第4話 カールの旧友

 2階から降りてきたエルフは暴れている男達を一喝する。


「あんた達やめなさい!!」


 エルフの声を聞いた男どもはまるで忠犬の如くすぐに武器を置き、そのエルフに向かってビシリと敬礼して見せた。

 どうやらこの男どもはあのエルフにしっかりと躾られているようじゃの~。それか単にあやつが余程恐ろしいのか‥‥まぁ儂にとってはどちらでもよい。別にそんなもの興味ないしの。

 男どもが敬礼しているなか、エルフは儂の元へと近寄ってきた。


「あ、あの‥その‥‥ご、ごめんなさいね。うちのバカどもが迷惑かけちゃったみたいで‥」


 儂の元に来るなりペコリと頭を下げエルフは男達の非礼を詫びた。


「別に気にしてはおらんのじゃ、それで?お主がカールの旧友のエルフなのかの?」


 儂の問いかけに対し、そのエルフはコクリと頷いてみせた。やはりこやつがカールの旧友で間違いないらしい。


「詳しい話は私の部屋でいいかしら?そこなら誰の邪魔も入らないわ。」


 エルフの提案にコクリと頷く。邪魔が入らないに越したことはないからの。

 そしてうなずいたのを確認したエルフは再び男達に向き直る。


「あんた達殺されなかったことをこの子に感謝するのね。そこで暫く静かにしてなさい。」


 可憐な女子おなごとは思えないほど、ドスの効いた声で男達に語りかける。それに逆らえる肝の据わっている者はいないらしく、敬礼をしたままピクリとも動かない。


「それじゃ着いてきて、こっちよ。」


 軽やかな足取りで2階へと上がっていくエルフの後ろに着いていき、まるで書斎のように本が大量に並べてある部屋へと案内された。


「まぁ、そこに座って?今お茶を‥‥ってあなた、お茶飲めるの?」


「お茶が飲めるかと聞いてくる辺り‥‥お主、儂がどういう存在なのか知っておるな?」


「え、えぇ‥あなたのことはカールから聞いてたわ。あなたカールの魔導書グリモアなんでしょ?」


「そういうことじゃ。」


 自分が魔導書グリモアであると証言すると、そのエルフはとても悲しそうな表情を浮かべた。


「そう‥‥じゃああなたがここにいるってことはやっぱり。」


「うむ、カールが死んだ。そして儂はカールの遺言のもとお主を訪ねたのじゃ。」


「カールも‥‥これで残ったのは私だけね。」


 悲しそうにポツリと呟いたエルフに儂は気になっていたある質問を投げ掛けることにした。


「ちょっといいかの?お主はカールとどういう関係だったのじゃ?」


「あ‥‥あぁ、ごめんなさいね。そういえばそれを伝えるのを忘れてたわ。」


 パチンと両手で自分の頬を叩き、先ほどまでの凛々しい顔立ちに戻ったエルフは先ず自己紹介から始めた。


「私はエリス。カールとは冒険者をやっていたときにパーティーを組んでいたのよ。もう何十年も前の話だけどね。」


「む、儂がカールの元に渡る前の話か。」


「そういうことね。カールがあなたを見つけてからはもう‥家に引きこもってず~~っと魔法の研究をしてたんでしょ?」


「まぁ‥そうじゃな。」


 エリスの言葉に否定はできない。本当にそうじゃったからな。


「それでカールは私達のパーティーを抜けて、今までずっと引きこもってたんだけどね。何年か前に突然私を訪ねてきたのよ。私が死んだ後‥‥魔導書グリモアの面倒を見てやってくれ‥‥って」


「なるほどのぉ‥」


「まさかこんなかわいい女の子の姿になって私の前に現れるなんてね、予想外もいいところよ。」


 まぁ、まさか魔導書がこんな幼い人間の姿になって訪ねてくるとは夢にも思わないだろう。儂ですら予想外じゃったしの。


「そういえばあなたお金は?」


「金?あったかのぉ‥宝庫 アイテムボックス。」


 時空のチャックを開けて中を確認していると、それらしきものが入った袋を見つけることができた。それを取り出し開けてみると中には白く輝く硬貨がぎっしりと詰まっていた。


「む~?ずいぶん白っぽい硬貨じゃな。」


 一枚取り出して眺めているとエリスがそれの説明をしてくれた。


「それ白金貨っていうのよ。この世界で一番価値が高いお金ね。‥‥まさかとは思うけれどその袋の中全部それ?」


「うむ、全部これじゃ。」


 袋の中身を見せるとエリスはハァ~‥‥と大きなため息を吐きながら頭を抱えた。


「カール‥‥あんたこれは過保護すぎるわよ。だけどまぁ、これなら一生お金に困ることはなさそう。後はそうね‥‥あなたはその体になった今、何がしたいとかあるの?」


「そうじゃな、一番はカールの遺言にあった人間の幸せとやらを知るために見聞を深めたいの。」


 幸せ‥‥という言葉にエリスは何か深く考え込むような仕草を見せた。何か思い当たる節でもあるのかのぉ?


「何か思い当たる節でもあるのかのエリス?」


「その幸せって言葉はね、私がカールとパーティーを組んでいた時に彼がよく口にしていた言葉なのよ。」


「ふむぅ‥‥お主らは冒険者をしていたと言っておったな?」


「えぇそうよ?」


「じゃあ儂もその冒険者とやらになってみたいのじゃ。カールが昔やっていたものをやってみれば何か手掛かりが見つかるかもしれんしのぉ。どうじゃ?」


 エリスにそう提案すると彼女はコクリと頷いた。


「それはいいかもしれないわね。冒険者家業をやってれば自然と人との繋がりもできるから見聞も広がると思うわ。」


 カール‥‥お主の言っていた人間としての幸せとやらは必ず儂がつかみ取ってみせるぞ。必ず‥‥必ずじゃ!!

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