第86話 デートと紅蓮とアジフライ

 その日、私はデート待ち合わせの場所に一時間前に到着した。現在は午前の九時くらいであり人もたくさんいる。そして、チラチラ見られてる。あんまり考えたことなかったけど私って結構モテる? まぁ、どうでもいいか……遅れてはいけないと言う理由で来たのだが……



「おはようございます」



既にいるのね。流石は十六夜……


「いつからいるの?」

「ついさっき来たばかりですよ」



絶対、もっと前からいたでしょ。今現在同じ家に住んでるけど待ち合わせがしたいからって言うからこういう形にしたけど。私が家から出かける時には既にいなかった。もしかして、二時間前とかからいた? いや流石に無いか。


「先輩、服めっちゃ可愛いです。それよりも可愛い先輩も流石です」

「あ、そ、そう。そういうのいいからとっとと行くわよ。時間は有限なんだから」



……がつがつ来すぎ!!! いや、嬉しいけども、こっちは慣れていないんです!! ちなみに私の服は白を基調としたワンピースに花柄が入っている。普通にネットでイケてる服は何かを調べました……それを急いで昨日購入して身に付けている。


私はインドア派だからあんまり流行りの服をもっていない。




「手つないでいいですか?」

「しょ、しょうがないわね……」



もう、コイツ何!? どんだけガツガツ来るのよ! 今までハーレム展開になったらおどおどしてたのにこの変化は何!? 


『付き合って!』

『それって荷物持ち?』


とかくらいの雰囲気だったじゃない!! そのくせにここにきてガツガツ来るとか何なのよ。押してもダメなら押せ押せ押せ押せと言う感じで十六夜は来る。


彼の手は少しごつごつして私の手とは違う。この手でいつも守ってくれたんだっけ……途端に顔が熱くなる。こんなに両想いなのに特別な関係にならないっていうのも変な話……



「先ずは、どこ行くの?」

「映画に行きましょう。今、魔術学院の出来損ないの映画やってますし」

「そ、そうね! 行きましょう!」



よっしゃぁー! 是非行きたかった!! 


『劇場版魔術学院の出来損ない。トラディショナル・エンド・フューチャリングオーバー』~魔術と魔法の真理。魔法とは? 魔術とは? 全てが明かされる?~最終幕であり完結編~


タイトルとサブタイトルが長すぎだけど、全然気にならない!!


「完結編ですよね」

「そうね。まぁ、原作ストックがまだあるから完結編ではないわね。恐らく、終わる終わる詐欺ね。その映画会社、前にもそういうキャッチコピーの映画あったから。多分、次の劇場版は~新たなる幕開け~とか言うでしょうね」

「なるほど……それにしても……」

「どうしたの?」


十六夜は僅かに足を止める。一体何事かと私も足を止めて十六夜の方を見る。十六夜は繋いでいる手を見てわなわなと震え始めた。



「こんな手を繋いでることが嬉しくて、感動しています!」

「だから、そういう事を言うんじゃない!」



再び、私は歩き出す。手はつないだままで……


一体、どんだけ愛に溢れているのだろう。まるで前とは別人のような十六夜に驚くとともにやはり前と同じで大事にしてくれていることが伝わってくる。それが嬉しいけど同時にもどかしくもある。この関係は彼氏彼女ではないから。



「映画が始まるまで時間ありますから本屋でも行きますか?」

「そうね……」




私じゃ、私だけじゃ、不満?




