第145話 山頂の集落へ その2

 カレンによる、謎の武器での射撃。

 これはなかなかの効果があった。

 命中率こそ悪いものの、発射音はコッカトリスを警戒させ、連続した射撃が奴らの動きを止める。

 結果的に、俺とクルミがいれぐい状態で、モンスターを仕留めることになった。


「動かないから当てやすいです!」


「ああ。敵の動きを制限してくれるのはありがたいな」


「最初の一発以外当たらないですねーっ!? な、なんでなんでしょうねえ!?」


 そりゃあ、狙いも付けずにやたらに撃っているからだ。

 あれは多分エルド教の武器なんだろうが、扱いの簡単さと違って、狙いをつけて命中させるのはそれなりに難しそうだ。

 何せ、筒の先から弾を吐き出すのだが、その時の反動が大きいらしくて先端がぶれる。


 カレンの実戦経験が少ないのか、まだあの武器を上手く扱えていないようだ。

 それに、何発か撃つと弾を込めねばならないようだ。


 技術的に発展した武器なのだろうが、構造が複雑なだけに不安定だな。


 その点、スリングはいい。


「どんどん行くぞ、クルミ!」


「はいですー!!」


 振り回して遠心力をつけて、投擲する。

 戻しながら、ポーチから取り出した弾を放り投げ、これをスリングの中に回収、そしてそのまま振り回す。


 弓矢の速射と比べれば速度は落ちるが、リズムさえ掴めば同じ勢いで連続して投擲できる。

 壊れる心配も少ない。

 体にかかる負担も少ない。


 スリングは実にいい武器だ。


『しゅーっ!!』


 コッカトリスがまた一体、叫びながら倒れた。

 どんどんどその数を減じていく。


 オリジナルであるコカトリスと比べると、脅威の度合いは低めだな。

 モンスターの群れの背後では、アルディが担当したモンスターを全て片付けてこちらに向かってくるところだった。

 仕事が速い。


「加勢するぜリーダー。こいつら、動きは速いが直線的だな! 大して怖い相手じゃねえ」


 虹色の剣閃が、コッカトリスを背後から襲う。

 モンスターの群れは、すぐに大混乱に叩き込まれた。


 前進を、カレンの銃撃が阻み、後退をアルディの剣が阻む。

 動けなくなったところを俺とクルミが次々に狙い撃つ。


 そしてあっという間に、コッカトリスの群れは全滅したのだった。


「幾らアリクイだと言っても、数が多すぎやしないか」


 俺は戦いながら感じた疑問を口にする。

 案外、沼地で戦ったヒドラもウミウシ状の生物の群体だったのかも知れないな。




 山間の村に到着した。

 彼らはコッカトリスの群れによって、麓の港町との行き来を絶たれていた状態だったのだ。


「モンスターを倒して下さったんですか! ありがとうございます!」


「それで、あの、実はコッカトリスの毒にやられた者が何人かいまして。エルド教の司祭様がおられるようなので、癒やしていただければと」


 皆がカレンを見ているな。

 カレン、商売スマイルを浮かべる。


「ええ、それはもちろん! ワタシがここまで来たのは、皆様を助けるためですからね。もちろん解毒の奇跡を使わせてもらいますねー」


 そして、彼女はアリサの腕を小突く。


「手伝って欲しいんですけどね」


「あら、エルド教の司祭様が頼られてるのですから頑張ったらどうですの?」


「ワタシは商売系の司祭なので奇跡はあんまり得意じゃないんですね……!」


「仕方ありませんわね、貸し一ですわよ?」


「くっ、借金のようで嫌な気持ちになりますね……!」


 二人は並んで、解毒のために行ってしまった。


「仲良しですねえ。まーるいアリサとほそーいカレンで見てておもしろいですー」


「クルミ、それは本人達の前で言っちゃだめだぞー」


「そうなのです?」


 それにアリサは丸いと言われるほど丸くは……。いや、出るところが出ているから、クルミ的にはそこを判断しての発言だろう。

 無邪気な物言いは時に人の心にダメージを与えるものだ。

 うんうん。


「それで、この村から上には集落は一つだけなんですか?」


「ああ、はい」


 村人に詳しく聞き込みを行う。

 山間の村では、この土地ならではの果実や野菜を育てているのだそうだ。

 生鮮食品は取引が難しいため、これをドライフルーツや漬物として加工する。


 麓の港町までは、そのままの果物や野菜も出荷している。

 同時に、山頂の集落からも、村に生鮮食品の取引にやって来るものがいるという。


 だが、神話返りが起きてから、彼らは山頂から降りてこられていない。


「山頂じゃ、新鮮な野菜は採れねえからな。心配だ……」


「ああ、確かに。栄養が偏ると体を壊すからな。モンスターの脅威と、食糧不足と栄養不足による脅威に晒されているわけだ。これはすぐにでも助けにいかないとな」


「クルミもがんばるですよ! すぐ行くです?」


「いや、ここで夜を明かしてから行こう。慣れない山の夜間行動は危険だ。こちらが対処すべき脅威は、モンスターだけという状況にしておきたい」


「ふむふむ」


 あまり分かっていない顔でクルミが頷いた。

 ゼロ族である彼女にとって、山登りなど、庭を散策するようなものである。

 人間の体格でありながら、リスの敏捷性を備える彼女達は、これくらいの山なら易々と踏破してしまうことだろう。


「クルミやブランは楽勝だろうが、俺達人間はそうじゃないんだ。だから、万全の状態にしてから行くんだよ」


「そうでしたかー」


「クルミだって、何の準備もしてないのに海で冒険に行くぞって言われたら困るだろ」


「あっ、困るです!」


 理解したみたいだ。

 ということで、山間の集落で一休み。


 翌朝日が昇ってから、山頂を目指すことにしたのである。


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