第19話 ダブリングチェンジ
「オリジナル技って確か、もっと修行とかいるんじゃないんですか?」
実際にも、オリジナル技を使う人は最近になって出てきたくらいだ。けどそんな人ですら、俺とは逆に小さいころから練習してきた人だ。俺とは比にならない。
「まあオリジナルって言っても、私が昔使ってた技をアレンジって感じかな。でも、オリジナル技っていう部分に変わりはないよ!」
「……どういう事ですかね?」
「私、昔剣を使っていたって言ったでしょ? その時にオリジナル技を一個持ってたんだけど、もうほぼ使えなくなっちゃったし、サクトに受け継いでもらうって感じかな」
技を受け継ぐ……。
なんかかっこいいな。
「サクト! 極位生から技を貰うなんて、こんな機会ないよ!」
クリスが横から口出しする。確かにその通りだ。拒否する理由はない。
「そうだな。お願いします!」
すると、ピノは直ぐに剣を構える。そして俺の方向を見てニヤリとする。
「えっ、ちょっとまってくださいって! えっ! ちょまっ!」
ピノは俺に向かって剣を繰り出した。
「うおおおっ!」
剣が俺の胸に刺さる。いきなりやってきたことに対して、俺はちょっと気に食わないけど、この威力の技を、俺は受け継いでいいのか……。
と、感心するのもつかの間、遅延して何故だか衝撃が来る。
「――っ!」
俺は勢いよく吹っ飛んだ。俺は、何が起きたのか分からず、声が出なかった。
「どう?」
ピノが直ぐに駆け寄って、俺に回復魔法をかける。
「どう? じゃないですよ! いきなり!」
「ごめんごめん! でも凄いでしょ!」
リョークの技、【デス・バデット】には劣るものの、かなりのスピードだった。そして、神経を貫くように滑らかに胸に刺さっていく感じが痛感できた。だが、ここで終わらない技を使うのがピノだ。実際、三桁大会で見るからに、ピノは不意打ちが得意なんだろう。今回の技は、一回目の攻撃から1秒から2秒ほど遅延し、もう一度剣が刺さったような感覚と、さっきよりも何倍も強い衝撃が与えられた。いや、あれは感覚なんてものではない。しっかりと剣が刺さっていた。でも腕は動いていない……。
「……」
俺は言葉も出ない。原理も分からない。
「えっとね。あれは【ダブリングラー】っていう技でね、一度突き刺した物体に対して、わざと遅延させて、その後に衝撃を加えるんだけど、その時にもう一度刺す技だよー」
「何言ってるんですか?」
全く理解できない。
「んー。剣をもう一本隣に用意しておいて、一本刺したと同時に、その隣の剣を刺すってかんじ。実際には一本しかもっていないから、もう一本は腕の隣で浮いてるっていうイメージだけど」
「……」
「あとは技を言わなくてもできる!」
確かにピノは、技名を言っていなかった。
まあ正直原理なんてどうでも良い。今までで一番強力かつ、意味不明な技だ。もちろんいい意味でだ。
「それ、コピーしていいんですか?」
「さっきも言ったように、これは不完全なの。実際には二回じゃなくて数十回与えられたんだよねえ」
「はあ?」
異次元すぎる……。あれを数十回……。
「じゃあ、どうしたらいいってことですか?」
「オリジナル化するんだよー。軽くどんな技にするかイメージしてみてよ」
「そうですね……」
俺は【ハイハイパー】だってあるし、【デス・バデット】だってある。だから速度に関してはまだ自信がある。ピノを見てから自信が少し無くなったのは一度忘れよう。でも、攻撃力の高い技は、剣の技ではない【ハーリー・ブラット】のみ……。できるだけ攻撃力の高い技にしたい……。一撃で仕留められるような技だとすると……。そういえば以前……。
「決まった?」
「はい。何となくですけど」
「じゃあ、それをやってみて!」
「え、やる?」
「そうそう。やるの!」
俺は言われるままに、思い描く感覚をピノに向ける。
「いき……ますよ」
「はーい」
俺は、頭の中で作り描いた理想の技を、現実に移す。
瞬時にピノのそばまで行く。
剣を腕の隣にもう一本あるのをイメージして、
ピノの胸に剣を滑らかに突き刺す。
そして少し遅延させて――。
「で、できた!」
ピノは衝撃によって吹っ飛んだ。
俺が考えた技。それは、以前見たピノが使っていた【フラッシュチェンジ】という技のようなものだ。【フラッシュチェンジ】とは、事前に敵に弓矢を刺しておき、そして弓矢を不意に爆発させるという技だ。それを応用するように、俺は剣が二本。腕の隣にあることをイメージし、一本目を刺す。そして遅れてもう一本の剣を刺すようにイメージ。そして二本目の剣もろとも爆発させる。といったぐわいだ。
爆発によって吹っ飛んだピノは、すぐに近寄ってくる。
「爆発したのか……凄い……これなら正ハーリーアーサ―も倒せると思うよ!」
「まじですか! ありがとうございます!」
「ちなみに……名前はどうするの?」
【ダブリングラー】と【フラッシュチェンジ】からとって……。
「【ダブリングチェンジ】とかどうですか?」
「いいねー! 【ダブリングチェンジ】! じゃあそれがサクトの初オリジナルスキルという事で! おめでとうー!」
ピノは俺に向かって抱き着いてきた。
頼むから急にこういう事をするのはやめてほしいんだが……。
ピノの優しさと、今までの努力が全身で感じられた気がする。
「ありがとうございます」
流石に無言を貫くわけにもいかないので、少し照れくさそうに小さくお礼を言った。
ピノは俺から離れると、小さく呟いた。
「どういたしましてー」
「……」
「はい! じゃあ今日は終わり!」
クリスが、この妙に緊張する空気をぶち壊すように言った。
「これからの時間を費やして、出来るだけ【ダブリングチェンジ】の精度を上げないといけないしね」
「そうだね!」
ピノは威勢の良い返事をし、俺たちは今日、解散する。
俺は【ダブリングチェンジ】の徹底的な練習を繰り返した。常に研究し、速さやイメージ性を常に上げていった。
しかし後日俺はピノからとある宣告を受けた。
魔凶の日でダブリングチェンジの使用は本当に命の危険があるときのみ。
連発しすぎるとその分体力の消費も大きいからだ。
そしてピノとの修行から3週間後の今日――。
魔凶の日を迎える。
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