第4話 令嬢転校生と何かの登録

 翌朝になり、フラグの無駄撃ちをした俺の腕は、がっちりと掴まれている。

 相手はもちろん、義妹のイツキだ。


 学院の中の出来事を外に持ち出し不可にする予定だったが、家でも外でも遠慮をしなくなってしまった。


「昨日の今日で、イツキのソレはおかしくないかな?」

「結婚したらそれが自然になるんだよ? ミキちゃんこそ、朝からオドオドしすぎじゃない?」

「き、気のせいだぞ」


 気のせいでは無く、学院に着くまでの間に出会ってはならない相手のことを、気にしまくりである。

 今日から同じクラスに転校して来る白髪はくはつのリンこと、令嬢の赤名りんには見られてはいけない光景だ。


 結局イツキには、勝手に名前を使用したキャラのことを打ち明けられず、朝を迎えることになった。

 中学の時のことは俺的に黒歴史化しているだけに、正直に言う勇気を持てるはずもないのが本音だ。


「それじゃ、先に行くね! またね、ミキちゃん」

「おぉ! 頑張れ!」

 ビクつきながら歩いていたら、いつものようにイツキは俺から別れ、学院へと急いで行った。


 この辺はTPOをわきまえている完璧委員長なので、こういう一面を残してくれているのは、真面目に助かっている。

 一安心したところで、分かりやすく深い息を吐き出していると。


『それはため息? それとも、吐息で出る白い色でも見たかったんですか?』

 この子における俺の白へのこだわりは、一体どのレベルにまで達しているのだろうか。


「期待させてごめんだけど、そこまでの域に達していないよ」

「おはようございます、イツキくん! そうなんですか?」


 イツキ……あぁ、俺のことだったな。

 すっかりキャラ名で呼んでくれているが、それだけゲーム内では好かれていたということなのか。


 とても同一人物とは思えないほどの礼儀正しさを、この子から感じまくりだ。

 

 敵を次々とタゲり、目の前の敵が倒れる前に次々と連れて来ては自ら狩りまくっていた女戦士が、まさかこんなおしとやかで弱そうな女子だなんて、誰が想像出来ようか。


「――? どうかしましたか?」

「白に輝く狂戦士……間違いないんだよね?」

「……ふふふっ! わたしですよ? 信じられませんか? イツキくんはゲームの中から出て来たような、リアルでも背が高くて、頼りがいがありそうで素敵です!」


 事実と異なる……なんて言えない。


 何から何まで真逆もいいとこなのに、目の前の小柄な女子からは、頼れるリーダーここにあり! 的な羨望の眼差しをずっとやめてくれない。 


 こうなれば相手から気付いて俺から離れてくれるまで、誤魔化し通すことにしよう。

 所詮ゲームの中の人とは似ても似つかないと、身をもって教えてあげるべきだ。


「え、えっと、令嬢転校生……って、君のことだよね?」

「転校生ではありますけど、令嬢って呼ばれるほど家柄は凄く無いですよ。普通です」

「……目を凝らさなくても見えてるんだけど、あそこにいる送迎車と執事は君の――」

「リンって呼んでください! 君だなんて、距離を感じちゃいます」

「リンの家の人たちだよね?」

「ですです。後ほど紹介をしますね!」

「あ、後でね」


 普通以上の、レアな令嬢ということは理解した。

 高級な車だけならともかく、お強そうな執事が数人も付いているなんて、明らかにレベルが違う。


 どういうわけか学院まで距離がそこそこある所で、俺がこの場所に湧くのを知っていたかのようにしてわざわざ待っていたなんて、絶対普通じゃない。


 そう考えれば妹と遭遇することはほぼ無いということで、一安心ではある。


「教室まで、ご一緒してもいいですか?」

「まだ結構歩くけど、俺と歩くなんてそんなことはさせられないよ」

「いいえ! わたし、リーダーの傍から離れたくないんです!! リアルでもお傍に置いて欲しいです」

「リーダーって……そんな……」


 いや、この手があった。

 イツキくんと呼ばれてしまう時点で、学院の中での俺の生活は、今よりも深刻になるのは目に見えている。


 それならいっそ、この機会をここで与えてくれているこの子に感謝しつつ、フレンド登録ならぬパーティメンバー登録を済ませた方が身のためだ。


「イツキくん、駄目……ですか?」

 小柄な女子からの斜めな上目遣いは、反則以外の何物でもない。


 こうなればハッタリでも何でもお構いなしに、リーダーキャラで接するしかなさそうだ。


「よ、よし……い、いいだろう。狂戦士リン。俺とメンバー登録をしろ」

「は、はい! イツキくんのパーティメンバーに登録します!」

「違う。俺のことはリーダーと呼ぶんだ! もちろん、学院の中でもだぞ!」

 中二病よりもひどいな、これは。


「……クスッ。そうしますね、リーダー」

「イツキと呼ぶことはやめるように! 呼んだその時点でメンバー解散、俺とリンは関わらない!」

「それはどうしてです? 教室の中でリーダーって、イツキくんの方が恥ずかしくありません?」

「う……あ……」


 とんだカウンターである。

 俺の方がマウントを取れそうな流れだったのに、この子は至って冷静だった。


 確かにリーダーって何だよって俺も感じてしまったので、ここは作戦変更。


「きょ、教室の中にはもう一人イツキがいるんだよ。だから、俺のことは小野瀬と呼んでもらえないかな?」

「小野瀬くん……うん、そうしますね。でもわたしのことは、リンとお呼びくださいね! 教室の中で誰かに言われたら、潰しますので!」

「つ、潰――!?」

「……冗談ですよ? 本気にしちゃったら駄目ですからね?」

「ダ、ダヨネー」


 まさかリアルも恐ろしい女子なんじゃ?

 

「学院の中に入ってからが始まり……ふふっ、楽しみです」

「え? 何が?」

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