第160話 空から降り来たる その2

 俺たちは一斉に、外に出てきた。

 腹ごしらえも終了。

 準備は万端。


 空から来る船なんて、何を準備したらいいかも分からないからな。

 ああ、いや。

 ソラフネ山遺跡と同じことをしておけばいいだろう。


「あれは活発なソラフネ山遺跡と言っていい?」


『それで大体合ってるにゃあ』


 ドレが頷く。


『あと、今回はブランとフランメも行くにゃ? ローズもいるにゃ? 楽勝にゃ』


「そいつは心強い」


「おいおい、俺の相手も残しておいてくれよ」


 アルディのこれは、冗談ではなくて本気だな。


「じゃあ、皆さん準備はよろしいですわね?」


「良くないですねー」


 往生際が悪いぞカレン。


「カレンは戦ったりするの嫌いです?」


「お金にならない戦いは嫌いですねー。これ、本教会からの命令じゃなかったらとっくにぶっちして逃げてますねー」


 正直な人だ。


「そうでしたかー。カレンはお金大好きですねえ」


 うんうん、と頷くクルミ。


「クルミはお金より、お金で買える美味しい食べ物の方が好きです!」


「おっ、真理だ」


「真理だなあ」


「正しいですわね」


「お、お、お金の可能性は無限大なんですけどねーっ!」


「はいはい。カレンの準備もいいみたいですわね。じゃあ、行きますわよ! コール・コマンド。トラクタービーム!」


 すると、降りてくる船のはるか上空で、何かがキラリと光った。


「なんだ?」


「ラグナの天使ですわ。神が直接遣わしますの。ほら、トラクタービームの奇跡が来ますわ」


 降り注ぐ光。

 それが、俺たちを空中へと吸い上げていった。


 おお、足元がふわふわする。

 

「ちょっと待っていてくださいましね。ちょうどいいところまでビームで持ち上げますわ……」


『迎撃が来るにゃ! アルディ!』


「ほいほい、猫殿!」


 何も起こってないが?

 と思った瞬間、船のあちこちがキラキラと輝いた。

 そこから降り注ぐ光線。


「出るって分かってりゃ、防ぐのは難しくないんだよ!」


 光線を剣で受け止め、反射していくアルディ。

 光った瞬間にどこに来るかを察して、そこを連続で守っているようだ。

 改めて、人間業じゃないなあ。


「リーダー、見てないで道を切り開いてくれ!」


「あ、ごめんごめん! よし、行くぞブラン! フランメ!」


『わふん!』


『チュン!』


『ちゅちゅーい!』


「おっと、ローズも! ……そうだ。ローズ、俺が今から炸裂弾を投げるから……君の力で道を見つけてくれ!」


『ちゅ? ちゅちゅー!!』


 ローズは頷くと、額にある石を真っ赤に輝かせた。

 これで確率が変化して……!

 俺が投擲した炸裂弾が、ひょろひょろとトラクタービームの中を突き進んでいく。


 そしてぶつかるのは、一見して何もないように見える船の壁面だ。

 むむ?


「クルミ。よく見て。何かありそう?」


「んんー……。あ、あそこから、あそこまで、線があるですよ! すごーく細い線ですけど!」


「よし、じゃああれが入り口だ。頼むぞブラン、フランメ!」


『わふん!』


 ブランが飛び出した。

 前足で、扉と見られる場所を思いっきりひっぱたく。

 すると、その部分がベコッと凹んだ。


 よしよし、あそこが扉で間違いない!


『宇宙船の外壁、殴って凹ませるとかほんとに化け物にゃあ』


『指揮官気取りか、猫め。我も行くぞ! むおおーっ!!』


 大きくなったフランメが突撃する。

 凹んでいた扉が、フランメの一撃を凌ぎきれず、内側へ向かって吹っ飛んでいった。


「よーしよし! これで侵入できる!」


「いいぞリーダー! おら、エルド教の司祭! 応戦しろ応戦!」


「ひいいーっ! こんなとんでもない戦闘、なんでワタシがしなくちゃいけないんですねーっ!!」


 カレンがいつも通り泣き言を言いながら、銃を連射する。

 これが結構馬鹿にならない威力だ。

 船の外壁に突き刺さると、そこに傷を作っていく。


 俺はこの隙に、フック付きのロープを用意した。

 ぐるぐる振り回して……投擲!


 フックは見事、扉の残骸に引っかかった。

 何度か引いて、強度を確認。


「よーし、大丈夫だ。まずはクルミ!」


「はいです!!」


 クルミがロープに手を掛けて、凄い勢いで登っていく。

 ゼロ族は身軽だなあ。

 クルミは登りきったところで、ロープをしっかり固定している。


「ほい、次はカレン!」


「ひいー! ロープを登るんですね!? ちょっと勘弁してほしいですねえー!! わ、ワタシ高いところがあまり得意じゃ……」


「だそうだ、ドレ」


『仕方ないにゃあ』


 ドレが、久々にもとの大きさに戻る。

 そして、触手を伸ばしてカレンとアリサを巻いた。


「ひええええーっ!!」


「ああーっ、ドレちゃんが触手でわたくしをー! 嬉しさのあまり集中が途切れてしまいそうですわ!」


「アリサ、集中集中!! アルディ、最後にブランと一緒に来てくれ!」


「おうさ!」


 ドレはロープの上を、巨体に見合わぬ身軽さで歩いていく。

 あっという間に船の中へと到達してしまった。


 そして俺。

 ピョンとトラクタービームの外に飛び出す。

 ロープを手繰っていくと、はい、船の中。


「あなた、めちゃくちゃ身軽ですねえ……」


 カレンが驚いて、細い目を見開いている。


「そりゃあそうさ。冒険者がやれるような技術は大体持ってるからね。ブラン!」


『わふーん!!』


 ブランがアルディの襟元を咥えると、猛烈な勢いで跳んできた。

 そして見事、船の中に。


 これを確認した後、アリサが集中を解いた。

 トラクタービームが消滅する。


「よし、予定通り、船の中に到着だ。サクサク探索していこう!」


「ぬうううう! やっぱりこのパーティおかしいですね……!!」


 カレンが呻くのだった。


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