第15話 恋愛エンカウント!?

「小野瀬君、こっち持ってくれる?」

「わ、分かった」

「小野瀬、ウチらの机も運んで~!」

「は、はいはい……」


 おかしい……何で急に女子たちから、声をかけられるようになったんだ。

 妹と並んで通学していただけで、こんなにも評価が変わるものなのか。


 妹フラグを立てて以降、イツキは途中から別れなくなった挙句、隠すことなく俺の隣をキープし続けるようになった。


 それ自体は別にいいとして、以前よりも距離の近さを感じている。

 

 妹が委員長である上、生徒会の副会長と仲良くしているというだけで、女子たちからの評判が急上昇でもしたとしか言いようがないくらい、頼まれごとが増えた。


 かつてはぼっちマスターで見向きもされなかったのに、転校生であるリンのおかげで、ぼっちを引退したのが功を奏したということなのか。

 そんな状況を作り出した当の彼女は、ふくれっ面で俺をジッと凝視しているようだが……。


「ミ……小野瀬くん、休み時間になったらプリント集めて持って行こ?」

「何で俺が……」

「関係者アピールだよ?」

「拒否する。生徒会って意味なら、アピールいらないぞ」

「しょうがないなぁ。今度は手伝ってね、リーダーくん?」

「委員長がそれ言うのはヤメロ」


 委員長であるイツキがこれを言って来ている時点で、他の女子たちは全員、委員長であるイツキの味方をしていて、協力をしているようにも見える。


 プリントを運ぶ頼まれはさすがに拒否ったが、休み時間に教室にいるだけで何を言われるかたまったもんじゃないので、チャイムが鳴ると同時に廊下に出ることにした。


「……随分とおモテになられるんですね、イツキくん?」

「リ、リン!?」

「ぼっちから引退してくれたのは嬉しいことなのに、どうしてこうなっちゃうのかなぁって思っちゃいます」

「ど、どうしてと言われても俺にも何が何だか……」

「モテ期が来て、実は喜んでいるんですか?」

「いや、あれは机を移動しただけだし、委員長からは単なるこき使いのようなもので……モテてはいないかと」

「そうなんですか?」

「も、もちろん決まってるよ!」


 リンは学校に来ている時も、やはり俺のことをイツキと呼んで来るが、令嬢によるリアルダンジョンのことは一切話して来ない。


 純粋に一途な想いだけをぶつけて来ているだけのようだ。


『小野瀬くん! お昼休みはいなくならないでね? 約束だよ?』


『そんな約束は出来ないぞ!』


『無理やりにでもその手を引っ張って行くんだから!』

 一人でプリントの束を持っているイツキは、声を張り上げて機嫌よく職員室に歩いて行った。


「……」

「ど、どうかした?」

「委員長……って、義理の妹ですよね?」

「え、う、うん」

「何かしたんですか?」

「出来るはずが無いけど、な、何で?」

「すごく近しい関係になってるように見えます。ぼっちから抜け出した記念に、キスでもしたのかなと」

「出来るわけないよ! 近しいのは、だって妹なわけだし……」

「お昼休みになったらイツキくんのその手は、委員長のモノになるんですね?」


 何やら疑いをかけられているし、イツキに対抗心でも燃やしているような感じにも見える。


「誰のモノにもならな……えっ?」

「えいっ!! です!」

「ちょっと、リン? き、急に手を握ってどう――」


 不覚にも可愛いことをするものだと思ってしまったが、もしやこれは妬いているのか。


「手を握りたくなったんです! 意味なんて無いんです」

「い、意味って……もうすぐ委員長が戻って来ると思うし……」

「それなら、なおさらです!」


 別に見られたからってどうということにはならないが、何となく気まずくはなりそうだ。


「あっ! イツキくん、ごめんなさい……」

「うん?」

「覚えてませんか? 転校初日の日、ですよ?」

「言いなりになります……かな?」

「はい、それです!」

「手を握っているだけなのに、それがどうして?」

「それはですね、これからそうなっちゃうのです」

「へ?」


 彼女を何でも言いなりにする……半分くらい信じていたものの、初日のことなだけに忘れていた。

 それがどういうわけか、リンから握って来た手が言いなりになるとか、どういう意味なんだ。


 リンから握って来た手は小さくて可愛い手をしていて、何故かずっと俺の手を握ったまま離そうとしない。

 驚きはしたが、嫌がることでもないのでそのまま彼女の手をずっと握った状態だ。


 何てことはなかったが、ついついLOR内でのことを思い出してしまった。


「まぁ、でも思い出すかな。実際には触れられなかったのに、ずっと隣で話をしている時にキャラ同士の手が重なっている様になっていて、繋がってるって感じがしたんだよなぁ」

「……リンもそう思っていましたよ」

「そこにただ突っ立っているだけだったけど、離れがたいしその場を動きたくないって思ったな」

「そうですよね! やっぱりそう思いますよね!」


 何気なくあの頃のことを思い出して呟いてしまったが……。


『お、小野瀬くん……赤名さんに、何をさせているの!?』

 そうこうしていると、戻って来た委員長に注意をされながら、握られた手を強引にはがされてしまった。


「い、いや、違うんだよ、これは」

「違わないですよ、委員長さん」

「えっ!? な、何を……ちょっと、リン!?」


 イツキによって離された手を、リンは再び握り返して来た。それも力強く。


「だって、しょうがないです。わたし、小野瀬君に離れたくないって言われちゃったんです。だから、彼の手を握っているんです」

「あぁぁぁぁっ……!?」


 まさかこれが、言いなり……これの伏線だったのか。

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