第12話 竜宮の英雄帰還


 航宙軍本部からの召喚状を受け取ってしまったので、本部のあるSS-01、輝玉星系、皇都惑星出雲いずもにたどり着く必要が生じた。


 現在、竜宮星系内で超空間ジャンプが可能な宇宙船は実験艦X-71しかないのだが、航宙軍本部は迎えの艦船を寄こす気はないらしい。果たして機密の塊のようなX-71を皇都に乗り付けていいものか悩むところだ。しかしこの状況下でX-71と行動を共にできるのはなにかと好都合なため、燃料と推進剤を満載して、輝玉星系までX-71で跳ぶことした。


 超空間ジャンプをおこなう場合、通常は星系内に数カ所存在する安定宙域からジャンプインし、行き先の星系の安定宙域にジャンプアウトする。ジャンプ距離が長くなると、狙った安定宙域でジャンプアウトできず、恒星間空間にジャンプアウトすることや、最悪の場合、重力に引き寄せられて恒星内にジャンプアウトする場合もあると言われている。


 そういった意味で、辺境星系であるSS-72竜宮星系からSS-01輝玉星系までの旅程ではジャンプ誤差を考慮して通常4回から5回の超空間ジャンプを繰り返す必要があるのだが、ワンセブンによると1度のジャンプで済むという。しかも、ジャンプイン、ジャンプアウトを安定宙域に限る必要もないらしい。ようは、短距離ジャンプの距離が伸びただけのことのようだ。


 召喚命令を受け取った翌日、俺は実験部全部員、といってもたった二人の部下である山田技術大尉と吉田少尉を引き連れ、X-71に乗り込んだ。出港準備はすでにワンセブンにより滞りなく完了している。出港準備には、われわれが出航したのちURASIMAを封鎖することも含まれている。輝玉星系内でのジャンプアウト先は安定宙域とする方が無難なため、輝玉星系の安定宙域から皇都惑星出雲までの実空間での移動時間が今回の帰省の必要時間のほとんどを占めることになる。



 URASIMAを出航したX-71がある程度、惑星乙姫から距離を取ったところで、


『SS-01輝玉星系のジャンプ管制に3分後にジャンプアウトするむね連絡し了承を取り付けました。これより、ジャンプ秒読み開始します。


 170、165、……、60、59、……、3、2、1、ジャンプ』


 ジャンプ特有の感覚を味わったあと、艦長席の前のオペレーションボードの上のスクリーンを確認すると、輝玉星系の星系マップが映し出されていた。このマップが本物かどうかは確認できないが、ジャンプ成功を信じるしかない。


『こちら輝玉ジャンプ管制、X-71、ジャンプアウトを確認した。速やかに安定宙域から移動願います』


 輝玉星系のジャンプ管制から通信がはいり、安定宙域を速やかに移動してクリアーにするよう求められた。すぐに次のジャンプアウトがあるのだろう。


「こちらX-71、了解」


 これからX-71は、皇都惑星出雲の静止衛星軌道上に建設された航宙軍直轄の軌道エレベーターステーションOE-01に寄港することになる。



 OE-01の管制を呼び出し、定められた寄港シークエンスに従って指定された大型艦専用桟橋に接舷した。操艦および管制とのやり取りは全てワンセブンが行っている。その結果吉田少尉の艦上での仕事はほとんどなくなってしまった。


 俺たち3人はOE-01で簡単な手続きを済ませ、エレベーターに乗り込んだ。約1時間をかけて地上に降り立つことができる。エレベーターは途中で加速から減速に切り替わるところで床が180度回転し、1Gの加速度が常に床方向にかかるよう工夫されている。


「久しぶりの地上が皇都とは複雑な気持ち」


「おまえの実家には連絡していなかったのか?」


「するわけないです。そういうわけなので、今日は艦長のお屋敷にお世話になります」


「仕方ないな。

 山田大尉はどうする? 一人でホテルは味気ないだろう。予定が無いようなら吉田と一緒にうちに来るか?」


「ありがとうございます。よろしくお願いします」


 召喚指定日は1週間後だ。航宙軍本部も俺がこれほど早くに皇都に戻るとは思っていなかったろう。俺がOE-01に到着したとき、航宙軍から何らかのアクションがあると思ったが、考えすぎだったか。いや、航宙軍もそこまで無能ではないだろうから、ワンセブンが手を回したと考えた方が妥当か。


 地表に到着したエレベーターのドアが開くとその先はホールになっており、手続きがあるわけでなく、そのまま建屋の外に出て行って構わない。開いたドアの左右に並んだ警備兵に軽く敬礼をして玄関に向かった。それでは、計画通りメディアのインタビューに答えるとするか。


 ホールの中には人気は少なかったが、玄関を出ると文字通り黒山の人だかりができており、玉手箱で一気に齢をとる代わりに、一斉にかれたフラッシュで目がくらんでしまった。


「村田中佐でいらっしゃいますか?」


 一人の若い女性が、俺にマイクを向けて来た。マイクを持った連中は沢山目の前にいたが、何かの協定でもあるのだろう。


「はい、村田です」


 軍では個人に対しての軍に関するインタビューなどは禁止しているのだが、今回はなぜか・・・許されたらしい。正直に言うと、このインタビュー自体、ワンセブンが仕組んだものなので当たり前のことだ。


「村田中佐、竜宮でのご活躍。戦闘艦でもない実験艦で身を挺して敵艦撃破。乙姫の開拓コロニー20万の救世主。皇都、いえ、皇国中が村田中佐の英雄的活躍に感動しています。お疲れのことでしょうが、皇国民に一言お願いします」


「皇国のみなさん、ここにいる実験部の三名により、敵艦艇を2隻も撃破することができ、開拓コロニーを救うことが出来たことは偶然でした。実験艦の試験航行中にたまたま揚陸艦を含む正体不明の侵攻部隊を見つけ、交戦規定にもとづいた手続きを踏んだ上で主砲を放ったところ、奇跡的に砲弾が敵揚陸艦に二度にわたり命中し侵攻部隊のそれ以上の進撃を阻止することが出来ました。われわれ航宙軍実験部・・・の者といえども皇国民の生命と財産を守る義務を負った皇国航宙軍・・・軍人には変わり有りません。ただ、義務を果たすことができたことに満足しています」


「ありがとうございます」


 ここでまたフラッシュが焚かれた。一応のインタビューから解放されたわれわれは、屋敷から迎えにきたリムジンに乗り込み皇都にある俺の屋敷に帰ることとなった。


 ちなみに、先ほどインタビューで述べた交戦規定にもとづいた手続きなど今回の戦闘に際して当然なにも行っていないが、こういったものは全てワンセブンが記録をちゃんと改竄・・・・・・しているので問題はない。

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