第二話 展示品とは

 博物館の主について行くと、壁のガラスは仕切りで区切られており、中には色々なモノが入っていることに慶太は気付いた。さっきの羽の少女の隣には、少女と良く似た、けれど全体的に緑がかっている少女が空中で遊ぶようにクルクルと回っている。慶太の視線に気付いたのか、主は「ああ」と言って、そのガラスを小さく叩いた。

「シルフだよ。見るのは初めてかい?」

「シルフ?」

「シルフィードとも言われるね。風の精霊さ」

「精霊……」

 単語くらいは聞いたことがある。でも、その存在は『物語空想』のものなはずだ。少なくとも、慶太はファンタジー小説やRPGゲームの中でしか見たことがない。

 しかし、ここでふと思い出した。この博物館の名前。

 博物館。

 もしや、それはこういう事なのか?

 主を見上げると、彼はキョトンと首を傾げ微笑むばかりだ。その笑顔の裏は読めない。

「……シルフィード……」

 主を真似し、ガラスをコンコンと叩くと、その少女は慶太の傍までやって来てクルクルと回った。その愛らしさに、少し微笑む。

「シルフィードがいるなら、他の精霊もいるんですか?」

「ああ、いるとも!」

 慶太の問いかけが嬉しかったのか、主は両腕を広げた。そうして、反対側のガラスケースを指さす。

「向こうを見てごらん」

 言われるまま視線をそちらに向けると、二頭身ほどの派手な服と三角帽子を被ったヒゲを大層生やした小さな老人が、これまた小さな切り株に腰掛け、ずんぐりむっくりな指の割に器用に寄木細工を作っていた。

「彼は誰ですか?」

「ノームだよ」

「……ノーム……」

「土の精霊だね。手先が器用なのさ」

 そっとノームに近付くと、途中で気付かれたのかノームは険しい顔をし、おそらく彼専用に作られた家の中にフンっと入って行ってしまった。それ以降は顔のひとつも出しはしない。

「おれ、嫌われるようなことしましたか?」

 慶太の問いかけに、主は申し訳なさそうに小さく苦笑した。

「彼は生粋の人間嫌いでね。まぁ、姿が見られたのがラッキーだった、としか言えないのだよ」

「そうなんですね……」

 ノームの家は茅葺き屋根で出来ており、あまり丈夫そうには見えなかったが、ただ、慶太にはそうとしか見えないだけなのかもしれない。『展示品』なのだとしたら、シルフィードと同様にある程度の自由や快適さはたもたれてるはずだ。

「おれが初めて見た彼女は何の精霊なんですか?」

「彼女かい? 彼女はピクシーだよ。いわゆる妖精さ。ただ、あの子はちょっと他の子と違うから保護したんだよ」

「違う?」

「……見た目がね、ちょっと違くてね」

 緩やかな苦笑に、「そうですか」と返す。肩越しに振り返ると、さっきの少女は楽しそうに踊っていた。隣にいるシルフィードが、それに気付き、彼女もまた楽しそうにクルクルと回り出した。

『他の子と違う』

 それは、慶太にとってとても恐ろしいことだった。『他人と違う』ということは、すなわち『除外される人間』だからだ。学校生活を送る上で、これほど恐ろしいものはない。だから慶太は、『他から除外された子彼女』が、少し可哀想だなと思った。

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