第57話 終わりなアジフライ
「それでね、最近のおすすめはね『最弱賢者の無双英雄譚』なの」
「タイトルが矛盾した感じがしますがラノベタイトルの最弱と最強はほぼ同じ意味なので何の問題もなく、無双とつくのでつい手に取ってしまいそうになる本で面白そうですね」
「流石十六夜!! 分かりみが深いわね!!」
「いやーそれほどでも」
「十六夜と久しぶりに話すと楽しいわね……それでね、他にもおすすめがあって!」
前半の部分は小さい声だがガッツリ聞こえているため反応に困る。嬉しいけど……彼女とは学校の玄関で別れたが他の生徒達が”勇者”だと言っているのは意味が分かってしまい嬉しくない……
◆◆◆
教室に入ると全ての生徒が俺を見た。尊敬の視線をするもの、単純に身を案じる者、ごみを見る視線を向ける者様々だ。ちらりと銀堂コハクの席を確認すると彼女の背中が見える。
そして、真黒なオーラが……
やべぇ、誤解されてる。そして下手したら夢見たいな展開になるかも。いや、流石にそれは無いか。
「お前……良く来れたな」
「久しぶりだな。佐々本」
「一週間サボって女と祭りとは恐れ入るぞ。マジで見ろこの男子達の尊敬の眼差しと女子からのごみを見るような目を」
「何も言えない」
「取りあえずコハクちゃんを何とかしろよ。体育祭の時よりもマジでヤバイ」
「知ってる……後これお土産」
「なんだこれ?」
「官能小説」
「あざす!」
さて、彼女にどうやって話しかけようか……時間があるときが良いから昼休みだな。
◆◆◆
「あの、銀堂さん」
昼休み俺は意を決して彼女に話しかける。ここまで異常ともいえる授業の長さだった。教室の雰囲気は最悪。周りからお前のせいだと言われる視線がきつかった。
「……どうかしましたか!?」
一瞬の静けさから元気よく彼女は返事を返す。それが逆に怖い。満面の笑みの瞳の奥そこから何やら狂気的な物を感じる。
「あの、少しだけ時間あります?」
「勿論ありますよ! ……私も丁度昼休みに呼びに行こうと思っていたので……」
ハイアンドローを彼女は使い分ける。それによってますます冷や汗が噴出し足ががくがくと震え始める。怖くて逃げたいが、しかし、ここで先延ばしにすると余計にとんでもないことになる予感がするので彼女の誤解を解こう。
「そ、それじゃあ、お、屋上に……」
「ええ、行きましょう」
良し! 彼女を呼び出せた! このまま屋上に行こうとすると銀堂コハクの後ろの席にいる野口夏子と目が合った。
彼女はカンペに何やら文字を書き俺に見えるように掲げる。なんだろう? アドバイスとかか?
”一回死ね”
……さて、屋上に行こう
◆◆◆
青空がどこまでも続き晴れやかで爽やかな今日この頃のはず。しかし、彼女からあふれ出る真っ黒なオーラによって俺ビジョンでは魔界にいるようにも感じられる
屋上は誰も居ない。そして彼女はここに来るまで一言も話さなかった。
「あの、ですね。恐らくですが銀堂さんは誤解されていると思うんです」
「はい? 誤解? 良く分かりません」
「俺とテレビに出てた青色の髪の女の子あれは友達と言うか……」
「フフフ、アハハ……十六夜君……そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。十六夜君は悪く無いんですから……」
「え?」
俺は悪くない? つまり怒っていないという事か? 良かったぁ、ほっといたら刺されるんじゃないかと思っていたんだが誤解されていなかったのか……
「悪いのはたった二つです。あの女と十六夜君の中にある男性の本能」
「ん?」
「あの女にたぶらかされたんですよね? 大丈夫ですよ、私が呪縛から解き放ってあげます……先ずは一緒に住んで恋人になってお互いの良さをより深く知って……」
「あ、あの」
「はっ! すいません。説明の途中でしたね。もう一つの男の本能ですけどこれは本当に仕方がないんです。十六夜君は男の子ですから女の子に目移りしても仕方がない。ええ、仕方がない、仕方がない……男性と女性は本能で求めあうもの。仕方ない、仕方ない、仕方ない……」
仕方がないならそんな怖い雰囲気で来ないで欲しい……彼女の話を無言で聞いていると彼女は後ろに隠していたのか大きなハサミを出した。
「この大きなハサミ何だか知ってますか? 手芸で使う布切ハサミって言うんですけど知ってますよね?」
「は、はい。何故今?」
「そうでした、そうでした脱線してしまいました。男の本能による行動は仕方ないんです。でも、このままだと十六夜君は悪い女に騙されて人生が滅茶苦茶になってしまうかもしれません」
「そ、そうですか?」
……いやいやいやいやハサミ出して言われるとめっちゃ怖い。それに彼女が何を言いたいか大体わかってしまって更に怖い。彼女は顔では笑いながらも目が笑っていない。
「それはダメです。絶対に……だから男性の本能の元を……これでちょん切っちゃおうかなぁ~って……思ったんです」
「も、元って何ですか?」
「何ですかって、そんなのナニに決まってるじゃないですか」
……………………はははぁああああああああああああああああ!? やばいやばいやばいやばい!!! 大体予感はしてたけど実際言われると驚嘆度がヤバいよ!!
