第2話 春が来る前に極寒?
「イツキくん? もしかしてですけれど、わたしのことは綺麗さっぱり……頭の中を白紙に?」
俺のことをイツキと呼んでいるこの子は、まさか……。
かつて廃人のごとく課金しまくっていたMMO。そこでのハンドルネームは、確かにイツキだ。
実を言うと義妹の名前で登録していたわけなのだが、ゲームをしないことをいいことに、このことは一切話していない。
自分の名前がミキということもあって、男らしいイツキの名を借りてそのまま遊んでいたが、ここに来てまさかの再会!?
「白髪ばっかりジロジロと見つめて……そんなに白がお好きなのですね? いえ、分かってましたよ? イツキくん、白がお好みなんですものね」
「好きじゃなくても目が行くだろ、そりゃ。もちろん、下着のことじゃないぞ。そうじゃなくて、白髪ってことは、キミはもしかして……リン? それとも、ミズハ? いや……白髪キャラはそんなにいなかったよな」
「もう!! 狂戦士のリンですよ! あ、本名は
おいおい、握りこぶしではしゃぐとか可愛いぞ……というか、凛々しくて男っぽい女戦士じゃなかったのか。
もちろん、中の人とまるで違うのは俺も同じなわけだが。
「いや、そもそもどうして俺のことが?」
「それも忘れちゃったんですか? スクショ撮りましたよ? イツキくんはリアルでもリーダーシップを発揮していて、それで背もお高くて……そう言って、顔だけ見せてくれたじゃないですか~」
おぉ、これはまずいことになった。
リアルのことを明かすことはしていないと思っていたが、身バレしていたとは。
パーティメンバー、それも一部の人にはそんなサービスもしていたような気がする。
あろうことか顔バレさせていたとか、マジですか。
「わたし、明日からイツキくんのクラスメイトになるんですよ」
「ふぁっ!?」
「……まぁ、わたしだけじゃないでしょうけどね」
「えっ?」
一瞬だけ彼女の気配が戦闘態勢に変わろうとしていたが、気のせいか。
「イツキくんを惚れさせにかかるのは、わたしからになりそうですね! 覚悟してくださいね?」
「ほ、惚れさせ?」
白髪染めなのか何なのかよく分からないが、リンと名乗る女子は俺をどうするつもりがあるというのか。
俺を見る目はどう考えても、獲物か何かを狙うハンターにしか見えないし、常にタゲられているようにしか見えない。
そういえばゲーム中の彼女のジョブは、ひたすらに獲物を狩りまくる狂戦士。
これは非常に真面目にヤバいことなのでは。
同じクラスにはイツキがいるのに、どう説明をするべきなのか。
「クスッ……、これから――しますので、覚悟してくださいね?」
「え? な、何て?」
「それじゃ、わたし、まだ手続きしてないので帰りますね! バイバイ、イツキくん」
「あ、は、はい」
何という偶然……いや、奇遇な出会いを果たしたのだろうか。
狂戦士のリン……綺麗な白色の髪をたなびかせながら、バッサバッサと容赦なく敵を狩っていた子が……いや、まさかリアルはあんな弱そうで守ってあげたくなる女の子だとは。
明日から同級生とか言っていたけど、妹にしか名前を呼ばれることのない俺に、早くも春が!?
そう思ったが、最初から問題が山積みすぎる。
あの子は俺を、ゲーム内のリーダーのような目で見ていた。
――ということは、学院の中でもそれらしく振る舞わなければいけないのでは……?
さらに言えば、キャラ名をそのまま呼んで来ている。
本名はミキであって、イツキじゃないわけだから……もし同じクラスだったら、想像しただけで恐ろしいことが起きそうだ。
何にしても明日までに何とか打開策を考えるとして、時間を見たら遅刻ギリギリすぎる件。
これはヤバい!
恋愛も最弱な上、成績も態度も下げまくるのは避けねば。
――と、もうすぐ教室にたどり着く俺に対し、声だけ聞けばちっとも怖くない女子の声が、急ぐ俺を強制的に引き留めようとしている。
『そこの白好き、遅刻だぞ!』
現時点で俺はまだ1年であり、声を気軽にかけられるほど仲良くなった女子は、いつきを除けば皆無だ。
『早くしろ、雑魚め』
いやいや、俺をどこかの低級戦士と勘違いしてないか。
はっきり言って素直に言うことを聞きたくないが、声だけは怖くない。
もちろん出会ったことが無いタイプの女子だ。
ここは冷静かつ、素直に話を聞いてみよう。
「遅刻だ、バカたれめ!」
「ここは廊下であって、教室じゃないよ? 俺に何か用が?」
「……覚えが悪いと知っていたが、見て分からないのか?」
「いや、初対面の女子にそこまで言われる筋合いは――」
「何? 貴様の目は節穴だらけなのか? それとも真っ黒すぎて数か月で腐るのか? よく見ろ、たわけめ!」
「いやいや、白さには自信がありましてね。潔白ですよ?」
声だけ聞けばダメージは最小減に抑えられるが、中々にキツい女子だ。
目の前で説教をする女子はこれまた派手な茶髪をしているが、全体的には華奢な体つきをしていて、大人しそうな声のイメージそのものといったところだ。
しかしどこかで見かけた気がするというか、幼さが残る顔立ちはいつかどこかで会っている。
腕組みをしながら俺を睨むこの子は、一体誰なのか。
「数か月前に会ったって?」
「同じ場所で空気を吸っている!!」
「教室の中って意味かな?」
「ふん、どうせその真っ黒な眼で、私の全身だけしか見ていなかったのだろうが!」
同じクラスの女子ということで間違いが無さそうだが、何故急にモテ期(違う)が来たのか。
「顔も見ているはずだけどな~」
「ふん、まぁいい。どのみち後で、たっぷりと会うんだ。たとえ印象が薄くても負けるものか!」
「何に負けるって?」
「こっち見んな!! とにかくそういうことだから、覚えてろよ! 早く教室に入れ」
「そうさせてもらうけど、君は入らないの?」
「……そ、そのうち入るから気にするな!」
「そか、じゃあ行くけど、またどこかで?」
「知るかバカ!」
なんて冷たい態度の女子だろうか。アレが流行りのクール女子か?
まさか前世で出会ったライバルとかじゃないよな。
今朝のネコといい、リンという女子といい……トリップから抜け出せていないらしい。
「ミキちゃん! 廊下で誰と話してるの? 朝からサボりってやばいと思うんだけど? とっとと教室入って」
「学校の中でちゃん付けはヤメテ。今すぐ入るから席に着いてていいぞ」
「うん、そうするね! ふふっ、ミキくん」
何という猫かぶり。
これだから油断ならないんだ、妹って奴は。
それにしても狂戦士のリン……それと、何かのライバル女子。
これはもしや恋愛最弱な俺に与えられた、何かの試練とかいうやつ!?
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