訳あって学園の姫に仕えることになりました

東雲まいか

第1話 森ノ宮家の執事見習いのバイトを始める

主な登場人物


森ノ宮茜(15歳)高校一年生

 

 学園のアイドル的な美少女であるが、可愛い外見とは裏腹に、ツンデレな性格。町で屈指の名門の家柄であるが、学校ではそのことを隠している。学校にいる時はおしとやかで可憐な女性というイメージだが、家に帰るとお転婆でほとんどジャージで過ごす。情にもろく、義理人情に厚い。


桜坂健人(15歳)高校一年生

 

 茜のクラスメイト。地味でオタクで目立たない性格。父親が森ノ宮家の執事をしており、仕事に興味を持った彼は、森ノ宮家で執事見習いのアルバイトをすることになる。始めは茜の学校にいる時と家にいる時のギャップに驚くが、それも密かに楽しんでいる。



―――♦―――♦―――♦―――♦―――


 ここは森ノ宮家の邸宅。長~い廊下を茜が走っていく。


「お嬢様あ―っ! なんとお行儀の悪い、そんなに大股で走っていらっしゃって。もっとおしとやかになさいませ―っ!」

「もう、家に帰ってまでおしとやかにしてたら、疲れちゃうわ!」


 森ノ宮家の令嬢、茜はジャージ姿で広い廊下を全速力で走っていく。


「お夕食の準備が整っております!」

「分かってるわよ、ばあや。時間ぐらいわかるわ!」


 ばあやというのは、お手伝いの直子さんの事だ。廊下から階段へと向かい、ダダダダと駆け降りる。


「お待たせ―っ!」


 食堂では、給仕が忙しく働いている。茜は大きなテーブルの隅にちょこんと座り、食事が運ばれてくるのを待った。手にはスプーンが握られている。


「お待たせいたしました。こちらは今日からお嬢様の給仕をする、執事見習いのアルバイト桜坂健人です。実は、私の息子です」

「桜坂……健人。ふ~ん」


 スプーンに向けられていた顔を上げ、彼の顔を見た。途端に健人が焦りだした。


「茜さんって、川野辺学園の森ノ宮茜さん!」

「な、な、な、何よ!」


「僕は同じクラスの、桜坂健人」

「今、名前は聞いたわよ。あなた、私と同じクラスにいたっけ?」


「俺、そんなに目立たない?」

「地味すぎて気がつかなかった……。で、ここで何をしてるの?」


「だから、執事のアルバイトを」

「えっ、バイトで?」


 健人は髪の毛は短く眼鏡をかけている。地味なので、茜さんの眼に留まらなかったんだろう。執事の桜坂、健人の父親が説明した。


「息子もこの仕事に興味を持っておりまして。それを旦那様にお話ししたところ、今時珍しい若者だと見習いとしてやってみないかとお誘いくださったのです。お言葉に甘えて、息子を連れてきました」

「お父様が。そんなこと相談もなしに決めてしまうなんて、私の都合も考えて」

「まあ、いいではないか。知り合いだったら話も早い。仲良くしなさい」

「うん。だけど、ここで働いてることは、学校では内緒よ、健人君」

「はい、畏まりました」

「おお、挨拶もよくできてるな。高校一年生にしてはしっかりしてる」

「それから健人君、私がここのお嬢さんだって、いっちゃだめよ」


 茜さんがこんな名門の家のお嬢さんだったなんて、知らなかった! そりゃあ内緒にしておきたいよな。学園でアイドル的な美少女の茜さんが、お嬢様でもあったら、今以上に男子に追いかけまわされてしまうかもしれない。


「かしこまりました」

「絶対ね!」


「守ります。命に誓って!」

「よかった!」

 

 しかし、学園のあこがれのマドンナが、家ではジャージ姿だなんて、とても他の人には言えない。これはトップシークレットだ。


「勿論、家でジャージを履いていることも、内緒でございます」

「そ、そりゃそうよ、健人」


「お嬢様のイメージを壊すようなことは決して致しません」

「約束よっ!」


「僕は誠実な男です」


 茜さん焦っちゃってる。何かここのバイト楽しくなりそうだな。フフフ、これから俺のひそかな楽しみにしよう。

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