「そ、それはダメですよ!!!! 女の子になっちゃいますよ!?」
「それならそれで愛します。ですから、ね?」
「いや、ね? って言われてもダメですよ!」
「我儘言わないでください。貴方の為なんです。大丈夫責任は持ちます。ですから、ね?」
「ダメダメですよ! 一応俺結婚願望とかあるし、子供だって欲しいですし!!」
何だかんだで俺も彼女は欲しいし、結婚願望だってある。前世じゃ陰キャだったわけだしな……
「結婚……子供……私も結婚もしたいし子供も欲しいです……じゃあこのハサミは使えませんね……」
彼女は残念そうにハサミをしまった。とんでもない事になってないか? 彼女のヤンデレ具合と言うか。そもそも彼女がヤンデレになったのは俺のせいかもしれないけど。
「あの、そもそも俺たぶらかされてもいないんです。あのテレビに映ってた人はただの友達で特別な関係とかじゃないんです」
「本当ですか?」
「観光案内してもらってそれでお礼に奢るという話になった所をテレビの人が勘違いしてカップルだとか言ったんです」
「そうだったんですか……」
「信じられませんか?」
「……複雑です。十六夜君の言う事は何でも信用したいのですが何処か疑ってしまうという気持ちもあります……」
「でも、インタビューで青色の女の子もカップルじゃないって言ってましたよね? 当事者同士が否定してるわけですし、信用度は大分高くないですか?」
「そう、かも、しれませんね。すいません、早とちりをしてしまったようで……」
「いえいえ、俺を心配してくれている気持ちも感じれたので嬉しかったです。後、これお土産です」
「ええ!? 私に!?」
彼女に渡したのは饅頭である。火原火蓮とお土産を買えるとごちゃごちゃになるかと思ったから同じ物にした。かなり美味しい饅頭だがセンスが悪いから機嫌悪くなるかな?
「すいません。本当はもっといいものを買えれば良かったのですが」
「いえ! 私の為に……買ってきてくれただけでも……嬉しいです! 十六夜君からの贈り物……一生食べません!!」
「賞味期限以内には食べてくださいね。流石に色々問題もあるかもしれませんし……」
「で、でも勿体なくて食べれません!!」
「ああ、いやでも虫とか湧くかもしれませんよ?」
「ジップロックを十枚くらいして保存します!!」
「え、えっとまた今度贈り物しますからそれは食べてください……」
「ええええ!? また贈り物を!? えへへ、ありがとうございます。それじゃあこのお饅頭は美味しく頂きます!」
「是非食べてください」
彼女の笑顔が華のように可憐になった。良かった……今何時だ?
