第22話 責任
「ガラハッド王子。大神官様とお二人の事、ありがとうございました」
大神官様に連れられて神殿に入ると、中では青いマントを身に纏った金髪碧眼の青年が待っていた。
整った顔立ちに涼やかな表情。
纏ったマントには王家の家紋が刺繍されている。
彼がガラハッド王子だ。
私は礼を言い。
頭を下げる。
「いや、礼を言われる様な事はしていないよ。むしろ王家が君にひどい仕打ちをしてしまった。すまない」
今度は王子が私に向かって頭を下げる。
その様子を見ない様、護衛達が視線を逸らす。
彼らからすれば、主人が頭を下げる姿は見るに耐えないのだろう。
王子の護衛は5名。
全員黒のフルプレートを身に纏い、精悍な顔つきをしている。
少数ではあるが、黒の鎧は王国親衛隊、それも最精鋭のみが纏う事の許された証であるため、ボンクラを大量に引き連れるより余程頼りになるだろう。
「王子、頭をお上げください」
ぶっちゃけ、やられた事を考えると顔面を蹴飛ばしてやっても良いぐらいだ。
だが彼のお陰で大神官様は死なずに済んでいる。
ハイネやアーニュにしてもそうだ。
ガルザス王子は被害者である二人を捕らえ、なんとか情報を引き出そうとしていたらしい。
そこをガラハッド王子が介入して、二人は事なきをえている。
「王家から――主にガルザス王子――受けた仕打ちを忘れるつもりはありませんが、ガラハッド王子に直接的な責任はありません。だから頭をお上げください」
王家とガルザス王子を許す気は更々無いが、彼に関してはその矛先を収める事にしておく。
血筋に問題がるからと言って、彼の善行を認めないのは理不尽だから。
「すまない。このガラハッドの名に懸けて、必ず君の名誉を取り戻す事を約束しよう」
「それは王家の醜聞に繋がりますが、良いのですか?」
私の誤解を解くという事は、ガルザス王子――王家の失態を暴露する事に等しい。
そうなれば各国も黙ってはいないだろう。
ガレーン王国は魔王を封印するという大役を担うにあたり、外交で大きなアドバンテージを得ている。
国が傾き、封印が解ければ世界に災いが振り撒かれる危険がある以上、周りの国もガレーン王国を優遇せざる得なかった。
そうやって周りの国から色々な物を引き出して来ている以上、当然責任を持って封印を維持する義務がガレーン王国にはあった。
優遇させるだけさせて、失敗しましたでは通用しない。
魔王を信奉する魔女のせいで封印が解けたという理由を謳っている現在ですら、周りから散々叩かれているのだ。
それが実は王家のミスだとバレれば、下手したら国が無くなりかねない。
「しでかしてしまった事は事実だ。一人の人間にその責任を押し付けて良い物ではない。各国へは誠心誠意事に当たる積もりだ」
「そうですか」
どちらにせよ私は自分の身の潔白を証明するつもりだったので、真相はいずれ暴かれていただろう。
だが自らの非を認め、悔い改めるというのならばそれは評価に値する行動だ。
「アリア。貴方は大いなる力を手に入れたようですね。どうかその力を王子に貸してあげてくれませんか?」
私はその大神官様の言葉に思わず「えっ?」となる。
「どうしてその事を……」
確かに聖剣の力を手に入れはしたが、その事を知るのはクローネ王国のごく一部の人間だけだ。
だがあの国が、不利益になるかもしれない情報をばら撒いたとは到底思えない。
「夢を見たのです。その夢の中で神はおっしゃられた。聖なる力を手に入れた貴方が魔王を倒すと。我々がこの神殿に来たのも、貴方がここに来ると告げられたからです」
神託……
大神官様ともなれ、神の言葉が聞こえたとしても不思議ではない。
それ位凄い人なのだ。
この人は。
そして態々ここへ迎えに来るよう告げたと言う事は、私にこの国の戦士として魔王と戦えという事なのだろう。
ボロボロになって崩壊するかもしれないガレーン王国を踏み留まらせるには、救世主を擁して魔王を討つ位しかなかった。
きっとそれは長きに渡って魔王を封印して来た国への、神様からの褒美に違いない。
「分かりました。大神官様がそうおっしゃるなら」
「おお、有難い。感謝する。アリア殿」
私の言葉を聞いて、王子の顔がほころぶ。
どうやら、私の名誉云々は救世主と知っての行動だった様だ。
ま、そりゃ只の個人の為に国を危険に晒す訳ないわよね。
さっきの真摯な態度で王子への評価が上がっていたのだが、その裏に損得勘定が見え隠れしたので逆に大幅ダウンする。
やっぱり王族は信用ならない。
「有難う。アリア」
「大神官様の頼み事じゃ、断れませんもんね」
従うのは神に踊らされてしまっている様で癪だが、多分それが一番角の立たない丸い終わらせ方なのだろう。
「但し、王家にはきっちりと責任を取ってもらうという条件付きではありますが」
ガルザス王子の処分は勿論の事だが、それを許した国王や腐ったシステムにも手を入れる事前提だ。
幾ら大神官様の頼みや神の思惑が関わっていようと、その辺りをなあなあで済ませるつもりはない。
「勿論だ。私はこの国を生まれ変わらせる。その為にどうか貴方の力を貸して頂きたい」
そう言うと、王子は再び私に頭を下げる。
その態度が形だけではない事を祈るばかりだ。
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