◆◆




 映画が始まるまでの間、本屋で時間を潰そうと二人で歩いていると訳の分からない不良が私達の行く道を阻んだ。金髪ピアスで鼻にもピアス。キャップを逆さに被ったりしている、ザ・不良という感じである。ガラの悪そうな不良の五人セット。



「可愛い姉ちゃん連れてるじゃん」

「そんな雑草みたいな男といないで……」



才能ある新人冒険者に絡む嫌味ベテラン冒険者の如く、十六夜と私に絡む。しかし、十六夜は涼しい顔で彼らを手で制す。


「悪いがそんな時間は無いんだ。異世界で才能ある新人冒険者に絡む嫌味ベテラン冒険者の如く、俺と彼女に絡むのは止めてくれ」


あ、十六夜も同じことを考えてたんだ。ちょっと嬉しい。正直言うとこんな不良何て赤子の手をひねるようなものだが無闇に力を使うのは良くない。それは十六夜も分かっているだろう。


「んだよ、彼女の前だからってカッコつけてるのか?」

「違う……彼女は特別な意味の彼女じゃない」


その言葉にどうしようもない寂しさを覚えた。彼女じゃない……二股とか言わなければ直ぐにでも特別な関係になっても良かったんだ。本当なら彼女って言って欲しかった。


――この人は俺の彼女だからあっちいけ



これくらい、言って欲しかった……。やっぱり二股やだ。二股さえなければこんなことにはこんな気持ちにはならなかった。ちゃんと私を選べば文句なしの百点なんだから……



「だけど、彼女じゃないけど。彼女にして絶対幸せにするって決めてるから。あっちいってくれ。俺は彼女と二人きりの時間を楽しんでるんだ」



何よ……カッコいいじゃない……百点じゃないけど……求めている最高の結果じゃないけどやっぱりカッコいいじゃない……。引いて押して、押しては引いて、何か、私が振り回されてるような感じがしてモヤモヤはするけど



「お前、そんなこと言って恥ずかしくないのか……」


不良達もいくら何でもそんなことを言われると思っていないようで一歩引く。


「恥ずかしいに決まってるだろう。でも、俺は自分の気持ちに正直になろうって決めてるんだ。彼女の前では愛に溢れて、嘘もつかないって決めた。だからついでにちょっとカッコいい事言って火蓮先輩の好感度稼ぎたいって思ってるから多少の恥ずかしさには目をつむる」



それ、言っちゃダメなやつ! カッコいいのにもったいない! 



「こいつヤバいやつじゃないか?」

「帰ろう……」

「そうだな……」



……不良が退散した。十六夜の雰囲気がヤバいやつだったからかしら……



「では、行きましょう……」



ちょっと、いや、大分恥ずかしそうだった。そう言えば手を繋いでほしいって言った時も顔が赤かったわね。本当は恥ずかしいのね……だけど、アピールしてるんだ。私が好きだから。



手を繋いで、一緒に歩く。



特別な関係じゃない。二股したいとか訳の分からない事を言う。それが少し引っかかるけど……でも、私にはこの人しかいない……


そう想う




◆◆



本屋に到着すると早速ラノベコーナーに行く。


ああ、魔術学院の出来損ないが売ってる!! いや、全部ネット予約で買ってるから持ってはいるんだけどこうやって並んでると滅茶苦茶嬉しい!!


私達以外のお客さんも沢山いるのだが男女で居るのは私たち位かしら? 何か、私に凄い視線を向けられる。


まぁ、顔は可愛いって自覚はあるけど……



「先輩は何かお勧めはありますか?」

「え? ああ、そうね……『転生して、数年したら中二病から卒業しました』とか面白いと思うわよ……」

「それは読んだことないやつです。先輩がおススメするなら何としても買わないといけません」

「そ、そう。勝手にしたら……」




手を繋いだまま、店内を歩き続ける。男女で居る人たちも何組かいる。カップルに見えているけど私達もカップルに見えるのだろうか?



