第142話 沼地のヒュドラー……じゃなくヒドラ その4
まずは地図を購入。
昔は国同士が戦争をしていたから、こういうものはその国の中枢機関しか持っていなかった。
だが、今は大きな戦争なんて記録にある上では全く無い時代。
容易に地図を購入できる。
「神話返りについて調べているんだが」
「おや、もしかして外から来た冒険者の人かい!? 最近、船が止まって冒険者が来なくなってなあ。神話返りの件もいつまでも解決されないし、困ってたんだ」
店の主人が表情を明るくする。
そして、聞いてもいないのに色々語ってくれた。
神話返りが始まったのは、およそ三ヶ月前から。
通常の動物が凶暴化して暴れだす、くらいだったらしい。
それが一ヶ月を過ぎた頃から、見たこともないモンスターが現れるようになった。
どのモンスターも、伝説上や伝聞上のモンスターに似通ってはいたため、便宜上それらと近い呼び名で呼称されることになったと。
「ありがとう。俺もこの神話返りに興味があってね。なんとか、この国を旅立つ前に解決してみせるよ」
「本当かい!? しかし、こんな群島国家中に広がっている神話返りをどうやって食い止めるんだい?」
「そこは調査次第だね」
店の主人から聞けるのはこれくらいらしい。
さあ、他を聞き込みだ。
クルミとブランとローズを連れて、向かうのは商人達が集まる場所。
クラーケン事件が解決されて、船もようやく動き出すという頃合いだ。
みんな荷物を運び込むべく、忙しく動き回っていた。
荷主である商人達は、これを眺めながら帳簿など付けている。
彼らに聞き込みを行うことにした。
「やあ、こんにちは。神話返りを調査している冒険者の者なんだけど」
「おや、この島にも冒険者が? クラーケンに閉じ込められて、すっかりやる気を無くしてるものとばかり思っていたが」
「そのクラーケン事件を解決したのがセンセエなんですよ! えっへん!」
クルミが胸を張った。
すると、商人達が一斉に顔を上げる。
「な、なんと!?」
「モンスターを従えてクラーケンを倒したという、あの!」
「ああ、ラグナスで聞いたことがあるぞ。複数の強力な魔獣を従える冒険者の話を。確か、名前は……」
「オース! 魔獣使いのオースだ! そしてオースが率いるパーティ、栄光のモフライダーズ! 神都ラグナスを襲った異教徒の襲撃を食い止めたという!」
「おおおー」
商人達がどよめく。
むううっ、思った以上に俺の名前が知れ渡っている。
そりゃあ、商人であるからには世の中の情報に精通していることは大事だ。
それにしたって、一冒険者についてそこまで詳しくなくてもいいではないか。
どうやらラグナスに残った吟遊詩人、ファルクスはいい仕事をしてくれているらしい。
お陰というかなんというか、情報収集がしやすくなった。
「山間の村から仕入れを行うんだがね、ここにはアルゴスという全身に目玉がある巨人……巨人? 人っぽい形をしたスライムが」
「スライム!?」
「俺の取引先はもっと山の上で、乳製品を取り扱ってるんだが、ここにはフェンリルという狼が……いや、大きい狼によく似てるけど、多分ウサギ……」
「ウサギ!?」
地図がどんどん埋まっていく。
なるほど、この情報から見ると、俺達がいる島を中心として半円状にモンスターが出現した区域が広がっている。
初期に出現したものは、素人でもどうにか対処できたらしい。
だが、一ヶ月が経過した頃から手に負えなくなった。
幸い、もととなった動物の習性を持っている場合が多いらしく、モンスター達を遠ざけながらどうにか暮らしている人々は多いらしい。
そしてモンスターが広がっていった区域を、時間ごとに分けていくと……。
「一番最初の目撃情報は、ここだ。山の上の集落だね」
俺が地図に描かれた、群島国家最高峰を指差す。
すると、商人達がおおーっとどよめいた。
「なるほど、情報を集めて、まとめて、その集まりから真実を見つけ出すのか!」
「さすがは魔獣使いオースだなあ」
感心されてしまう。
やめてくれむずがゆい!
クルミが嬉しそうにニコニコしている。
俺が褒められていると嬉しいらしい。
「センセエがすごいってみんな分かってきてるですねえ! いいことです!」
「そりゃ、評判が良くなるに越したことはないけどね」
さて、山の上の集落から、全てが始まった。
つまり、目的地はここということになる。
「ここの集落について詳しい人はいるかい?」
俺が尋ねると、商人達の一人が手を上げた。
「一応取引があるよ。そこまで大きな集落じゃないが、ごくたまに掘り出し物が見つかるんだ。あの集落がある山はさ、中がでかい空洞になってるから、その中に潜るんだと」
「中が空洞に?」
山というよりは、小高い丘といった見た目。
丘陵が広く、そこに集落や村が点在しているらしい。
なるほど、あれがまるごと空洞だと言うなら、何か秘密がありそうだ。
「その掘り出し物というのはどういうものなんだい?」
「ああ、それはよ。エルド教の方々に毎回献上してお金をもらってるんだ。だから市場には出回ってないよ。エルド教が特別な道具を使うってのは知ってるかい?」
「ああ、聞いたことがある」
エルド教徒は、神から与えられた技術で、特別な道具を作り出せる人々だ。
その道具はエルド教の司祭などにしか使えないが、まるで魔法のような効果をもたらす。
「その道具によく似てるんだ。だけど、見た目はもっとこう……ツルッとしてて不思議な感じなんだよな……」
ふむふむ。
つまり、この事件はエルド教とも縁が深い可能性があるというわけか。
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