片腕の炎

火焚 柾

第1話 その男

それはとある日の午後の昼下がり零士は閑散とした電車に乗っていた、

いつものようにコンビニでのバイトの夜勤を終えてチェーン店で朝食をすませゆっくりと自宅へ戻る為いつも使っている常磐線に乗り込んだほかの人たちとは違い自宅に戻る方向なので電車は閑散としていた。


ぼーっと向かいの窓から風景を眺めているとガタンっと音がして電車は止まった。

駅にとまったのだろう何気なく入口に視線を向ける。どんな人が乗ってくるのだろう、いつもと変わらず老人が数人乗車してきた発射の汽笛が鳴る寸前でやや大柄の男がゆっくりと乗ってきた。

零士は普段は乗客の身なりなどは気にもしないがこの男には目が行き気になってしまった、

その男はやや大柄で顎まで伸ばした真ん中わけの髪の毛をふわりと揺らしながら零士の向かいの席にゆっくりと腰をおろした。

薄い黒い腰まであるコートを着て黒いズボンをはいて手にはシルバーのアクセサリーがいくつかつけられていた。

その男は落ち着いた感じで足を組んでこちらを見ていた。その男の顔立ちは目鼻立ちがすっきりした綺麗な顔立ちだった。


零士はぼーっと眺めていたためうっかり彼と目があってしまった為慌てて視線を車内の広告に目を向ける。

しかしこの男の雰囲気がどうしても気になりちらっと見るとその男は下を向いて左腕の袖を捲り上げているところだった、袖を捲り上げるとその腕にはいろいろな形のタトゥーが刻まれていた。

零士は意外だなと思いついその男の腕をじっと見ていたがふと思う。

危ない関係の人だったらまずいのでじろじろ見るのはよそう。そう思い目をそらそうとしたところ

その男は自分の三つ隣の席に座っている老人を凝視していた。

その見つめる目はどこか冷たいようにも感じた。ガタンまた電車が止まった、次の駅に止まった。

三つ隣の老人はやや忙しそうに電車を降りた。その男はゆっくりと立ち上がり電車を降りる、

降りる瞬間の目は先ほどの老人を見るときの冷たい目の表情がちらっと見えた目線はまだ老人を見ていた、零士は気になったなんだろう?胸の奥でうっすらと胸騒ぎがした、

あの老人の後をつけているようにも見えたことが零士の胸の中で感じた胸騒ぎと好奇心で一杯になった、零士は少し考えた自分の前に座ったタトゥーを腕にいれた男のことが気になり慌てて電車を降りた、駅のホームで2人がどっちに行ったのか左右をきょろきょろした。

『いたっ!』その男の姿を見つけると零士は小声で独り言を言ってしまった。

その男を尾行するようにゆっくり急ぎ足で進んでいく、改札を過ぎその男にばれないようにゆっくりとついていく、その男の先には老人が急ぎ足で歩いていた、やっぱりあの男はあの老人を追っている

そう思え零士の心の胸騒ぎと好奇心がドクドクと脈打った、駅を離れ小さいビル群の隙間を曲がる。

ここは人通りが少なく少し下ると歩道のトンネルのような道が見えていた。

その男は小さい下り坂を下りトンネルの中にはいる、零士も申し訳ない気持ちと好奇心でその先を曲がると前にはその男しか居なかった、

なんだ気のせいか確かに老人もトンネルに入ったように見えたがそのトンネルの中にはあの男しか歩いてなかった、

零士は冷めていく好奇心と胸騒ぎを感じながら引き返そう としたところその男はトンネルの真ん中あたりで立ち止まった。零士はまずいと思い慌ててトンネルの入り口にさっと身を隠した。


慣れない尾行なんかするからばれそうになってしまうんだな、もうこのまま帰ろう、

あの男が危ない人間だとしたら大変だ!揉め事なんてまっぴらごめんだぞ!

ドキドキしながら零士は駅に向かうため引き返し始めたところ上から物音が聞こえた

零士は振り返り上を見上えるとトンネルの上で先ほどの老人が中腰の姿勢でこちらを見下ろしていた。

は?え? 零士は驚き戸惑い身動きが取れなかった、まずい尾行していたことをこの老人にもばれていて怒られてしまう!と思った零士はすぐに謝ろうと『あのぉぉ』っと恐る恐る声をかけたところ

その老人はニヤリと笑った、零士はぞくっとして話すのをやめてしまった、なぜならその老人の笑顔には恐怖を感じたからである、目が全く笑っていないのに口元の口角はこれでもかと思うように上がっている。

零士は恐ろしくなりあとずさりしながら近くの路地裏に目を向ける、このまま走ればこの路地裏に逃げられる!この老人が何なのかわからないがとにかく逃げよう逃げてしまえ!

こころの恐怖がそう訴えて視線を老人に戻すと老人はそこには居なかった。

『え!?居ない?』と思わず呟いてしまった。

その瞬間に零士の後ろからかすれた声でゆっくりと聞こえた、

『いますよぉ?ここにぃ。』

零士が慌てて振り向くと目の前に先ほどの老人が立っていた、老人はいきなり零士の首を両手で掴みかかる零士はその手を振り払おうと掴まれている老人の手を握るがびくともしない、なんだ?この握力と腕力は老人とは思えない!まずいと思ったが手を振り払うことが出来ない零士はゆっくりと意識を失った。



零士は目が覚めると路地裏で横になっていた。一体何だあの老人、俺の幻か?

