第72話 商人の役割
【ヘナ村】で一晩泊まった次の朝、すでに特産品の買い取りは終了し、今は出発前の朝市が開かれている。
この世界の商人は、流通によって経済循環を担っている。
そしてその役割は非常に大きい。
基本どこの商人も次に立ち寄る先用の商品を本命の商品とは別に、マジックバッグに入れ移動し、村や小さな町の人々も立ち寄るという事は、取引があるという認識でいる。
クイートの街で仕入れた多くの商品は、ここで売買され、またここの村の生産者達が作った特産品が、貨幣と変わる。
そういう意味もあり、質の良い商人達は立ち寄った村々で市を開き適正価格で取引を行なっていた。
しかし、利益のみを追求している商人は本拠地にて高値で売れるものを大量に仕入れ、本拠地だけで取引。若しくは。高額取引のみ応じるといった具合で、総じて商人からも住人からも評判は良くない。
「ありがとうございました〜」
宿の窓から元気な声が聞こえてくる。市にひときわ人を集める一角があり、その理由はすぐに分かった。
そこには、昨日の道中の旅用ローブ姿ではなく、茶色の短めのスカートに白のオフショルダーブラウス姿のフィーネがいた。
男どもの視線は、フィーネの顔を見た後、下に移りなんともだらしない顔になっている。
「自分がああならないようにしなくちゃな……」
あっという間にここでの取引分を売り切ったフィーネは、商人達から代わる代わるお礼を言われ、頬を真っ赤に染めて実に可愛いらしい。
取引が終わり出発した商隊は、道中多少の魔物に襲われるが、この辺の魔物はフォレストウルフリーダーが統率していない限りは、護衛を受けるようなランクの冒険者にとって全く苦戦するような相手ではなく、この3日ゴブリンも含めあっという間に討伐されている。
僕はというとこの3日、討伐は他の冒険者に任せ暇を見つけては新しい防具に慣れるため、防具の様々な使い方を試しながら商隊の最後尾をついていっていた。
もちろん広範囲の索敵は怠らない。前方にゴブリンが待ち構えていれば直ぐに報告、突撃猪の群れが商隊の横っ面に一直線に突撃をかましてきた時は、土魔法で進行方向に掘りを作り足止めした所を冒険者に合図を出しとどめはお任せしていた。
「いやーホント助かるぜ、早期発見に戦闘補助。おまけに獲物まで譲ってもらっちまって。俺らみたいなのが安全に稼げてんのはあんたのおかげだ。どうだいやっぱりうちに来ないか。あんたがいれば戦闘が楽になる。っな?」
この護衛任務について4日目、これまでの11回程の戦闘があり魔物も30体を超えている現状で、この3人組のパーティが倒した討伐数は11体、ほとんどが突撃猪へのとどめで、討伐報酬と剥ぎ取っていた部位も商隊にいる商人に買い取ってもらいそれなりの報酬を得ていた。
「いやいや大丈夫ですよ。もともと護衛なのに馬車の後ろに座らせてもらったり、楽させていただいてますからね。それに何度も言うように今はあなた達のパーティに入るつもりはないですね。僕は基本ソロなので」
実を言うと、この3人組とはあまり話したくない。同じ村出身だと言う男3人は、事あるたびにフィーネに声を掛け下心丸出しで誘っている。
そして戦闘時、Cランクだと言う彼らの戦闘を見ていると、苦戦し始め少し魔法で補助したのをきっかけに、こちらに対してもしつこくパーティに誘ってくるが、便利使いさせる気なのを全く隠さないその態度にいい加減飽き飽きしていた。
渋々というより、少しイラついた感じで持ち場へと戻っていく3人の後ろ姿を見送るが、何処と無く納得いかないという態度で、まだまだ油断が出来ない状況であることは間違いないようだった。
「よし、フィーネ。じゃあ僕らはこの辺にテントを張ろうか。順番で見張って交互に睡眠をとろう」
時刻は16鐘。
峠の入口、ここから先は峠になっており魔物は見えづらく数も多い。何よりも盗賊が出る可能性が高い。
そして、ここの峠の盗賊は定期的に討伐依頼や国の討伐隊が討伐しているが、数を減らしても本拠地がわからず、次から次へと数を増やし、しかも冒険者崩れも多いためタチが悪く、そのため日が沈む前であっても先に進まず、残りの時間を準備や休息に当て旅の疲れを癒し朝早い時間帯万全な状態で一気に峠越えに臨むのだ。
「タカヤさんは、盗賊に襲われた事ってありますか?私はここにくる前に一度、一緒にいた冒険者の方々が強くてその時は助かりましたけど。あの私を見る目が怖くて。私も戦えたらどんなにいいか……」
焚き火の前で腰掛けているが、隣のフィーネをうまく見れない。ホント正面じゃなくてよかった!ただ隣も距離が近い……。
健全な18歳の青年がこの横顔にいつまで理性が保てるか。。。
「まぁとりあえず。大丈夫じゃないかな。今回も優秀な護衛がいるし、僕もポシルもいるからね危なくなったら馬車に身を隠せばいいし」
ポンポンと頭を軽く叩きゆっくりと撫でる。
フィーネが安心できるように出来るだけゆっくりとした口調で話しているうちに、少し安心したようで、満面の笑みをこちらに向ける。
「はい!タカヤさんもポシルちゃんも無理しないでくださいね!」
「うん。任せておいて!」
『はい。フィーネ様お任せ下さい』
お互いの顔を見合わせ笑い合う。その表情には先程の不安の色は見られなかった。
「タカヤさん!あの……」
やっと笑ってくれたフィーネが、少し照れながら上目遣いでこちらをウルウルとした瞳で見つめる。
そしてその小さな口をキュっと閉じ、何かを言いたそうに少し体をくねらせている。
「あの…………。私もポシルちゃんの頭撫でてもいいですか⁉︎」
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