第7話 神聖魔法
「エアラス!」
アーニュが浮遊魔法を発動させる。
彼女の両手から溢れ出した光が私達を球状に包み込み、全身が浮遊感に包まれた。
はたから私達を見れば、それは空に昇る光るシャボン玉の様に見えた事だろう。
「相変わらず、魔法は便利で良いよな」
セベックの大滝の麓付近まで辿り着いた私達は、アーニュの浮遊魔法で上昇する。
このまま断崖部分を魔法で昇って行き、遺跡へと続く洞窟へと向かう予定だ。
もし彼女の魔法が無ければ相当大回りしなければならなかったので、かなりの時間がかかった事だろう。
まあ実はこの魔法、私にも使えるのだが、周囲には秘密にしてあった。
聖女は神聖魔法を含めたあらゆる魔法を極めるプロフェッショナルだ。
だから出来るだけ聖女のイメージから遠ざかる様、私は初級レベルの簡単な魔法しか使えないという事にしていた。
「あそこが入口」
ある程度上昇した所で、カルアさんが洞窟を指さした。
見ると入り口――裂け目――が見えた。
どうやらそこが遺跡への入り口の様だ。
「良く気付きましたね?」
洞窟の入り口は、風景に溶け込んで凄く分かり辛い場所にあった。
それを当たり前の様に見つけたカルアに感心する。
「……」
だが彼女から返事は帰ってこなかった。
馬車に揺られていた時もそうだったが、カルアは必要な事以外口にしない。
どうやらあまり人と喋るのが得意ではない様だ。
「広いわね」
洞窟の中は真っ暗闇みで何も見えない。
光の魔法でアーニュが中を灯すと、思ったよりも中は広々としていた。
「強力な魔物の気配がするな」
アーニュの方を見ると、彼女は首を横に振って応える。
彼女の探索魔法に引っ掛かっていない以上、直ぐ近くには居ない筈だ。
「近い?」
「そこまでは流石に」
魔物や戦いに関するアーニュの勘は、酷くよく当たる。
彼女が強力だと言うからには相当大物のはずだ。
警戒しておいた方が良いだろう。
「兎に角、進みましょうか」
先頭を歩く。
アーニュが常時探索魔法を発動してくれてはいるが、それも決して万能ではない。
万一何かあっても、時間停止能力のある私なら対応が可能だ。
「まって……」
洞窟は一本道だった。
真っすぐ進むと、外の明かりが差し込んで出口が見えた。
だけど――
「ガーゴイル……」
悪魔の様な姿をした石像。
それが出口近辺に大量に並んでいた。
それは一見只の石像に見えるが、その瞳はじっとこちらを睨み付けている。
命亡き石の番人。
それがガーゴイルだ。
「完全にこっちを見てるわね」
ガーゴイルは特殊な魔法で生み出された疑似生命体であり、アーニュの生命力を感知する魔法では発見する事は出来ない。
その為発見が遅れてしまった
「遺跡の番人って訳か。ご苦労なこった」
ハイネは軽口を叩いてはいるが、その表情は険しい。
ガーゴイルは人造生命体の中では上位に入る。
その鋼の様に硬い肉体は、容易く剣を弾き返す程だ。
その為、パワーではなくスピードと技術で戦う私の体術でダメージを与えるのは難しいだろう。
更に高い魔法抵抗まで有している為、アーニュの攻撃魔法も効果が薄い
ハッキリ言って、かなり厳しい相手だった。
だが今から引き返そうにも、背中を向けた瞬間襲われるのは目に見えている。
どちらにせよ洞窟内は一本道だ。
遺跡に進むには、魔物を殲滅するしかないだろう。
「神聖魔法を使えるって言ったら、怒る」
頼みの綱は大剣使いのハイネだけだが、流石に10体を超えるガーゴイルをほぼ一人で仕留めるのは無理がある。
本当は神聖魔法が使える事は伏せておきたいのだが、そのせいで仲間や依頼主が命を落とす様なら話は別だ。
聖女とばれて追手が来るようなら、その時は改めて逃げれば良いだけなのだから。
「怒らない。寧ろ、補助魔法をかけて貰えるのなら大助かりだ」
「誰だって脛に傷の一つや二つあるものよ、いけずで隠していた訳じゃなし。そんなので怒る訳ないわよ」
「サンキュ」
私は仲間に恵まれている。
念の為に隠しはしていたが、彼女達は神聖魔法が使える事を言い触らすような真似は決してしないだろう。
問題は依頼主だが……流石に初対面の人間にそれを期待するのは無理か。
「と言っても。強化魔法だけだからあんまり過大には期待しないでよ」
まあ一応使う魔法は抑えめにして、そんな大した事はありませんよアピールはしておくとしよう。
神聖魔法は珍しい物ではあるが、よっぽど強力な物を使わなければ、流石に聖女と疑われる可能性は低い筈だ。
「十分十分。早速頼む」
「じゃあ、私は結界を張るわ」
そう宣言すると、アーニュは結界魔法を詠唱し始めた。
ガーゴイルには攻撃魔法が効き辛いので、彼女の仕事は結界で依頼主を守る事オンリーになる。
「ストレングス!」
私はハイネと共に前に出て、素早く強化魔法をかける。
かけるのは筋力強化と生命力強化。
それに反応速度向上だ。
本当はもっとかけたかったが、その3つをかけた所で魔法に反応したガーゴイルが襲い掛かって来た。
「ちえああ!」
ハイネの横薙ぎの一撃がガーゴイルを捉え、真っ二つに切り裂いた。
切られた体は上下に別れ、砕けて塵と変わる。
特殊な魔法生物であるため、ガーゴイルの死体はこの世には残らないのだ。
「すげぇな!おい!」
ガーゴイルは石像だが、その硬さは鋼を超える。
幾らハイネが怪力だとはいえ、一刀の元葬り去ると言うのはまず無理だ。
彼女は普段できない芸当にテンションを上げ、手にした大剣を荒々しく振り回す。
その様は正に鬼神。
寄って来るガーゴイルを全てを一刀の元に切り伏せ。
あっという間に全滅させてしまった。
「結界……いらなかったわね」
「ああ、神聖魔法ってすげぇな!」
本来なら、命の危機と言っていい状況だった。
それを容易く打開出来たのだ。
彼女達が驚くのも無理はない。
「そ、それ程でもないわ。アーニュの力があってこそよ」
尤も、一番驚いているのは他でもない私自身だ。
明かに神聖魔法の効果が上がっていた。
それも大幅に。
私の力……強くなってる?
国を出奔した後、封印を外しはしたが。
神聖魔法については一切使わずにやって来た。
勿論訓練だってしていない。
にも拘らず何故?
私は自らの力の増大に混乱するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます