第4話-4 迷子
閉局時間の間際とはいえ、まだ薬局に患者が来るかもしれない時刻ということで、私達三人の薬剤師は調剤室の奥に待機して、患者が来るかどうかの様子を見ながら話し合いをすることにした。
待合室では新垣さんと日向君が一緒に本を読んでいるのが見えた。
「さて、ちょっと困った状況だ」
「薬局に来ているはずの母親がいない……ですか」
呉屋さんと當真さんは深刻な様子だが冷静だ。一方で私は消えた母親によるネグレクトの可能性を頭の中から払拭できず、気が気でなかった。
「と、とりあえずまずは警察に連絡ですか? それとも、先に児童相談所でしょうか? もし虐待とかだったら……」
「落ち着いて依吹さん。何かの行き違いでこうなってるのかもしれない。あちこちに連絡をして、実際はそうじゃなかったら後で大クレームになるよ」
當真さんが私をたしなめる。
「虐待――多分それはないなぁ」
呉屋さんが顎を上げて言った。
「さっき日向君の体重を測ったよね。体重は十六キロだった。五歳の子供の適正体重より少し軽い程度だから食事はきちんと与えられていると見ていいね。それと、半袖半ズボンの肌が出ている部分に外傷らしいものが全く無い。肌が露出しないところを殴って虐待がわからないようにしているケースもあるから服の下も確かめるのがいいんだけれども、これも下手すればクレームだからそうすることはできない。そういう事実と、あの子の受け答えの様子を合わせると、虐待を受けているとは考えにくいな」
「……なるほど」
処方箋が来ていないのに日向君の体重を測ったのは、食事を親から与えられているかどうかということを体重で調べる、という目的もあったのか。まだまだ経験も勉強も足りないな、私は。
「まあ、閉局時間まで粘ってみよう。それでうちに電話も来なかったら、さすがに警察かな」
呉屋さんがゆっくりと何度も頷きながら言う。
私は、
「そもそも、お母さんは病院にいないなら今どこにいるんでしょうね? 日向君の『先に行ってて』って言ったということが正しいなら、どうしてうちの薬局に来てないんでしょうか……あ」
「どうしました南さん」
「もしかして、ドラッグコーラルのほうの薬局に行ったのかも! お母さんは最初からうちじゃなくて、コーラルの薬局のことを指して言っていたんじゃ……」
「ははぁ、そう来たか。うちは病院からちょっと見えづらいからねー。よし、コーラルに電話してみようか」
當真さんが言うが、
「その必要はなくなりました」
川満さんが受付から声を張り上げた。
「今コーラルから電話が来ました。日向君のお母さんが来てるので連れてきてほしいって話です」
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