6-6 美里先生、まさかの家庭訪問とかカンベン

 美咲先生は、じっと俺の反応を探っている。


「せ、先生」


 額から汗が垂れたけど、この際知らん顔でシラ切るしかないだろ。


「それはすべて誤解です。まず中学生ですけど、妹がたまに遊びにくるから、多分しおんのことだし。金髪は留学生で、単なる知り合いだから別にやましいことはないし」

「小学生は?」

「うっ。そ、それは……」


 汗がダラダラ流れてきた。


「……そ、そうだ猫だ、猫。猫と仲良くなったら、飼い主がついてきちゃって」

「……?」


 美咲先生が首を傾げた。


「えと間違えた。それ大家の娘さんで。飼い猫を通じて友達になったというか。忙しい大家さんに代わって、勉強を教えてるだけです。き、今日もこれから勉強を教えるわけで。単なる教師生徒の関係というかなんというか。そう、美咲先生と俺の関係と同じ。師弟関係でまだデートもしてないし、付き合ってないでしょ、俺たち」

「あたりまえじゃない。なんで先生が海士くんとデートしなきゃならないのよ」


 先生はドン引き気味だ。


「あたしとデートしようなんて、百年早いわ。まずきちんと卒業して、学校で会わない関係にならないと。卒業のときID交換して、ひと月くらいやり取りして、それからでしょ。あたしがその気になったら、一度くらいデートしてあげるから。エッチなことも、一回めはなしで。そう、ゴールデンウイークが最初の山ね」


 妙に具体的な美咲先生であった。


「……まあ海士くんは、やればできる子だし悪いことはしないから、言うとおりなのかもしれないけれど」

「そうですよ。やればできるんです」

「『やれば』ね、『やれば』。中間テスト悪かったら、あたしが生活指導に入って、家庭訪問して生活態度をチェックするから」

「か、家庭訪問ですか」


 思い浮かべた。あのぶち抜きアパートというか「魔窟」に足を踏み入れ、美咲先生の目が点になるところを。


「そうそう。男子生徒がひとり暮らしするアパートって、生徒指導抜きにしてもちょっと興味あるし」


 瞳に意味深な笑みが浮かんだ。


「エッチな本、どこに隠してるかとかさ」


 ――同棲しているネクロマンサーと天魔天使と冥府の使いをどこに隠したか、とかな。まだ乾いてない女子のパンツをどうしたとか。女湯ののれんをどこにしまったとか。


 頭が痛くなってきた。


「は、はい。とにかく頑張ります、テスト」

「あら、急に本気になったわね。そんなに先生を自宅に入れたくないわけ?」


 美咲先生は、パイプ椅子に背をもたせかけて腕を組んだ。


「なんかちょっと残念な気がするわ。海士くん、人間味があって好きなのに」

「す、好き?」

「生徒としてよ、もちろん。なに赤くなってんの。先生が恥ずかしいじゃない」


 またファイルではたかれた。先生も少しだけ上気している。


「それと」


 先生はお茶を口に運んだ。


「海士くんが彼女を作っても許してあげるけどもさ……」


 睨まれた。


「女の子を泣かせちゃだめよ。意志に反して悪いことしたりとか」

「しませんよ、そんなの。第一地獄へ叩き落とされちゃいます」

「地獄へ……って」


 美咲先生が眉を上げた。


「いっいえ比喩でして」

「そりゃ女の子は怖いもんね」


 ――マジで怖いけどな。ウチの女どもは。


 チェーンソーを手にした古海が頭に浮かんだ。

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