第6話 回想をするモブ

「あの、落ち着きました?」

「女性の口にあんなものを……不良並みに最低ですね」

「出していいって言うから」


 えっ? 何の会話? と思うかもしれないが、普通に如何わしいものではない。彼女は水鉄砲を口に入れた後、水をがぶ飲みしてようやく落ち着いた。その後、二人してもう一度ソファーに座る


「確かにそう言いましたが、こんなに辛いなら止めるべきではないのですか?」

「本当に出していいか、やる前に聞きましたよね?」

「……そうでしたね」


 今回の事は彼女に責任があるだろう。彼女もそう言えばと渋々納得したようだ。


 さて、彼女の誤解を完全に解くとしよう。このままでは世界滅亡であり、バッドエンドの『ifストーリー』から逃れるために動いているのに彼女の信用がないと動いてもうまくいかない。


「あの、さっきの事は本当に誤解です。」

「どうでしょうね? 口では何とでもいえると思いますが」


 彼女の過去があるからこんな風に深読みしてしまう理由も分かるが、でも、今回は彼女に責任があるのではないか?



「こんなことは言いたくないんですけど、逆とも取れませんか?」

「逆?」

「銀堂さんが俺を押し倒した、みたいな……」

「な、何で私が、貴方を押し倒すんですか!?」


 僅かな怒り、羞恥が入り混じったようで声を少し荒げた。

 ここは彼女を論破して納得してもらおう。


「だって、先に転んだの銀堂さんだし……」

「あ、あれは、偶然です!」


「普通何もないところで転びますか?」

「あの時は……足元がお留守で何故か分からないのですが、足がもつれて……」


 彼女はそこを責められると結構痛いはずだ。俺の言っていることが案外筋が通っているからこそ、なかなか言い返せない。


「へぇ~。何もないところで転んだんですか?」

「なんですか!? 悪いですか!? 言いたいことがあるなら言ってください!」


「いや……別にないですよ」

「嘘を隠す努力を少しはしたらどうなんですか!?」


 わざとらしく嘘をつく。誰でもわかる嘘だ。逆上とも取れるが、俺が徐々に追いつめている証だ。

 よし!! このまま突っ切る!


「おふざけはこれ位にして、こんな感じに何でもかんでも怪しい行動に結びつけられるって事を言いたかったんだけなんですよ」

「……私が貴方と不良がグルではないかと言った事も、考え過ぎだと?」


「そうです。それが言いたいんです」

「確かに深読みしすぎたかもしれません」


 フッ、勝ったな。何とか彼女とのトークバトルに勝利することができ信頼を回復できたのかな?


「ですよね? 俺は悪い奴ではないんですよ」

「確かに不良とグルという点は私の考えすぎかもしれません。助けてもらったのにすいません。失礼な事を言って……」

「いえいえ、気にしないでください」


 ああ~良かった。これで何とか彼女の信頼を勝ち取れた。彼女は中々人を信じないけど、俺の熱意が伝わったんだろうな。


「でも、女性の体に触っておいて開き直っている貴方は人として信頼できません」


 まぁ、こんな簡単に彼女の心の扉が開くわけ無いか。分かってたけどね。


「開き直ってないですよ!」

「開き直ってるじゃないですか!」


「あれは、不可抗力って何度も言ってるじゃないですか!」

「どうでしょうね? 倒れる時に、あ、これチャンスだ!って思ったんじゃないですか?」


 無限ループしてる! この会話さっきもやっただろ! もう埒が明かない。不良の仲間と思われなかっただけでも良しとするか。これ以上は意味ないだろうし。


「もう、それでいいですよ」

「やっぱりそうだったんですね! 不潔です!」

「今日はもう帰りますね……」


 俺はため息をつきながらソファーから腰を上げて玄関に向かう。


「ちょっと、話はまだ終わってないですよ!」

「今度聞きますね」


 スタスタと玄関に向かって行き、すぐに靴に履き替える。彼女も一応見送りをしてくれるらしい。


「では、失礼します」

「……本当なら、警察に連絡したいのですが今回だけ許してあげます」

「はい、ありがとうございます」


 どうやら許してくれるようだ。俺が悪いわけではないのだが、これ以上火に油を注ぐのはやめておこう。警察だけは勘弁だからな。


「あっ、銀堂さん」

「なんですか?」


「明日、朝五時に一緒に学校に行きませんか?」

「朝五時!? 何考えてるんですか!?」


 これはバッドエンド回避の俺の作戦なのだが、分かるわけ無いだろう。


「ここには俺が迎えに来ます」

「朝五時に私を呼び出して何をする気ですか?」

「学校に送るだけです」

「だったら、そんな時間でなくてもいいのでは?」

「不良どもがうろうろしていますから」


 彼女は再び怪しそうに俺を見た。何を考えているのか分からない俺がいまいち信用できないのだろうか。


「これから、毎日不良を避けるために朝五時ですか? 入学して、まだ二日目なのに体持ちますかね?」

「それなら、大丈夫です。……多分」

「どっちなんですか。まぁ、いいですよ。私も不良とはできれば会いたくないですし」

「じゃ、明日五時に来ますね。それでは、失礼します」

「気をつけて、帰ってくださいね」

「はい」


 俺はそのままドアを開け、彼女の自宅から去って行った。




 帰り道、周囲を警戒しつつ今後と現在の確認。


 まずはこの世界が滅亡する世界。『ifストーリー』の世界線と言う事は確認した。初日の不良に絡まれた事で確認した。世界には普通の『ストーリー』であってほしかった。


 本来の『ストーリー』は夏休の後半まで、特に面白いイベントなどは無い。そこまで彼女は美人であり普通の高校生として生活していた。『魔装少女』同士の絆とかはなくプロローグのようなものだ。


