6-3 壁をぶち破ってジェイソン登場w ホラーかよwww

 ミントは不思議な少女だった。なんでも素直に指示に従う。逆に言えば、指示しなければなにもしない。食事もしない。誘えば食べる。猫も同様。残り物やネコ缶、カリカリなど与えるとうまそうに食べるが、出さなければ平気で何日も絶食する。それに排泄を全然しない。


 ミントは一応トイレには入っているが、実際にしているかは疑問だと俺は考えていた。みんなが入るから真似しているだけな気がするのだ。



 古海が泊まりに来ない夜には、俺は床でなくベッドで寝る。ティラが寂しがるし、自分だってなにも堅い床に寝たくはない。それに欲望を我慢する鍛錬になるからなw


 ティラは悪夢を見る頻度が高まっていた。育ちつつある天魔の影響なのかもしれない。汗をびっしょりかいて、震えている。


 そんなとき俺は、ティラに腕を回して包むように抱いてやることにしていた。かわいそうだし。


 俺の胸に頭を置くと安心するのか、悪夢から逃れられ穏やかな顔となってすやすや眠る。子猫のように温かく柔らかいティラの体を抱くと、体の奥底からモヤモヤした欲望が湧き上がった。そっと背中を撫でて欲求を散らしつつ、それ以上の行為は我慢する。これも修行だ。なんか苦しいだけの気もするがw


 どうしても我慢できないときは、ブランケットに潜り込んで天使服の胸に鼻先を突っ込み、甘えることにしていた。夢うつつで微笑みながら、天使は俺の頭をそっと抱いてくれる。鼻と頬でティラの胸に包まれると、幸せな気持ちになるからな。なんか知らんが、男としての欲望を超えた、もっと根源的な幸福感だ。


 睡眠中の体から立ち昇る濃密な天使の香りが欲望を抑えて昇華させているのだろうと、俺は想像していた。こうしていれば一線を超えることなく、別種の快感に浸っていられる。これ、俺が発見した、最高の修行法なわけよ。まあ気持ちよくて修行になるから美少女天国に近づくという。一石三鳥さ。


 専用に買ってやったソファーベッドを離れ、ミントがベッドに潜り込んでくることがある。決まってこうして俺がティラの胸で甘えている夜だ。背後から抱きついてくる。


 天使に甘えている男は襲ってこないとわかっているかのようだった。なんての、ガキなりに防衛本能があるというかさ。


 ミントはいつも裸で眠る。背中に小さな胸を感じた。ミントの腕が胸に回されもぞもぞ動くのも。猫もベッドに忍んでくると、ミントの後ろ、あるいはミントと俺の間に収まってにゃあと鳴き、うれしそうに眠ってしまう。三人と一匹の体温でベッドは心地良く発熱し、天使の頬には安堵の笑みが浮かぶのだ。多分だが、自分の中にある邪悪な影に脅かされない一夜を得てるんだろうさ。知らんけど。



 ある日もそんな一夜を過ごし、目覚めると眼前に裸の胸があった。ティラの巨乳ではない。慎み深い微乳が、直哉の頬や唇に押し付けられている。


 起こさないように、そっと体を離した。ミントの腕が俺の頭を離れ、ぱたりとベッドに落ちる。まだ朝も早い。すやすや寝息を立てる天使と死神(?)を置いて抜き足でベッドから離れると、大きく伸びをした。


 今日は週末。のんびり過ごせる一日だ。


 突然、なにか安っぽい機械ががなるような音が響いた。エンジンの轟音も。「キュイーン」というような高周波の騒音が発生すると、安アパートがグラグラ揺れた。


 ――地震かっ!


 寝起きの頭が混乱した。しかし地震ではないようだ――と思う間もなく、白い壁がグラグラ揺れると、そこから鉄板のようなものが生えてきた。


 よく見るとチェーンソーじゃん。なんだよこれw


 粗い刃がエンジンで回転している。チェーンソーは、そのまま縦に床まで切り進んだ。いったん向こう側に抜けると、今度は横に入ってガンガン進み出す。


 呆然として金魚のように口をパクパクしている間に、とうとう壁は床から天井まで切り裂かれ、部屋の中に倒れてきて粉々になった。もうもうとした煙の中から、つなぎに安全ゴーグルと作業マスク姿の女子が現れる。


「やっと開いたわ」


 ゴーグルとマスクを外した。


「よっお隣さん」


 俺を見てにっこり笑う。


「お前……」


 古海だった。なんだよこいつ。ジェイソン君かよ笑うわ。てか、どういうこと?

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