第49話 進んだような進んでないような休日
エルネシアと腕を組んで畑まで歩いてきたが、周囲にオトが見当たらない。
子供と遊んでいるのだろうか、仕事の邪魔になるからどこかの広場で遊んでいるのだろうか。
仕方がないので手作りの居岩小屋は諦めて、サイズ調整したロックタワーを建てておいた。
村の職人に入口のドアと窓作りを任せておいて1階に家具を設置すれば、農作業の合間の休憩所にもなる。
雨季や嵐のがあるか不明だが、あるならそれまでに間に合わせればいいし、間に合わなければ雨が過ぎるまでオトは我が家に住めばいい。
そうと決まればUターン、村長宅へ事後承諾を貰いに行こう。
「うん、それはいいね了解したよ、職人には注意点と一緒に僕から伝えておくから」
「何度も悪いな」
「いいよ、君が自分と恋人達よりも村人を優先してくれてるのはわかってるから。それにあのロックタワーは僕等のための物だからね、これくらいはさせてよ」
「そうか、んじゃ任せた、またな」
「またねシバ」
一見ただのエルフの優男なのに、村長に転職するくらい優しく思いやりがあるし、相手を満足させる会話能力も持っている。
世が世なら外交官にでもなれば、相手に利益を齎しているのに自国はそれ以上に潤う交渉をいくつも纏めて帰ってくる傑物になったかもしれない。
外交ってどんだけ難しいのか知らんから勘だけど。
△△▽▽◁▷◁▷
オト小屋についても片付いたので次になんの仕事が溜まってたかを思い出してみる。
まず不足していた繊維だが、これはドロップアイテムの木を分解合成すれば作れる。
20階攻略に必要な全員の甲冑作りは終わっている。
甲冑は18階から装着している、予め慣れておかないといきなり本番ではどんなアクシデントが発生するかわからないからだ。
なので初めての甲冑への動き方や視界への適応期間でもあるので18階では冒険の進みは遅くなって、まだ19階に入ったばかりだったりする。
村ダンジョン間の乗り物。
これは馬車が揺れてダメならトロッコ……つまり線路を敷くしかないだろうと結論、夕方の帰り道で石の通路を広く厚く頑丈にしている段階だ。
並行して空き時間にはミニチュアモデルを作りレールと車輪について研究している。
試作中の銃剣一体武器。
五里霧中でござる。
航空力学のない時代に空を飛ぶ挑戦をしていた先人達みたいな状態。
正解があるのかどうかも不明で、思いつく改造をしては失敗を積み重ねている。
うん、今日は武器いじりをするか。
不撓不屈の効果で落ち込まないから集中力の続く限り続けられるしな。
デートはしたいが村には巡る場所もないし、家でイチャイチャするお家デートしか選択肢がない。
釣りはデート相手が余程の釣り好きでもなければ生臭いから没案だし、ハイキングしようにも地球と違って安全じゃないから山に行っても武器を携帯した殺伐ハイキングになる。
家で武器を作るならエルネシアも意見を言ったり質問したりと、それほど退屈はしないだろう。
騎士なんでちょっと外に出て、武器のバランスを見るのに振ってもらうのもいいだろう。
家の前には到着したが、中で作業すると先日の大回復勘違い事件の事もあるから、裏手に居岩で作業小屋を作る。
靴を脱ぐだけの狭い玄関と、テーブルから落とした物がなくならないように壁と浴衣だけのシンプルな作りだ。
当然、屋根はあるが。
作業のしやすい広いテーブルを居岩で作り、イスは縦横に広いペンチタイプ。
これなら隣に座ったり後ろからもたれてきたり抱きついてきたりと、一緒に来た者が自由に座れる。
イスには厚いが柔らかい革を被せて、その上に芯から外した羽毛のクッションを一体化させてから、さらに薄く柔らかい革でコーティングした。
「なんか一気に、変形しないソファーベッドみたいになったな」
「なんですその、ソファーベッドって」
「ベッドにカラクリが仕込まれてて、左右半分のどっちかが背もたれになるように起き上がってソファーになるんだよ。んで、寝る時は背もたれを固定していたロックを外すと倒れてベッドに戻る」
「んんー?」
エルネシアはソファーベッドがどんなものなのか、言葉だけでは上手く想像できてないようだった。
「家や部屋に空きスペースがあるなら、ソファーもベッドも別に置いた方がいいって覚えとけばいいよ。ソファーベッドはベッドほど平らじゃないから寝にくいらしいし」
「はーい」
雑談はここまでにして、そろそろ作業開始といきますか。
イスに座ると作りかけの試作品や材料をテーブルに並べ、前回はどこまで進めたかなと思い出しながら試作品の状態を確認していく。
エルネシアは作業の邪魔にならないように、体半分の距離を空けて座った。
小屋の中には作業の音だけが静かに響き、穏やかな時間が流れた。
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羊皮紙にアイデアを書き出しては改造作業を続け、失敗のデータを蓄積していく。
背中から抱きついてきて肩越しに作業を眺めている、エルネシアの柔らかさや女の子特有の香りについムラっけが出てしまい、ソファーベッドっぽいイスの上に乗り耐久性のテストご休憩を始めてしまった。
「エルネシア、君のここに恋人のマークを刻んで生涯俺ものにしたい、俺のものだという証を残したい」
「いいですよ、その代わり他の恋人と同じで構いませんから一生愛して可愛がってくださいね」
「もちろん喜んで。恋人なんだから、言われなくても当然だよ」
本人からの許可も得たので指で下腹部にハートマークを描く真似をしてみる。
すると妙な手応えを感じ、もう1度描いてみる。
やはり勘違いじゃない、指先からこれまでにない反応を感じる。
「シバさん、どうしました?」
「ん、ああ実はな」
繋がったままのエルネシアに事情を話してみると、以外にもこんな言葉が帰ってきた。
「もしかしてシバさんの総職系男子が反応してるんじゃありませんか? あと少し条件を満たしたら新たな職業が得られるとか」
「なるほど、そうかもしれないな!」
「指先に反応があったんでしたら、何度も繰り返すとか魔力を込めて描いてみるとかでしょうか?」
「よしっ、やってみよう」
腰を突き出しながら、何度もハートマークを描いて、指先に魔力を集めて描いて、魔力を刻み込むように描いてと順に試していった。
刻紋師 こくもんし
紋様 特殊な効果を持つ様々な紋様の知識
刻印 紋様を刻印する能力
魔力を流してエルネシアの下腹部に完璧な造形のハートマークを描けたら刻紋師の職業が得られ、彼女のハートマークはいつの間にかピンク色に塗りつぶされていた。
「これで私は本当にシバさんのものになれたんですね」
プチン。
「エルネシアァァァっ、どうしてお前はそう可愛い事を当然のように言うんだよ!!」
エルネシアの可愛いセリフへの反応を最後に俺の理性は消え去り、我に帰るまでの数時間、彼女を回復し続けながら延々愛しあっていた。
作業は大して進まなかったが、次への可能性とさらなる愛を得られた休日だった。
夕食後の入浴とベッドにも参加しているエルネシアを見て、ヴェルカ以外の6人が驚愕していたが年頃が覚えたてでハマったなら、男女関係なくこんなものだろう。
少なくとも恋人の耐久力が上がるのは俺にとっては嬉しい事だ、愛的にも階数的にも。
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