死に戻り聖女は魔女の烙印を押され国を追われる~え?魔王の封印が解けた?そんなの自分達で何とかしてください~
まんじ
第1話 死に戻り
「アリア様あぶない!」
神官の1人が叫ぶ。
だが間に合わない。
結界の隙間を縫って現れたそれ――先端の尖った黒い触手――は、逃げる間も与えず私の体を貫いた。
腹部に衝撃を受け、体がくの字に折れ曲がる。
一瞬痛みで意識が飛びそうになるが、私は最後の力を振り絞り、呪文を完成させる。
「ぎしゃああああぁぁぁ!!」
触手がまるで断末魔の雄叫びを上げながら消えていく。
必然、私の体に刺さったそれも失われ、傷口から大量の血が溢れだす。
「これ……で……」
腹部が焼ける様に熱かった。
なのにそれ以外は、凍る様に冷たくなっていく。
やがて私の意識は途切れ、その場に倒れ込んだ。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「――なき……乙女の――」
声が聞こえる。
ゆっくりと目を開けると、視界には眩いばかりの照明が輝いていた。
魔法の光だ。
私は眩しさから目を細める。
――ここは?甘い香りがする。
視線を動かすと、私の周りは花で埋め尽くされていた。
――何でこんなに花が?
疑問に混乱する私の耳に、静かで落ち着いた声が届いて来る。
「聖女アリアは自らの命と引き換えに、魔王を封じ、この国を救った聖女である」
それは私のよく知る。
優しい大神官様の声だった。
だが私はその内容を聞いて思わず眉をしかめる。
聖女アリアとは私の名だ。
だがどういう事だろうか、今命と引き換えにという単語が聞こえた。
それではまるで死んだみたいに聞こえる。
――って、まさか!?
自分の周囲にある花。
その正体に気づく。
それが棺桶に詰められる献花である事に。
その時記憶がフラッシュバックする。
魔王との戦いで、封印と引き換えに自らが命を落とした事。
そして――
私は全てを思い出し「このままでは土に埋められる!」そう思い、勢いよく立ち上がる。
冷静に考えれば、蓋が閉まっても居ないのに埋められるわけなどないのだが。
「…………」
途端、大聖堂内が静まり返る。
周囲を見渡すと、救国の聖女である私を送り出そうと、大勢の人々が大聖堂に集まっていた。
ゆっくりと振り返ると、大神官様が両目を見開き、口を半開きにしたまま私を見つめている。
「あー、えっと……ただいまあの世から戻りました」
何を言っていいのか分からず。
取り敢えず生還を口にした瞬間、周囲がざわめき出す。
ある者は「神の奇跡だと」口にし、ある者は「悪魔の所業だと」口にする。
私を見て感極まる者。
恐れを表わす者。
理解が追い付かずにパニックを起こす者。
正に騒然とはこの事だろう。
そんな中、私の婚約者でありガレーン王国第一王子であるガルザスが動く。
一瞬、歓喜から彼が私を抱きしめようとしたのかと思ったが、そうではなかった。
ガルザス王子は私を後ろ手に羽交い絞めにし、有り得ない言葉を口にする。
「聖女を語る魔女め!このガルザスは騙されんぞ!」
その声を皮切りに、周囲の空気が変わる。
それまで奇跡を口にしていた者達迄、私に畏怖の眼を向けだした。
「この者を邪悪な魔女として!裁判にかける」
王子が高らかに魔女裁判を宣言する。
「ち、違います!私は魔女ではありません!」
私は叫ぶ。
だが王子の決定に異を唱える者は誰もいなかった。
只一人を除いて。
「お、王子!お待ちください!彼女は聖女ですぞ!きっと神の奇跡で――」
「黙れ!例え聖女であろうとも、死者が蘇る筈が無かろう!邪悪な復活の儀を除いてはな!大神官、さては貴様の仕業か!」
「な、何をそんな馬鹿な!?」
「その者を取り押さえよ!神に逆らう大逆者だ!」
こうして私と大神官様は捉えられ。
私は魔女裁判に掛けられ、邪悪な魔女として火炙りの刑が決まり。
大神官様は異端審問の結果、斬首されてしまった。
そして今日、執り行われる。
生まれてずっと神の為、ひいては国の為に身を粉にしていた私への非道なる仕打ちが。
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