第8話 そこそこの大怪我なモブ
「なるほど、最近天之川の不良に難癖をつけられたのか……」
「はい、特に銀堂さんが狙われた感じで、痛たたたた!!」
俺は六道に事情を説明しながら、わざとらしく肩を抑える。目を閉じ、沢山のしわが出来る。確かに重症だが、彼女がひどい目に遭うバッドエンドに比べたら大したことはない。彼女は十人ほどから酷い目に遭うが、俺は昨日の不良を入れて五人ほど。
人通りの少ないところで、昨日の不良達とわざと会った時は十人ほどいた。しかし、逃げているうちに五人ほどしか追って来なくなった。手分けしたのか体力が尽きたのかは、分からないが。
少し焦ったことと言えば、一か所に固まっていたことだ。
『ifストーリー』と違い、彼女をつけ狙い至る所で待ち伏せしていなかった。二人くらいで組んで潜んでいるはずなのだが少し本来とは変わっていた
しかし、よく考えて見れば、この行動には納得だ。本来は二日目で凌辱を受けて、そこから噂が広まって行く。それに興味を持った下種が集まり捕まえようとする。
だが、二日目は俺が上手くかわした。今の所、凄い美人がいるくらいの噂なのだろう。確かに興味は湧くが、前者ほどではないだろう。だからこそ、朝から張り込んで捕まえるようなことはしなかったのだろう。これくらいのイレギュラーは想定するべきだったと少し反省している。
だからこそ、逃げているうちにバラけてくれたのが、こちらとしては本当に助かった。確かにまぁまぁ重症だが、この程度で収まったのは、祈りだけでなく不良の人数もあるだろう。十人ほどでボコボコにされたら、人通りの多いところでも打撲で済まなかったかもしれない。
「大丈夫か!!」
「大丈夫、、で、す、、痛」
「なんて奴らだ! ここまで乱暴にするとは!」
六道は、苛立ちを隠せないようで拳を握る。生徒がここまで大けがをさせられたら、こうなるのは当然。一応、狙い通りだ。
「これから、どうすればいいのでしょうか? 大分不良に目をつけられてしまいました……」
「……先生が、何とかしよう」
「どうやってですか?」
「詳しく言えんが、何とかしよう」
「あ、ありがとうございます」
何とかしてくれるようだ。良かった~、上手くいって。先生はこの後用事があると言って出て行った。
『血列団』の力を行使するのはかなり俺自身にもリスクがあり、危険な賭けだった。だが一応ひと段落だ。
Aクラスだったのが本当に運が良かった。俺に何かあった場合、すぐに六道哲郎に連絡が行き彼が一番に対応をしてくれる。
そこに関しては、運が本当に良かった。もし、俺がAクラスでなかった場合
しかし、その場合でも怪我をすれば同情心を誘うことができたのではと考えていた。
退院後、校内で不良にやられたと彼の前でアピールをする。具体的には怪我の状態でわざと彼の前を通ったり、彼の前で痛がるふりをしたり、独り言のように何かを呟き、彼が心配したところでさりげなく相談する。
自然に彼に兄弟パワーを使わせるために、こういう策も考えていたが……。
もう終わった事なのでどうでもいいんだけどな。情けないが、俺には不良達を完ぺきに退けることはできない。だからこそ、六道哲郎に頼るという方法を選択した。
今のところ順調だし、取りあえず点滴が終わるまで大人しくするか。
俺は一息つきベッドに横になった。その日は適当に過ごした。一応、一日だけ入院なので本などを読んでいると
「大丈夫か?」
「大丈夫だけど、お前が来るとは……」
放課後の時間になると、まさかの佐々本が見舞いに来てくれたのだ。
彼は悪い人ではない。しかし、知り合ってまだ三日。見舞いに来るのは予想外だった。
「後ろの席の奴が、ボコボコにされたって聞いたら気にするさ」
「そういえば、お前はそういう奴だったな」
物語でも彼の人柄の良さは書いてあった。いつもの言動で勘違いされがちだが、根は悪い奴ではない。俺も佐々本太郎という人物は嫌いではなかった。
「なんだよ、その言い方。俺のこと知ってるみたいな言い方だな?」
「言葉の綾だ、気にするな」
「ふーん。あ! そう言えば、見舞い品も持ってきたんだ」
「悪いな。そこまで気を使わせて……」
彼は茶色の袋を俺に手渡した。中を開けると
「エロ本かよ」
「男は好きだろ? そういうの?」
「嫌いじゃないけど、見舞いの品なのか? これ?」
「大分心が病んでると思ったからな。それで色々満たしてくれ!」
