第97話 阿修羅のライフをもうゼロよ
その日、俺の携帯に一本の電話が掛かってきた。タップして通話を開始する。
「おう、わしじゃ」
「どうも」
我らが占い師さんだ。彼女とは定期的に連絡を取っている。この後に起こる災厄を占ってもらっているからだ。中々、詳しい内容の占いの結果が出ないが彼女から連絡が来たと言う事はそう言う事だろう。
「占いの結果がでたぞ。数多の命を持つ修羅が青き光を打ち砕く……らしい」
「なるほど……大体わかりました」
「ほう、わかったのか? 因みにその災厄が来るのは三日後じゃ」
「分かりました。ありがとうございます」
数多の命を持つと言えば四天王の阿修羅だろうな。無口で腕が四つあって十一月の後半に登場する強敵。中間パワーアップ後に出てきてアオイとガチバトルを繰り広げる。周りもサポートをするがアオイが一番活躍するのだ。しかし、現時点ではアオイは覚醒していない。
彼女が覚醒できないのは未だに親密度が足りないからだろうな。曲がらない愛。簡単そうに見えて簡単ではない。
今が八月。『ストーリー』で彼女が覚醒するのは『文化祭』で彼女がある失敗をしてそれを魔装少女メンバーによって慰められる十月。そこで親密度がググっと上がるのだ。だが、俺としてはこの失敗はさせたくない。純粋に彼女達との時間を増やして親密度を上げて欲しい。
そして、『ストーリー』で阿修羅はライオンの次に出てきているので火蓮とアオイが覚醒状態だが、今は大分本来のストーリーからそれて、火蓮とコハクが覚醒している。この二人が居るならたやすく対処できるので今回は問題ないと思っている。
中盤の四天王って、本来なら基本的にパワーアップした彼女達の見せ場の為に出てくるキャラみたいなものだ。火蓮にライオンがぼこられ、アオイに阿修羅がボコられ、萌黄に堕天使がボコボコにされ……その場その場で覚醒した彼女達に一対一で倒される。だとするならコハクと火蓮が覚醒しているなら何も問題ない。ただ、天使だけは強さのベクトルが違うキャラだが……
俺が居ても正直足手まといも良いところだ。出来る限りサポートはするが火蓮とコハクに任せるのが無難だろうな。……忍びない。俺がもっと強ければ……
そして、三日後。
◆◆
その日、大きな黒い穴が現れた。あーし達はアイツが嫌な予感がすると聞いていたので魔装を纏ってビルの屋上に来ていた。
大きな穴からは腕が四本ある化け物。強さがこちらにヒシヒシと伝わってくる。瞼を閉じているが、その目が開かれた。ゾクっと背筋に悪寒が走る……
と、思ったらいきなり光の斬撃と炎の台風がその化け物を包み込む……コハクと火蓮、二人共以上に動きが早い……そして、二人共物凄い顔に希望が溢れている。先ほど、アイツに頑張ってほしいとか、期待していると言われていたからだ。メルが言っていたが魔力も新しい武器も感情が大きく左右するらしい。
テンションがマックスの二人の超高火力。ビルの上であーしと萌黄、アイツは目の前に光景に目が離せない。
怪獣大戦争……二人からあふれる攻撃と光、激音、爆音、炎と光のストリーム。これによって化け物の姿はまるで見えなくなってしまった。
「ふ、二人共凄すぎ……」
「すげぇ……」
「ヤバすぎでしょ……」
萌黄とアイツ、あーし、異次元の迫力と攻撃に今までの固定概念が崩れそうだ。そこから以上に彼女達の攻撃は続いた。
もう、ライフはゼロでしょ……と思うが一時間、二時間、三時間……そしてようやく空が晴れる。
化け物は粉々になっており、二人が笑顔で戻ってきた。
「二人とも凄すぎです!」
「えへへ、そうですか?」
「まぁ、これくらい当然よね」
アイツが二人を褒めた。当り前だ、あんなに凄い戦いを繰り広げたのだから。あーしにはあの武器は使えない。でも、使えれば二人みたいに褒められるのだろうか。心のざわざわが強くなる。最近、あーしの何かがオカシイ。