十六夜は私のおすすめを買うとそろそろ映画の時間なので店外に出る。すると……



「雨……振って来ちゃった……」


空模様はいつの間にか雨雲に変わり、かなりの雨がザーザー降り注いでいた。急な雨なのだろう。傘を持っていない人が頭に手をやり雨宿りが出来るところまで走っている。

もしかしてこれは相合傘イベントのフラグではないか? しかし、私達はどちらも傘を持っていない。


そ、その辺で買って……そんな事を考えていると十六夜が私の手を離した。


「少し、待っててください。すぐ戻ります」

「あ、うん」


さっきまでずっと繋いでくれていたのに離されてしまった。恐らく傘でも買いに行ったんだろうけど……一緒にいけばいいじゃない。手を繋ぎっぱなしでいいじゃない。


そんな事を考えていると……雨雲溢れる空に極大の魔力レーザーがいくつも放たれた。その余波で雨雲は吹っ飛び綺麗な空になり虹がかかる。つまり、


雨が止んだ……


「お待たせしました」


その後、直ぐにずぶ濡れの十六夜が私の元に帰ってきた。


「あの、あれって……」



私は空に向けて指を差す。十中八九そうだろうけど一応聞いておいた。


「はい、先輩の綺麗な服が汚れるとあれなので吹っ飛ばしました」

「や、やっぱり」


いや、分かってたけどどんだけよ! どんだけ、私が好きなのよ! 滅茶苦茶嬉しいわよ! ありがとう!!


「それじゃあ、映画行きましょう」

「そ、そうね」



◆◆



映画が見終わって食事もした後、毎度おなじみのあの公園のベンチに十六夜が行きたいと言うので向かった。正直言うと今日のデートは無茶苦茶楽しかった。好感度爆上がりである。この流れで二股告白するつもりだろうけどそれとこれとは話が違うので断る。


「先輩、ここでもう一度告白させてください!」

「何度言っても答えは変わらないわよ」

「うっ、そ、そんなこと言わずに……き、聞くだけ聞いてください」

「はぁ、聞いてあげる……」


正直、答えは決まっているが聞くだけ聞く。


「俺は貴方が好きです。死んでも好きです。だから付き合ってください」

「ごめんなさい。二股とか言ってるうちは無理」


両膝をまだ、雨で湿っている地面につけて、ズーンと頭を下に下げる。分かりやすい。私だけじゃダメ? 


――コハクがそんなにいいの?


こんな事を言うつもりはなかった。でも、思わず口からこぼれてしまった。彼はコハク、コハク、コハク。最近、コハクにも特別な視線を向ける。私もその覚悟があった。だから、背中を押した。でも、でも、私も嫌なんだ。怖いんだ。


いつかコハクに全部持っていかれるかもしれないのが。付き合えたら幸せだ。二股でも彼は大事にしてくれるのは分かる。でも、いつか全部持ってかれて、その時にどうしよもない辛さを味わうなら付き合いたくない。付き合ったらもっと好きになって、もっと尊い気持ちになって依存もするかもしれない。



異常に気持ちが高まりきった時に捨てられるのが、どうしようもなく怖い。私は壊れる。それが私は嫌なんだ。一番嫌なんだ。一番怖いんだ。


「……コハクがそんなにいいの?」

「コハクさんも凄く好きです。でも、火蓮先輩も好きなんです」

「……私が二股が嫌な理由の一つにコハクが魅力的過ぎて、もし、二股を受け入れたら……いつか、その、十六夜がわ、私を捨てるんじゃないかって……お、思うのよ……コハクの方が胸も大きいし、可愛げがあるし……」



不安を出した。出すつもりはなかった。このまま楽しい明るい感じで終わらせようと思っていたからだ。告白も軽く流してギャグみたいな感じで。だけど難しい問いを十六夜に投げかけて雰囲気を暗くしてしまった。



「俺が貴方を捨てるなんてありえない! 俺は絶対、貴方を好きでい続ける。トラックにひかれて転生しても、通り魔に刺されて転生しても、病死して神様にチートを授かって異世界に転生しても、神様の手違いで転生しても!!」

「ほ、本当に?」

「それだけじゃない、貴方を置いて何処かに行ったりしない! いきなり異世界に繋がる扉を見つけてもそれを閉じて貴方の元に帰る。勇者召喚されそうになったら魔法陣を避けて異世界には行かない! 貴方を一人にしない! ずっと一緒に居る!」