表紙には肌を多めに出した女性の写真が堂々と映されている。確かに美人で、嬉しいか嬉しくないかどちらかと言われたら嬉しい……こういうのは購入するのが恥ずかしい。更に一冊も持って居ないので少しありがたい。
「一応、貰っておく」
「大事にしろよ!」
俺は袋に再び入れて近くのテーブルに置いておく。
「じゃ、俺はこの後本屋行くから! お大事に!」
「わざわざ、ありがとうな」
佐々本は、見舞い品を渡してすぐに帰った。それにしても良い奴だ。流石人気投票でちょくちょくトップ十に入るのも納得だな。せっかく彼が見舞いとして持ってきてくれたものだ。これはしっかりと見なければ彼に失礼だろう。
俺は茶色の袋の中から本を出そうとして手を伸ばすが、誰かが室内に入ってくる音が聞こえた。俺に用がある人かどうかわかるまでは本は見れないので、一旦聖書は放置。
読んでいるときに人が来たら気まずいどころじゃない。
足音が聞こえ、カーテンの前で足音が止まる。シルエットで僅かに女性と言う事が分かった。と言うかすごい見覚えがある。
「十六夜君、私です。入っていいですか?」
銀堂コハクまで来るとはな。ちょっと意外。
「どうぞ」
彼女は許可が出るとカーテンを開けた。笑顔だが何処か恐怖を感じる。
「失礼します」
「わざわざ来てくれてありがとうございます」
「お気になさらず。一緒に朝五時登校したのに気付いたら入院されていると言われたら、来ないわけにはいきませんよ」
嫌味っぽく彼女は告げてきた。顔はいい笑顔だ。あら可愛い、とはならないな。
「いや~。忘れ物を思い出して家まで取りに行ったら不良に絡まれちゃって」
「あら、それは災難でしたね」
「ええ」
「で? 本当は?」
笑顔のまま首をわずかに傾げて再び質問を投げかける。どうやら騙されてはくれないようだ。
「私がここに来る前学校の校門から出ると、昨日の不良が私に謝罪をしてきました。ここ最近は迷惑をかけてすまなかったと貴方にも謝っておいて欲しいと」
「何が起こっているのか分かりませんが、ただ一つ言えることは貴方が色々裏で手を回していたということ。そこは何となく分かりました。説明していただけますか?」
説明しろと言われても無理だ。本来なら知りえない情報の中で、俺は策を凝らし行った。もし説明すれば、不自然さが浮き立つ。言う必要は無いだろう。
「本当に忘れ物をしたんですよ。ただ先生が色々やってくれたみたいですよ」
「先生と言うと六道先生ですか?」
俺は笑顔で肯定するように頷いた。しかし、彼女は未だに納得が出来ないようで
「でも、何かしっくりいきません」
「そう言われてもそれしかないよ」
適当にとぼけて誤魔化す。これ以上は彼女も聞けないだろう、聞いたとしてもこれ以上何かを話すようなことはしていないことは分かるはずだ。
「もういいです。私は帰ります」
「わざわざ来てくれてありがとうね」
不機嫌そうに帰ることを宣言した。彼女の中では魚の小骨が突っかかっるような不快感が支配しているのだろう。
「……十六夜君。その生き方楽しいですか? 辛くないですか?」
背を向けて帰ろうとしていた彼女は、こちらに向かい合うことなく聞いてきた。
「うーん、どうでしょうね。楽しいかと聞かれたらノーで、辛いと聞かれたらイエスですね」
「ですよね……」
「ただ、俺が信じてやってきたことは無駄じゃないと思いますから、嫌な事だけではないですよ」
「……お大事になさってください」
彼女はそのままカーテンを開けて出て行った。心を読むと言うことは俺にはできないが、彼女の困惑は感じ取れた。
◆◆◆
『ただ、俺がやってきたことは無駄じゃないと思いますから、嫌な事だけじゃないですよ』
……そんな言葉どうして言えるんだ?
やっぱり、あそこには行くべきでなかった。ますます心が乱された。
私も、あんな風になりたか……
――違う、今の私が正しいんだ!
あの生き方は自身が苦しんで何一つ得はない。彼なんて最たる例だ。彼は私の為に不良を退けたんだ。どうやったかは分からないが。
でも、それを褒めることは誰もしない。報われず、ただ自身が傷つくだけ。
そんなの何の意味がある?
……ダメだ。考えないようにしてもまた考えている。
本当にこれっきりだ。もう関わらない。
私は自身の考えを取っ払い自宅に帰って行った
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