新しいクラスの連中の自己紹介が一通り済んだ後の休み時間。

 担任の無作為な席決めで、リンもイツキも離れ離れとなった。


 それはいい……いいと思って安心していたのに、


『君はLORのイツキくんだろ? 僕を追って来てくれたのかい?』

 ――と、右隣の席の男子? からそんなことを言われてしまう。

 

 コイツ、誰だ? 

 ――などと思い出そうとしても、攻略組は全て女キャラで構成していたし、チャットフレンドにこんなすました話し方をする奴なんて、いなかったと記憶している。


 男にも女にも見えるコイツの外見は、まず顔がイケメン。次に通り抜けるような聞き取りやすい声と、シルバーアッシュな髪。


 いくら私立で校則が緩いからって、それはどうなんだ……と言いたいが、既に真っ白な前例がいるので何も言えない。


 俺を見るその瞳は、憐れみでは無く涼しげな目元をしていて、つられてこちらも格好つけてしまいたくなる。


 見た目で判断するのは難しいが、無難な返しをすることにする。


「面白いことを言うね。LORが何なのかなんて、俺にはさっぱ――」

「あぁ、失敬したね。ハーレムリーダーくんと言うのが正しかったかな?」

「な、何でそれを――!?」

「……しっ。僕はそのことを脅迫するつもりはないんだ。でも……」

「で、でも?」

「イツキくんが交わしてくれた誓いを忘れてはいないかと、心配になりすぎてね。でも良かったよ。同じクラスになれたんだ。誓いはこの世界で結ばれるのだとね!」


 何を言っているんだ、コイツは。

 そしてやはり覚えがない。そもそもLORで誓い合いなんてした覚えが……。


「何のことかさっぱりすぎて……名前は?」

「……次の休み時間に教えてあげるよ。誓いを兼ねてね」


 限られた休み時間にそんな意味不明なことを言われても、ぼっち歴が長い俺にはどうすることも出来なかった。


 ソイツが席を外した所でリンが近付いて来たが、何故か既に機嫌が悪そうだ。

 その状態で、机をバンと叩いて来た。


「ひっ……!?」

「どういうおつもりなんですか? イツキくんは、どっちでもイケる男の子なんですか? それとも髪や肌が白ければ、何でもいいとでも?」

「ご、誤解だよ! 話をしていただけで」

「どうしてわたしがこの学院に転校して来たのか、忘れちゃったんですか! 会いたくて、会いに来たんですよ?」

「う、うん」

「だったら担任の取り決めに関係なく、わたしの席の隣に移動して来て欲しかったです! わたし、こう見えて一途なんですよ?」


 いくら令嬢でも、そんな強引なことは出来ないだろ。


 リンが一途な想いでこの学院に転校して来たのは分かり過ぎているが、狂戦士の嫉妬心と敵対心が半端なくて、早くも怖気づきそうだ。


「よ、よく理解していま……してるよ」

「イツキくん。とにかく次の休み時間になったら、わたしの席に遊びに来てくださいね!」

「あ、う、うん」

「ふふふっ、お待ちしていますねっ!」


 か、可愛い……などと思っていては思うつぼだ。

 ぼっちをなめるなよ。


 強がっていた俺だったが、次の休み時間になって事態は一変する。

 

 リンの席に行こうとした俺だったが、右隣の奴が腕の袖をグイッと掴んで来たじゃないか。


 ◇


「おっと、逃がさないよ? 約束したよ? 名前を教えてあげるって」

「で、ですよねぇ」

「僕はイツキくんと婚姻の誓いをした、ユウキ。翠川みどりかわ有紀ゆうきだよ。忘れたのかな?」

「……ユウキ?」


 男にも女にも取れそうだが、制服を着ている状態では分からないな。

 それに婚姻って……まさか性別関係なく申し込んじゃってたのか!?

 

 いやいや、そんなはずは……。


「そういうわけで、イツキくん。口を開けてくれないか?」

「へ? く、口を?」

「再会の証と誓いに、君の大好物のぷっちんゼリーを食べさせてあげる」

「こ、こ、困るよ!! み、みんな見てるし……」


 俺の口の手前に提示して来たゼリーを払いのけるつもりが、まさかのカウンター。

 ものの見事に、ユウキの口にイン!


「んぷ……っ!? んっぐっ……はぁっ――君との絆は、これで深まったね。これからよろしく頼むよ、イツキ。僕のことはユウキでいい」

「ユウキはおと――」

「性別なんて大した問題じゃないんだ。ふふ、君は罪深い男の子だね。もっと深まったら、明かして行くよ」

「つ、罪……」


 怖い怖い、記憶に無いLORキャラなのに、どこで出会ったの、俺。

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