異界の魔王と神討のその後

気圧計男

始まり

■《??》??????

倒れ込む私。駆け寄ってくる仲間たち。彼らは皆傷ついていた。


「…私はもうダメなようだ。」

駆け寄ってきた仲間達は涙を滲ませながら、私の名前を何度も呼ぶ。


「一つ…願いがある。」

私は言う。息をするのも苦しく声がかすれている。


「私の持つこの力を使って、平和な世界を造ってくれ。誰にも邪魔されないような。」


「なに…私は少し眠るだけだ。…心配など…無用だ。」


最後に泣き顔の仲間達を見渡して言う。


「私は、お前らと会えて本当に良かった。ありがとう。」

力が抜けていくのを感じる。私の肩を揺さぶる振動ももう感じない。やっと終わった。目が霞む。


それきり。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

■森 佐渡山正治


「おい、起きろ。」


知らない声が呼んでいる。やけに地面が硬い。それに風の音がする。

目を覚ますと葉を透ける光が顔を照らしていた。見渡すと森だった。


すぐ近くにさっきの声の主らしい見知らぬ少女が立っている。


目を覚ました俺は困惑して動けなかった。


俺は引きこもりで部屋に閉じこもっていたはずだ。昨日もいつものように部屋のベッドで寝たはずなのに…。考えれば考えるほど意味がわからない。


少し時間が経ち、落ち着きを取り戻した俺は目の前の少女に聞いた。


「何で俺は、こんなところに?」


「分からん。私は長いことここらにいるが、人をみたのは10年ぶりだ。」


気がつくと知らない場所。近くには美少女。


何となく既視感のあるような展開に頭を悩ませていたその時、俺の中に一つの答えが現れた。

「あっ、これ異世界転移とやらじゃね?」

「俺もしかしたらチートとか持ってんじゃね?」

「んでもって、魔王と戦ったりとかすんじゃね?」「全くしょうがねぇなあ。いっちょ俺が世界を救いますか。」なんて考えながら俺は期待に胸を膨らませ、


「ステータス‼︎」


「なっ、なんだ?どうした?」

いきなり大声を出した俺に少女は戸惑っている。


「あれ?おかしいなぁ。」何も出てこない。


ステータスが出ないとなると、もしかして魔法か?


「ウィンド‼︎」「サンダー‼︎」「ファイアー‼︎」

思いつく限りのカタカナを並べてみる。しかし何も起きない。


となると、残りは…。俺は落ちていた木の棒を拾うと、近くの木に対して構えた。


「ふっ。残念だったな。俺の能力はこの剣技だっ!」そう言って右足を踏み込み加速し、木に接近する。刀に見立てた棒を構え、真っ二つになった木を幻想し……そして俺は木の根に足を引っ掛け盛大にすっ転んだ。


「いたたたた…。」


「さっきからお前は何をやってるんだ?」


「いやぁ、俺の知ってる限りのお約束作法をしてるだけだ。」

何も無いとは残念だ。まぁたまにそういうの持ってない主人公の作品もあるし。


「なんだそれは?」


「知らないのか?勇者と魔王が戦ったりとかする作品のお約束だぞ?」


「?」

もしかして外国の方なのか?


「しかし勇者とやらは知らんが魔王は知ってるぞ。」

と言って、


「私が魔王だからな。私の名前はラタリヴィア。まあ、気軽にラタとでも呼んでくれ。」

その突拍子もない台詞に俺は


「お前、頭大丈夫か?」

思わず突っ込んでしまった。


「私はまともだっ。」

魔王出てくんの早すぎだろ。旅立つ前に魔王と二人きり、なんてRPGがあるとしたら勇者はどうやって勝つんだよ。


「しかし残念だったな。例えお前がその勇者とやらでも私は倒せん。」


「ど、どういうことだ?」

まさか、不死身の肉体とかなのか?


「なぜなら…私はもう死んでるからだ‼︎」

そりゃ倒せんわ。しかも自分が死んだことをそんなに自信を持って言えるのか。俺は呆れるしかなかった。


しかしよく目を凝らすと、自称魔王とやらの身体は透けている。


一瞬最悪のケースを思いついた俺はとっさに自分の掌を見て、透けてないのを確認して安堵した。


「むっ、どうした?」


「いや、俺も死んだんじゃないかと思ってな。」

いきなり知らない場所に飛ばされて、しかも目の前には自分を死人だという奴がいたら、ここはあの世じゃないかと疑うだろ。


「ところでお前は何なんだ?私は自分の紹介をしたぞ。」


そういや俺はまだ自分のことを目の前の奴になんも伝えてなかったな。


「俺は佐渡山 正治。16歳だ。まあ、好きなように呼んでくれ。」


「じゃあハル。お前は転移してきたと言っていたが、どんな世界から来たんだ?」

と、顔を近づけて聞いてきた。いきなり距離を詰めるなぁ。


「俺は日本に住んでいて、ここにくる前は、あー」引きこもりをやってました。なんて言えるはずもない。言葉に詰まっていると


「ニホンか、それならよく知ってるぞ。」

なんでだ?


