第11話 お断りします

「魔王の封印……か」


「どうかしたの?」


考え事をしていたら、いつの間にか独り言を呟いていた。

丁度そこに訪れたアーニュが訪ねながら席に着く。

ハイネも一緒だった様で、彼女も席に着いた。


「カルアの事よ」


カルアは魔王の配下だった。

仲間達にもその事は伝えてある。

序でに私の経歴についても。


「お、なんだ?魔王討伐する気になったのか?」


「んな訳ないでしょ」


元聖女とはいえ、魔王を倒すような力は持ち合わせてはいない。

あくまでも、再封印の為の存在でしかないのだ。

戦っても返り討ちに会うのは目に見えている


「国に任せるしかないわ」


カルアが魔王の配下である事。

そして魔王の封印の一部を遺跡で解いていた事は、ちゃんとギルドに報告してある。

その際、証拠としてカルアの遺体――灰――を渡しておいた。

調べれば力が残っているので、魔王復活の証拠にはなるだろう。


「けどあれから3週間。どこも動きがないみたいだぜ」


ハイネは運ばれてきた水を一気飲みし。

アーニュはハイネの分も含めたドリンクを注文する。


「水面下で動いているんでしょ?そんな情報を悪戯に公開したら、皆の生活に大きな支障が出ちゃうからね」


今は目立った活動をしておらず。

何処にいるかもわからない。

なにも被害の出ていない状況で、情報だけ出しても不安を煽るだけだ。


「それとさ……実は話が合って」


私はこの3週間。

迷っていた事を口にする。


「このパーティーを抜けようと思ってるんだ」


「おいおい、何だよ。藪から棒だな」


「本当はもっと早く言うべきだったんだけど、魔王の情報が正式に公開されなかったから先延ばしにしちゃってたんだ」


「それって。もしガレーン王国が魔王復活を認めたら、その責任を押し付けられるって理由で言ってる?」


「うん」


魔王はガレーン王国で厳重に封印されていた。

その復活が解け、世界に大きな被害が出れば当然王国は非難される事になるだろう。

その際に、責任を取る人間が必要となってくる。

スケープゴートとなる存在が。


「私は魔女認定されているし、最後に再封印を行なったのは私だからね」


カルアの話を聞く限り、ガルザス王子の愚かな行動が魔王復活の原因なのだが、国がそれを公開する事はないだろう。

全ては魔王信奉する魔女の仕掛けた罠として、きっと私に責任を押し付けて来る筈だ。


さもガレーン王国が被害側である様、仕立て上げるために。


まあそれで国への追及が無くなる訳では無いだろうが、ちょっとした緩和剤ぐらいにはなる。

完全な不手際よりはマシだろう。


「本格的に、世界中から指名手配される可能性があるからね。此処に残ったら、みんなに迷惑が掛かっちゃう」


ガレーン王国の話を他の国が鵜呑みにするとは思えないが、国が正式に発表すれば、他の国でもそれに合わせて私をお尋ね者として扱う可能性は出て来る。

一応髪や目の色は変えてあるのでそう簡単に見つかる事は無いだろうが、万一バレた時、二人に迷惑どころじゃないレベルの迷惑をかけかねない。


「おいおい、何言ってんだぁ?困った時に助け合うのがパーティーメンバーだろ。迷惑掛かるから追い出すとか、そんな最低な真似をあたしにさせる気かよ」


「ふふ、ハイネの言う通りよ。最悪、私達は知らなかったって言えば大したお咎めは受けないでしょうから。気にする事は無いわ」


「そうそう、気にすんなよ」


「2人とも……」


転生を含めて、失った物、背負った物は多いが、それでも私は自分が不幸だとは思わない。

こうやって素晴らしい仲間と出会えたのだ。

私はその事を心から神様に感謝する。


「ところで……なんかこっちを見てる奴らがいるな」


そう言うと、ハイネは指で背後の席を指した。

私は不自然にならない様、視線を其方へと流す。

一つ飛ばした席に、一組の男女が座っているのが見える。


「そうなの?」


私は彼らに不審な物を感じず、訪ね返す。

アーニュの方も見るが彼女も私と同意見の様で、首を軽く横に振って応える。


そもそもその男女は、ハイネの真後ろに陣取っていた。

彼女からは見えない筈だが。

いつもの動物的直感だろうか?


「間違いねぇよ。ちょっと撫でて来てやるとするか」


「ちょちょちょ……ちょっとまってよ」


彼女は席を立って背後の席へと向かおうとする。

私とアーニュはそんな彼女を止める。

こんな所で暴れられたら、店に大迷惑だ。


「店に迷惑だし。万一間違っていたらどうするつもりよ?」


精度は確かに高いが、絶対ではない。

彼女の勘が外れていた場合、関係ない人がぼこぼこにされる事になる。

流石にそれはシャレにならない。


「間違ってねぇよ。その証拠に」


再び彼女が背後を指さすと、男女が席を立ち。

此方へと向かって来た。

ハイネの動きに反応したと言う事だろう。


「魔女アリアだな。我々はガルザス王子の命でお前を迎えに来た」


「……」


男はでガルザス王子の命といった。

ガレーン王国ではなく王子の名を口にし、捕縛ではなく、迎えに来たと。

私はその言葉に眉根を顰める。


「王子の元に戻り、魔王討伐に尽力するのであれば。お前を聖女に戻しても良いとのお言葉だ」


聖女に戻れる。

それは即ち、お尋ね者ではなくなると言う事だ。

魅力的な提案ではあるが、私の返答は決まっている。


勿論――


「お断りよ」

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