第82話 監視者

 甲高い音とともに、中央部分から折れた剣先が地面に突き刺さる。


 アーグラの断末魔とともに徐々に上昇していた防御力が最大限まで上昇。その硬度に使い古しの長剣が耐えられず、折られてしまった。


『マスター!』


 隙をみてポシルも最大限まで硬化した触腕を突き出すも、肩口に当たった触腕は多少イーグラに血を滲ませる程度で止められていた。


 怒りの竜眼をこちらに向けていたイーグラもこちらの剣を破壊し、ポシルの攻撃を防いだ事で防御度外視の槍の猛攻を振るってくる。


 槍術のスキルLvはアーグラよりも低いが、防御無視の槍さばきとなれば、厄介この上ない。


「シャウさん!こちらはポシルと僕でなんとかします!巻き込まれないように引いてください。ピータさん!水属性魔法は?」


 多少回復したシャウさん達に向かい声をあげる。


「使えるぞ!撃ち込むか⁈」


 すぐさま杖を構え、魔法での援護の為にこちらに近付くピータさんを止める。


「大丈夫です。合図をしたらウォーターボールを!

 それまではそのウォーターボールにこれでもかってほどの魔力を注ぎ込んどいて下さい!」


「ウォーターボール?了解!任された!」


 何故初級魔法?という疑問があったのだろう。

 しかしそこは優秀な冒険者。理解はせずとも、すぐさま行動に移してくれる。


 すでに杖を頭上に構え呪文を呟き空中にウォーターボールを作り出し、魔力を全力で込め始めてくれている。


 その間も、ポシルによる刺突攻撃の連打が行われ、鬱陶しそうにイーグラが槍と盾を振り回す。


《氷球》

《火球》

《氷球》

《火球》

 ・

 ・

 ・

 ・


 圧倒的な防御力を突破するのに、手持ちの武器と僕の攻撃力では心許ない。


 魔力を充分に練りこんだ《氷球》と《火球》を繰り出し、イーグラに命中させる。


 単純な話だ、物理防御力が異常に高いイーグラに対し、爬虫類的な変温動物の弱点である低温による行動阻害。


 そして、金属疲労ではないが何かしらの効果を期待しての低温と高温の波状攻撃を繰り出している。

 そして、火球が当たり火傷痕のように赤くなった部分に深々とポシルの触手先が突き刺さる。


「ギャー!!!!」


『マスター。先程から、繰り返し攻撃が当たっている部分に触腕が通るようになっています。効果有りですよ!』


 悲鳴とともに前のめりになるイーグラ。


「ピータさん!今です!」


 合図と同時にすでに詠唱が終わり、魔力が溜まりに溜まった《ウォーターボール》が放たれる。


 そしてそれに気付いたイーグラは槍を手放し、片膝をつけながら前面に盾を構え《ウォーターボール》の衝撃に備える。


《土壁》

《火球》


 イーグラが盾にて《ウォーターボール》を防ぐと思われた瞬間。盾の手前で《ウォーターボール》と《火球》がぶつかる。


 ズゥン

 瞬間的に膨張した水が大爆発を起こす。


 魔力により超高温となった《火球》に《ウォーターボール》が接触することによる水蒸気爆発。爆発に巻き込まれないように【赤月の護り】と自分の前に《土壁》を作り出したが、周囲が砂埃に覆われる。


 上昇気流を風魔法で作り出し、砂埃を上空に巻き上がらせ視界をクリアにするとそこには大きなクレーターとボロボロになりながらも細かく息を吐き出すイーグラの姿があった。


「ゴろゼ…」


 細かく息を吐き、確かに聴こえた人語。

「お前言葉が理解出来るのか?」


「ゴろゼ」


 戦闘中も一度も言葉を発することなく戦う姿から、まさか人語を理解しているとは思わなかった。

 BOXから中級の回復薬を取り出し、話ができる程度に回復させる。


「どうして商隊を狙った?いやどうして僕を狙った?」


 そう最初からアーグラとイーグラの行動はおかしかった。彼らは商隊を狙うにしては2人とは少ない。腕に自信があっても多勢に無勢しかも、あえてまっすぐ姿を現し此方から迎撃する様にしていた。


 だからこそ感じた違和感。


 イーグラがまっすぐ此方を見据えて殺せと言った瞬間に理解できた。アーグラとイーグラは、僕を標的として来たのだと。


「我ら兄弟 生まれた時からテイマーの元で育った。 人の言葉 進化した時 身に付けた 今は傭兵 雇われた」


「雇われた?確かにテイム状態ではないけど普通に傭兵として契約したってこと?」


「そうだ 裏では 我ら兄弟 有名 冒険者 タカヤ 殺害もしくは無力化して捕縛」


 彼ら兄弟は卵からリザードマンとして生まれ、その際1つの卵からアーグラとともに生まれ特殊なスキルを得たということだった。


 最初のマスターであるテイマーは、3年程前に魔物の大群に襲われ、護りきれずに死んでしまい。


 その後の1年は、魔物の多い森や山で自らを鍛え上げ元マスターのツテを辿り、裏社会で傭兵として依頼をこなしていた。


 そして今回、ある男の代理からタカヤと言う名のソロの冒険者の殺害もしくは捕縛の依頼を受け受諾。峠手前で強襲しようとタイミングを計りやって来たとのことだった。


「あーなるほど。こいつか。キミたちはあまり信用されてなかったみたいだね」


 仰向けに倒れ、息を整えるイーグラが目を細め疑問な顔を向ける。


「いやね。しっかり監視されてるよ」


 分裂体をイーグラ達が来た方角へと向かわせ、気配を探したところ数百m先に気配を殺し、おそらく望遠鏡的なものであろう道具で此方を見る小柄な男を発見。


「じゃあ聞きに行こうか」









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