時間はお昼休みの中盤位。まだ少し時間はあるけど食堂で食べるくらいの時間はないかな。購買に行くか。
黄川萌黄はどうしよう。彼女は俺にあんまり興味ないだろうし……
「それじゃあ、十六夜君食堂に……すいません。私のせいで時間が」
「俺が呼んだので気にしないでください。購買も偶には食べたいです」
「フフ……それじゃあ、購買に行きましょうか?」
「はい」
「あ」
彼女は何かを思い出したようにそこで止まった。笑顔が急に闇を持った感じに……
「どうしましたか?」
「朝、火蓮先輩と一緒に登校した件を詳しく簡潔に私が納得いく理由を教えてもらっていいですか? 何故? 私を誘わなかったのか? 何故わたしをさがさなかったのか? この辺を詳しくお願いしますね? さぁ、どうぞ? 十六夜君を私は信じていますからそれなりの理由があるんですよね? それを早く教えてください」
この日のお昼はナシになった。残り全てを弁解する時間に使用したからだ。彼女を納得させる理由が見つからない為、後半から褒め殺しを行いそこでチャイムが鳴り誤魔化すことに成功した……
お腹空いた……でも、彼女は少し怖かったけど何だかんだ俺を気遣う感じもあって嫌いには絶対なれないな。
◆◆
放課後。教室内の雰囲気も随分回復しこれから帰ると言ったところ。黄川萌黄は弁解とか必要ないか? 彼女はあんまり俺に嫉妬とか興味もなさそうだし……それなのにあれは違うんだよって言ってもな……キモいだけ
「十六夜君、一緒に帰りましょう!」
「はい、そうですね……」
彼女が久しぶりながらも帰りの誘いをしてくれる。断るわけには行かないので承諾するが火原火蓮も…‥
すると教室のドアが勢いよく開いた。
「十六夜! 一緒に帰るわよ!」
火原火蓮も来た。後ろには黄川萌黄も……なんかこっちをちょっと睨んでる。俺と銀堂コハクが二人のそばに寄り全員で廊下に出ると銀と赤が睨み合い。
そして俺は黄色ににらまれる……
「二人ともちょっといいかな? 僕彼に少し言いたいことがあるんだ。五分だけ貸して」
「何言う気?」
「そうですよ、何言う気ですか?」
二人のこわこわの雰囲気が一気に黄川萌黄に降りかかる。
「ヒぃ、だ、大丈夫だから二人の思うような事じゃないから! 神に誓うから!」
「なら、良いけど……五分だけよ」
「一秒遅れるごとに先輩は十分間私達のおもちゃですから」
「えへへ、二人のおもちゃになら僕なっても……って一秒で十分は多すぎ!! 二人のおもちゃになるの楽しいのは五分くらいだから一秒ごとに五分にして!! それより先は変な気分になるだけなんだよ!」
いやー、黄川萌黄っぽい複雑な頼みだがそこがいい。俺は推すぞこの頼みを!!
「ダメです。十分です」
「そうね、十分よ。だって五分すぎてからの萌黄をいじるのが楽しいんだから」
「それは分かります」
「ええ!? 二人はドエス!? まぁ、それもありだけど……」
三人の世界を永遠に見ていたくなるが無理だよな。動画に納めるか。俺は三人の世界をスマホに納める前に三人に聞いた。
「三人の写真、スマホで撮っていいですか?」
「「「ええ?」」」
三人共首をかしげて疑問を浮かべる。確かにいきなりスマホで撮っていいかと言われたら首傾げるよね。
「いいですけど、撮るなら別の場所にしませんか?」
「そうね。廊下はないわね」
「うんうん」
「それより萌黄はいいの? 用があるんでしょ?」
「あ、そうだった。ちょっと来て」
「萌黄先輩変な事したら……」
「そうよ……」
「し、しないって……ほら、いくよ」
俺は彼女と一緒に一旦屋上に……
屋上に着くとまだ青空が浮かんでいる。一体何を言われるんだ……
「君に聞きたいことと言いたいことと請求したいことがある」
「な、何ですか?」
「まずはこの前聞きそびねたあの男の事。君は何をしたの?」
「特に何もしてないです。勝手にあっちが襲ってきて……」
「……はぁー、本当の事は言わないんだね。分かってたけど……次に請求」
「請求とは?」
それにしても、請求とはなんだろう?