すぐに起き上がりあたりを見回すと老人が目の前にいた

零士は慌てて叫んだ『わあああああああ』反射的に後ろにあと刷りした瞬間右の手の甲から激しい痛みを感じた、零士は老人のもっていたナイフで右の手の甲を突き刺されていたのだ

『!!!!!痛い!!!!』叫ぶと老人はナイフを抜き不気味な笑い声をあげた。

零士が痛がっていると老人は不気味なかすれた声で話しかけてきた。

『3人目だ』

零士は痛がりながらも反応した『は?なんなんですか!!』

老人は零士の発言を無視して話し出す。

『お前で3人目だ!記念すべき日だぁ。私をわざわざつけてきてヒヤッとしたぞ、お前は警官か?なぜあの電車にいた?なぜ私を尾行した?』

『なんのことだ僕は警官なんかじゃない!』零士は痛みに耐えながら叫んだ

『では一緒にいたコートを着た男は誰だ?!』かすれた声が響くような笑い交じりの声で老人は叫んだ。

『私は趣味が一つあるんだぁそれは電車に乗ることだぁ』

零士の答えを待つことなく突然冷静にゆっくりと老人は話しを続けた。

『電車に乗って気に入らないやつを殺すことが私の趣味電車はそいつらを探すにはちょうどいいんだぁ運の悪い奴の目が恐怖で曇っていくのを見るのが楽しみなんだ!』へらへらと老人は笑いだす。

零士は恐怖で身動きが取れない。老人が続けて話す。

『なぜだろうなぁ自分よりも幸福そうな人間を見ると悔しくなる!私だって我慢はするんだよ?だがな、どうしても抑えきれない時があるんだ!そういう時は電車に乗って幸せそうな奴や気に入らないやつを追って楽しむのさ!』

零士は思わず口に出してしまった。『別に俺は幸せなんかじゃない!幸せそうにもふるまっていないのにどうして!』

老人は冷たい目をしながらこちらをちらっと見ながら話した。

『私は尾行されていたが尾行していたのがお前だった興味を持ったんだ!なんなんだ、こいつは!私の3人目の記念の獲物にはちょうどよさそうだと思ってなぁ楽しませてもらうぞぉ』そう言うと老人はまた口角を全開にして微笑んだ。

零士は自分の手の甲が激しく痛んだのを感じる興奮と恐怖で言葉も出ない、何を考えればいいのかそれすら考えつかない、

その瞬間だった老人と腰を抜かしてしゃがんでいる私との間に金色のジッポライターに火が付いた状態で落ちてきた。

『????』

老人はあたりを見回す。その時突然ジッポライターの火が大きくなり、それはだんだんと立ち上り大きい渦となり老人を包もうとした。わけがわからない老人は火の粉を振り払うように後ろに飛んだ。

まもなくすると零士の頭上の建物の非常階段から人影が見えた次の瞬間目の前は黒くなった。

『なんだ?』零士は思わずつぶやいてしまった。

目の前で突然不思議なことが起きたとので何が何だかわからない状況ではありながらも零士は目の前で何が起きているかよく見ようとした。

黒くなったのは暗くなったのではなく前に黒いコートを着た男が立っているからだ、

その男はさっきまで燃え上がっていたジッポライターを拾いゆっくりと蓋を閉じて静かに話し始めた。

『ずいぶんだな、自分が狙われているかもしれないのに行動をするとはよほど、自信を持っているか、あるいは・・・抑えきれなかったな』男は左腕の袖をまくりながら言う。

老人は怒り交じりで叫んだ『私をつけていたやつだな!お前は邪魔だ!』老人はさっきまでの余裕はなく目は血走って、もっているナイフでその男に飛びかかろうとしたが男は瞬時に右足で老人のナイフを持っている手を蹴り上げるとナイフが床に落ちた。

その後男の左腕で首をつかまれた。

『これからは、裁きの時間だ・・・貴様に殺された被害者の思いを感じてもらう・・・・後悔の時間だ。』

男はゆっくりと冷静に狂気じみた老人に諭すように話した。

すると男の左腕のタトゥーが赤く光りだした、老人の首をつかんでいる手から煙が上がる。

『・・・・・・・・っ!』老人はもだえ苦しみだした。

そのまま老人の体は黒い炎に包まれた、老人はうなだれるようにしゃがみ倒れた。さっきまでの黒い炎は消えていた。男は動かなくなった老人を確かめ振り返り零士のもとにやってきて優しい眼差しで話しかけてきた。

『とんだ災難だったね、大丈夫もう彼は動けない自分の罪と向き合っているところだ、時期に警察が来るだろう、私のことは話さないでほしいすべて済んでも気になるようであればここまで来なさい。話してあげよう。』そう言い残しその男は零士の胸ポケットに四角い紙のようなものを入れて立ち去った。

零士は質問したいことで頭が一杯だったが突然開放された安心感と痛みと疲労でゆっくりと気を失った。



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