となりでは萌黄が少し、羨ましそうに三人を眺めていた。だけど、アイツがこちらを向くと萌黄は顔をいつもの明るい雰囲気に戻す。何か無理でもしているようだ。
あーしは何かが嫌だった。
その光景の何かがダメなんだ。許容ができないんだ。化け物を倒して誰も怪我をしなくて、最善のはずなのに……どうして、心がこんなにもざわつくんだろう……
◆◆
「それで、災厄を回避したと」
「はい。彼女達に任せるのが一番だと思いましたので……」
「ふむ、偶には誰かを頼ることもしたほうがいいじゃろうな」
「まぁ、それは置いておいて。この後の災厄はどうですか?」
「次は稲妻じゃがしばらくは大丈夫じゃ」
「それなら、良かったです」
「ただ……」
「何かあるんですか?」
「いや、これはどうでもいいことじゃった。ではの……女難のそうがそろそろ増える頃じゃな……」
彼女はそう言うと通話を切った。最後の方に何か言っていたが気のせいだろうな。今回は彼女達に任せて災厄を回避した。これでよかった。流石は彼女達だ。今回が一番スムーズに敵を倒せたからだ。
この後は萌黄の災厄……今回みたいな感じでいいのか? だけど、今回のように彼女達に任せて俺の出番は殆どないくらいがちょうどいいのかもしれないな。
……しかし……うーむ。次にあるのは文化祭。これは……アオイが一番悲しんで、離婚したばかりで火蓮もあまり盛り上がれなくて、萌黄もそこそこ傷つくと言う『ストーリー』の中でかなりの炎上してネットが荒れた記憶がある。『ifストーリー』が最も荒れたが、『ストーリー』の文化祭編もヤバいのだ。
しかし、これは絆を育むと言うイベントも併用していた。手を出さない方が良いと考えない俺ではないが手は出す。現時点で彼女達の絆は育まれている、ならば手を出しても問題ないだろう。かなり、真黒な感じで終わる文化祭編を俺の手でハッピーエンドにしてやろうじゃないか。
だとするのであれば、校内の噂が今以上にとんでもない事になる可能性が……フッ、俺のメンタルが既にオリハルゴン、どうと言う事はない。
クククク、俺はこれからの事を考えてほくそ笑んだ。
◆◆
あーしは一人で訓練室に来て新しい武器である。青の短剣を振っていた。何故かはわからない。勝手に体がこの場所に私を運んで動かしていた。何かが起きて欲しいと思いながら短剣を振る。
もし、あの時、褒められたのがあーしだったら……僅かにそんな考えが浮かんだ。一人で訓練していると扉が開いて萌黄が中に入ってきた。彼女の両腕には新しい武器。
「アオイちゃんも訓練?」
「そう」
何気に萌黄と二人きりは珍しい。皆で一緒の時はあるけど二人きりと言うのはあまりない。
「萌黄も訓練?」
「うん、二人にだいぶ先越されちゃったし。僕も頑張らないとね。置いて行かれるのは嫌なんだ……」
「そうなんだ…‥」
彼女の表情は笑顔だけど何処か曇っているようだった。無理やり自分を抑えこんで、気持ちの糸が絡まって上手く動けない感じがした。
「アオイちゃんはどうして訓練を?」
「えっと、あーしも新しい武器を使えるようになりたくて」
「……それだけ?」
萌黄らしくもない切り返しだと思った。彼女ならこのあーしの答えに相槌を打って抱き着くぐらいするから。こんな複雑そうな顔なんてしない。
その、言いようのない彼女になんて答えていいか分からず沈黙をしてしまう。
「ごめん、今のは忘れて! それより、一緒に訓練しよう!」
「そだね……」
彼女は顔の前で手を合わせて謝るといつものように笑顔になった。その後は二人で只管に新しい武器をふるったが特に変化は起きずに空を切る音が訓練室に鳴り響くだけだった。
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