 『ifストーリー』は入学初日から不運、最悪続きの胸糞悪い話のてんこ盛りである。


 何故こんなクソな話が発売されたのか? 作者は何を考えているのか? 疑問に思った俺は調べてみた。これは色々諸説あったのだが一番有力だったのは……。

 

 編集者の無茶ぶりと過剰な指示。

 まずこの世界の『魔装少女~シークレットファイブ~』は、既に完結していた作品なのだ。とんでもない大ヒットした面白ライトノベル。

 超絶人気があったのだが、完結した作品がいつまでもトップというわけではない。


 これは当たり前のことだ。古い物から新しい物、これは普通の事。

 しかし、出版社の経営は悪化。『魔装少女』以外の大ヒットがなかなか出ない。

 他の社の人気作品がどんどん売れる。これに徐々に焦り出した編集者は完結した『魔装少女』を無理やり刊行。

 作者に無理を言って描かせたのだ。最初は普通の短編の詰め合わせ。しかし、ブームが少し過ぎた作品は売れるのは売れるのだが伸びが悪い。その間に他社はドンドン名作が出てくる。


 あっちの会社より、こっちの会社で書いた方が売れるという噂も出始めた。

 他社の方が売れるので、あっちの会社に小説を持っていこう。そんな作者が多くなった。

 それにより爆発的な作品は出ない。その編集社に作品持っていく作者が減る。会社の経済事情は悪化し倒産の可能性も出始める。そこで、大ヒットだった作品を無理やり『ifストーリー』として刊行しようと言う考えが出た。


 それこそが最悪しかない『ifストーリー』なのだ。



 しかし、ただ売っても伸びは悪い。そこで過度な演出、過激でギリギリの描写。それによって流れを再び呼び込むことが追加で決まった。作者はそれは流石にと難色を示したが渋々書き上げた。


 そこに編集でかなり無理なアドバイスを無理やり詰め込み出来上がったのが、

 『最悪の誰も救われない。バッドエンドif』

 最悪な作品だがかなり売れたのだ。表紙にはただのあり得たかもしれない未来と書いておく。元々のファンは気になって買うのは当然。しかし、そのファンが激怒しネットが炎上。


 それにより、昔は買ったけどもう買わないと言う人も気になって手に取る。

 過激すぎる演出などが話題性を呼び、ファンでない人も手に取る。一種の炎上商法の様なやり方で、売り上げはかなり上がった。

 そこから二巻、三巻と話が出るのだが話がエグすぎる、と話題は収まらない。『ifストーリー』は嘗ての売り上げに匹敵する位にまで上り詰めた。


 しかし、コアなファン。嘗ての魔装少女を見ていた人たちは怒りが収まらない。

 ファンたちによるガチ目の炎上。これにより、三巻までで打ち切りという形になった。


 これが最悪の作品の全容。勘弁してほしい。だが、やるしかない。




 これから動きの為にも、一応最悪のルートも読んでいた俺なのだがここで一巻の内容を確認しておこう。

 まずは入学初日の帰り道、不良に絡まれる。ここは大したことはない。回避した。

 

 二日目

 無理やり連れられ、凌辱を受ける。此処も回避した。しかし、本来いない場所に不良がいたのは予想外だった。イレギュラーというやつだ。俺のせいかもしれないが、本来よりはいい結果になったので良しとする。


 そして明日、三日目。


 朝から連れられた銀堂コハクが、十人ほどから凌辱を受ける。写メなどを取られ、そこから色んな所に拡散する。噂を聞いた更に遠くの不良達も詰め寄ってくる。



 どんどん人数は増えていく。それでも彼女は耐える。そして、四月の中旬ストーカー被害にあう。精神が不安定で虚ろな彼女は、それに気づかない。急に襲われ抵抗するがそのまま、凌辱を受けナイフで殺される。

 場所は近くの公園。時刻は6時15分。泣きながら絶望し、死んでいくのだ。『ifストーリー』の特徴は、この時点では彼女達は何の力もないただの女子高生と言う事。彼女達、魔装少女のつながりは殆どないと言う事、力も何もない、故にあらがえない。


 『ストーリー』とは、正反対の物語ともいえる。


 力があって仲間達と共に頑張り、ハッピーエンド。

 力もなく最高の仲間などいなく、バッドエンド。


 最悪だと思わないだろうか、変えたいとは思わないだろうか。

 俺は世界を救いたい。保身のためという下らない理由だ。


 ――でも、彼女達を救いたいというのは嘘じゃない。


 俺にしか分からないのだ、この世界は。ならやるしかない。ただ、俺は凡人。武道なんて習ったが、毎日投げられボコボコにされた。



 俺にできることはなんだ。ハッピーエンドにはどうすればできる。

 自問自答し、悩みに悩んだ。その結果が明日出る。








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