彼女は一枚の紙を俺に手渡した。そこには……
胃腸薬代、ラーメンの割引できなかった分の代金。胸揉まれた痴漢代。しめて三万円……まぁこれくらいなら払ってもいいな。俺のせいもあるだろし。
前の二つに関しては良く分からないが……
「払うの明日でいいですか?」
「何で払うの!? ちょっとしたジョークだよ! そう言う所だよ、君のモヤモヤするところ!!!」
「そうなんですか?」
「そうだよ!」
彼女は情緒不安定になり俺から紙を取り上げる。
「まずね! 君には痴漢された! それに君のせいでラーメンを割引し忘れた!! 胃も痛くなった!」
「す、すいません」
「でも、君には感謝してるんだよ! バカヤロー!」
彼女は紙を丸めて床に叩きつけた。その後再びそれを拾う。
「君のせいで毎日がなんだかんだ楽しいんだよ! バカヤロー!」
そして、叩きつける。拾う。
「君のせいで僕の心の中は複雑でぐちゃぐちゃなんだよ!! 意味わからない言動が多いし、痴漢するし、痴漢するし!! 酷い事言っても直ぐ許すし、何考えているか分からないし!! 聞いても答えてくれないし!!! とんでもない受容体だし!!」
「申し訳ございません」
「でも、トイレに着いてきてくれて安心したんだよ!!! あの二人とも仲良くなれたんだよ!! バカヤロー!」
叩きつけ。彼女は再び紙を拾う。
「ああ、だから何が言いたいかというと……良く分からないんだよ!! 僕もこんな気持ちは初めてなんだよ! 感謝はあるけど男だし、でも安心するし、でも男だし、訳が分からなくてずっとモヤモヤしてるんだよ。馬鹿やろー!!」
彼女は叩きつける。今度は拾わない
「……ちょっとスッキリした。良く分からないモヤモヤを言えて……」
「そ、そうですか?」
「僕も本当に何を言いたかったのかは分からないけど、これが言いたかったんだと思う……何言ってるか自分でも分からないけど……」
「まぁ、人間なんてそんなものですよ。心を言葉で表現するのは至難の業ですから気にしなくていいと思いますよ」
「だから、そういうのがモヤモヤさせるんだけど……まぁ、いいや。スッキリしたし二人の所に戻ろうか」
「そうですね」
彼女は感謝を伝えたかったのか? それとも……いや、よそう。外れてたら気持ち悪いだけだ。
戻ると二人が満面の笑みで待っていた。
「萌黄……三分遅刻!」
「つまり……1800分ですね、三十時間おめでとうございます!」
「ああ!? 忘れてた!! ちょっと待って二人とも流石にそれは!!!」
「分かってるわよ」
「分かってますよ」
「そうだよね、流石にじょうだん……」
「小分けにして使うから」
「ええええ!? 何それ!?」
「火蓮先輩と私が萌黄先輩の悶える姿が見たくなった時に使って行きます」
「補足説明がとんでもない!?」
『魔装少女』の初期メンバーである三人。そして片海アオイと五人目。彼女達の運命は一体どんな結末になるかは知っている。何度も見た。見返した。
でも、彼女達は何度見ても飽きない。
「ちょ、ちょっと君からも何か言ってよ!? 君が言えばふたりも落ち着くし!? 僕は二人にいじめられたいけど限度があるんだ!」
「そうですね。写真撮りましょう。屋上で」
「ええ!? 無視!? 僕無視!?」
「いいわよ」
「私もいいですよ」
「何でこんな時ばっかり二人は団結するの!?」
四人で屋上に行く。青い空とフェンスをバックに
「それじゃあ、ハイチーズ」
パシャリとスマホで撮ると大好きな三人に囲まれた写真。
彼女達の為に動いたがそれは俺がやりたかったこと、俺の勝手な心で動いたからご褒美も報酬も出ることはない。でも、ちょっとだけモブにしては頑張ったわけだし
取りあえず、これくらいならいいよな?
彼女達との写真をスクショ百枚してと……待ち受けにもな……
宝物だな
「この後、あの喫茶店行きませんか? 俺が奢ります!!」
「勿論行くわよ」
「私も行きます」
「僕も行くよ! 奢りならたくさん食べて君に迷惑かけて八つ当たりしてやる!」
「萌黄?」
「萌黄先輩?」
「ヒぃ、ご、ごめんなさい。冗談です……」
楽しいな。大変だったけど楽しくて、ワクワクして夢がある。素晴らしいファンタジーで魅力的なキャラが沢山いる。
此処はそんな世界。
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