「あ、あうっ、そんなに熱烈に……」



彼は私の肩をがっと掴むとあの時のように強い瞳を向けた。彼のその瞳に私しか映していなかった。私はもう茹でだこ状態だ。


ずっとこうだ。ムードとか考えない。でも、最高にカッコいい。ずっと、私を大事にしてくれるんだ。


もう、不安の余地はなかった……二股……認めてあげよっかな……



「だから、付き合ってください!」

「あ、あうあうっ」


顔が近い。頭が沸騰して思考が思うようにできない! 不味い。冷静に考えないと……



「え、えっと……」

「……ダメですか?」




認めてあげてもいい。でも、やっぱり……



「ダ、ダメ……」

「ガーン……」



再び、彼は膝から崩れ落ちた。うん、ダメなのはダメね。……危なく認めるところだった……。


「がーん……」


……まぁ、でも、ちょっとくらいなら色々してあげても……いいかな? こんなに私が好きなわけだし、そこは評価しないと……



「で、でも、アーンはしてあげる。仕方ないから。後、デートも、手を繋ぐのも、膝枕も、それは付き合ってなくても認めてあげる!! 仕方ないからね!!」

「マジですか! やった! このままいけばいつかは!」

「二股は絶対認めないから! それだけは絶対の絶対!」



まぁ、これくらいは……あれ? ちょっと不味くない? 確かに今の所は二股はしないって考えだ。これは絶対だ。でも、この間もアーンはしないと私の中で決めたのに規制を緩めてしまった。さらに、それ以外のことも認めてしまった……膝枕とかどっから出てきた?



だ、大丈夫……二股だけは認めない。ここだけはしっかりしましょう。うん。でも、今言った以外のことも、もう少し色々認めてあげてもいいかな? 手作りとか。


「あの、エッチはダメでしょうか!?」

「調子乗んな!」




◆◆



「くぅぅ、恥ずかしい……あんな臭いセリフ言いまくって、あんな訳の分からない告白をして……俺は一体何をやってるんだ……」



十六夜は今日一日の愛に溢れた自分の奇行を振り返っていた。正直、彼的に恥ずかしさマックスであった。しかし、どうしても付き合いたい為に過剰な押せ押せアピールをしたのであった。


家に帰って自室でアピールと等価交換した精神ダメージを回復している。


「しかし、火蓮と色々出来る。くぅ、これは最高だ……でも、恥ずかしいぃ」



彼の精神へのダメージの回復にはもうちょっと時間がかかる。




◆◆



「ねぇ、コハクちゃん。やめたほうがいいよ」

「何がですか? 私はただお出かけをするだけです」

「コハク……マスクとサングラスをして建物の陰に隠れてよくそんな事言えるね……」


コハクちゃんが二人のデートを尾行するらしいので僕とアオイちゃんが、暴走しない様に見張っている。


コハクちゃん……こんなストーカー行為とかするんだ……



「ただ、行先が同じなだけです。決してストーカーとか尾行とかではありません」

「あ、そうなんだ」

「……」



「何手を繋いでるんですか!? ムカつく。雨でも降っちゃえ」


……苦汁をなめるような声で彼女は毒を吐く。これをストーカーと言わずに何というのだろうか……


「ああ、不良から守ってもらってなんて羨ましい、あんな言葉までかけてもらってなんて妬ましい。雨でも降っちゃえ」



……怨念が凄い。アオイちゃんは……アオイちゃんもちょっと羨ましそうに見ているように見えるのは気のせいかな?



その後、本屋の角で偵察していると彼女の祈りが通じたのか本当に雨がかなり降ってくる。しかし、一瞬で止む……彼がやったんだな……


「流石です。十六夜君!」


キラキラした目線を彼に向ける。その後、ハンバーガーを立ち食いしながら三人で尾行である。公園で彼がかなり奇抜な告白を彼女にする。


「いいなぁ、いいなぁ。私だってあれくらいされるんですからね!」



……二人が帰ると先回りして自宅に帰る。そして、夕食の準備を始めるとアオイちゃんが呟いた。



「あーし、一日なにやってんだよ……」



Me,Too……







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