「知りたいかい?」

何か釈に触る言い方だ。


「それはだな…」何かを言おうとしたラタの話を遮って「いや、ちょっと待て。俺に当てさせてくれ。」と言った。これ以上コイツのペースに乗ってたまるか。


予想外のことが多すぎる。理由を聞く前に自分の中である程度の答えを出しておこうと情報を整理し始めた。


コイツは魔王で、そんでもって死んでる。おまけに日本を知ってるときた。ここから導き出される仮説は、


「ラタ、もしかしてお前を殺したのは日本から来た奴だったからか?」

殺された奴に殺した奴のことを聞くのはどうかと思ったがつい口に出してしまった。


「いいや、違う。」


考えろ…。コイツは十年ここにいると言っていたならば…


「人に会わなすぎて気でも狂ったか?」

俺は考えることをやめた。


「だから私はまともだってさっきから言ってるだろっ‼︎」

ラタは今にも飛びかかってきそうな勢いだ。


「分かった分かった。降参だ。教えてくれ。」

そう言わざるを得ない。


「では教えてやろう。それはだな…」

とラタは微笑みながら、


「私にはそのニホンから来たという友がいたからだ。」

昔を懐かしむようにそう言った。


「馴れ初めは?」

俺がそう聞くとラタは昔話をし始めた。


ラタの話を纏めるとこうだ。

かつてこの世界を作った神とやらが人々の信仰を集める為マッチポンプを企んだらしい。

神は魔王を作り出し、それを神の使いとして連れてきた転移者に倒させることで、人々の信仰を集めようとした。しかし、目論見が外れた。魔王は転移者たちと友になってしまった。目論見を挫かれた神は怒り狂い彼らを消そうとしたが、返り討ちにされたという。


えっ、俺の存在意義は?魔王も死んで神も死んだとなると俺は一体何のために、誰にこの世界に呼ばれたんだ?


「懐かしい。仲間と共にいた日々が昨日のことのように思い出される。」


と、ここで俺はまだ答えが出ていない質問をした。

「じゃあ何で、ラタは死んだんだ。」


「神の手下の天使を仲間が足止めしている隙に、神に単騎で戦いを挑み、相打ちに持っていったからだ。」


「何だそれ、かっこよすぎるだろ…。」

思わず口に出てしまった。だってしょうがないだろ。神に生み出された存在が神に逆らって、しかも相打つなんて。その話に俺の厨二心がくすぐられた。


「その後、私は死ぬ間際に仲間達に自分の力を託して死んだよ。」

死んだことに悔いはなさそうに、そう言った。


「私はその後あいつらがどうなったかは知らないからな…。」


「十年俺以外の人を見てないってどういうことだ?移動してそいつらに会いにいったりしなかったのか?」

一体俺が来るまでの間何をしてたんだ?


「私も会いに行こうとしたさ、でも…。」そう言って指で斜め上、森を抜けた向こう側を指した。目をやると巨大な、灰色の何かがそこにはあった。


「何だあれ?」


「近くで見た方がわかりやすいだろう。」

そういうとラタはそちらへふよふよと漂って行き、俺はそれについて行った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

壁が威圧してくる。とても巨大で無機質な壁が。横までずっと、地平線で見えなくなるほど続いている。

「私はこれを越えられない。だから私はずっとあの森にいた。」


「森の逆側には何があるんだ?」


「あちら側にはずっと海が広がっている。」


そういえば、

「体がないのなら通り抜けれるんじゃないのか?」

見たところコンクリートのような素材でできているぽいし。


「いや、無理だった。おそらくこれは何かの【奇跡】によって作られている。」


「【奇跡】って?」そう訊こうとしたその時、背後から人の気配がした。


振り向くとそこには深くフードを被った、男か女かも区別がつかない奴がいた。


「誰だ‼︎」

ラタの威嚇の言葉に対し、奴は言う。


「我は《渡手》。貴殿らはその壁の向こうに行きたいのだろう。」

言ってることがよくわからない。俺はこの世界について全く知らないので会話をラタに任せることにした。


「ああ。」


「ならば我が貴殿らを向こうへ渡してやろう。」

見るからに怪しい提案だ。


「その対価に何を求める‼︎」

そりゃそうだ。何でも無料でしてくれるはずがない…。しかし渡せるものなどなんかあったっけ。そうおもってズボンのポケットに手を伸ばしかけたところで、


「いや、何も望まない。」


「は?」

おいおい何とも太っ腹だぜ。なんて都合がいいんだ。


「我が貴殿らに望むのは何もない。我が望むものは貴殿らが手に入れ、巡り巡って我が手に収まるからだ。」

一体何なんだ?話が抽象的すぎて全くわからねぇ…。


どうしようかチラチラこちらに視線を送ってくるラタに、壁の前で足踏みしていてもしょうがないと思い、俺はラタに目で合図をおくった。


「ならばお願いしよう。」


ラタがそう答えると、そのよく分からん奴は壁の前に立ち、懐から取り出した棒状のもので壁を小突いた。瞬間、壁の一部が落ち、人一人が通れる程の穴が空いた。


《渡手》はその前に立ち穴へ入るように催促している。怪しみながらも、俺達は穴をくぐった。


向こうの地を踏み、礼を言おうとして振り向くと、もう穴はなく、後ろには無機質な壁があるだけだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

■壁外 《????》?? 


「私はやり遂げたよ。自分の役割を。後は君が、君の役割を成し遂げるだけだよ。」


独り言を言い、自称渡手は空を飛んで、去って行った。














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