第140話 沼地のヒュドラー……じゃなくヒドラ その2
ヒドラの正体は、ヒュドラーによく似たウミウシ的な生き物だった。
いやあ、大きい。
確かに大きい。
『もげもげー』
凄い鳴き声を出すし。
「よーし、どれどれ……っと、足場が悪いなここ」
沼地をびしゃびしゃと踏むアルディ。
なるほど、沼の奥には踏み込めないな。
『もげもげー』
「あっ、首? 首っぽいのが伸びてきましたわ! きゃあ!」
アリサを目掛けて、首とも触手ともつかないものが伸びてくる。
あれか。
狙いやすいところが分かっているのか?
「ひゃあ、変なのがきたですよー! えいやー!!」
クルミにも触手が伸びてきたが、これは彼女が炸裂弾を投げつけて撃退する。
触手の先端は破裂してしまったが、すぐににょきにょきと生え変わる。
「ははあ、なるほどヒュドラーっぽい」
「オースさん! 感心してないで助けてほしいのですけどおー!!」
「神聖魔法で撃退しては? っと!」
俺はノーマルな弾を投げつけて、触手を弾いた。
おや、長く伸びると力が弱くなるようだ。
スリングからの一撃で弾かれてしまったな。
「神聖魔法は直接的に攻撃をできるものは、水場と相性が悪いのですわー! それにわたくし、体を動かすこと全般が苦手なのですけどー!!」
「神都ラグナスでは一人で脱走してきたのに?」
「人間、窮地に陥ると力が出るものですわ」
「ここは窮地じゃないってことか。余裕だなあ」
「ああ、うそうそ! 余裕はありませんわー! わたくしの全力でもあのぬめぬめは躱せませんわー!」
「だってさ、ブラン」
『わっふう』
ブランが口角を上げてみせた。
そして、水の上を歩いてアリサの元へ。
彼女の襟首を咥えると、ひょいっと放り上げて自分の背中に着地させた。
「じゃあアリサ、全体への補助を頼むよ」
「うほーっ!! モフモフの上なら元気百倍ですわあー!! やりますわよおー!!」
「リーダー俺にも頼む!」
アルディが足場をご所望だ。
「フランメ、頼まれてくれるか?」
『任せるチュン。我はあんなヌメヌメに触りたくないチュン。またあの人間に斬らせるチュン!!』
ジャンプしたアルディの足の下に、フランメが滑り込み、巨大化する。
水面ギリギリを、真紅のフェニックスが飛んでいった。
『もげもげもげー!』
「おっと、俺に標的を変えたな? ……あ、いや違うか」
『うにゃー!! 助けるにゃごしゅじーん!! 己はああいうのに精神攻撃が効かなそうだし、触手で叩くのも汚れそうでめちゃくちゃいやにゃああああ』
ドレが必死になって逃げてくる。
「よーし、こっちだドレ! 俺の肩に駆け上がれ!」
『ちゅっちゅーい!』
ここで俺のポケットから顔を出したローズが、気合を入れて鳴いた。
すると彼の額の宝石がぼんやり輝き、そこから光が一条放たれる。
光は水面を叩き……そこから、魚が一匹跳ね上がった。
『もげー!』
ヒドラの触手が魚を追いかける。
ドレから注意が逸れた。
この隙に、猫は俺の肩にしがみついた。
『うにゃー!! 助かったにゃあああああ!! ローズ、恩に着るにゃあ!』
『ちゅちゅーい!』
ローズが胸を張った。
そんな風にドレを受け止めながらも、俺の反撃準備は整っている。
手にしているのは炎晶石。
次々にぶち当てて、効果を検証していくとしよう。
今も頭上では、フランメに乗ったアルディが剣を振り回している。
彼の鋭い斬撃が、何本もの触手を切り落とすが、それは次々に再生してきてしまう。
「さて……こちらには乗り物が無いし、周囲を歩きながら攻撃して検証だ。それっ!!」
まずは炎晶石。
炸裂した炎は、触手を炎で焼き切り弾き飛ばす。
すると、焼けた後が再生しない。
いきなり当たりだった。
「早い……。普通こういうのは何発か試したあとだろ。それにヒュドラーまんまの弱点とかどうなんだ。ああ、いや、ヒドラだもんな。ヒュドラーの真似したモンスターみたいなもんだ……」
「どうしたですかセンセエ?」
「ああ、いやなんでもない。クルミ、炎晶石で攻撃だ!」
「はいです!!」
二人ならんで、炎晶石を投げつける……のでは効率が悪いな。
「アルディ、頼む! 片っ端から触手を切り落としてくれ!」
「おう!! 任せてくれ!」
フランメが凄まじい速度でヒドラに迫る。
掠めるように飛翔すると、その翼が触手を焼き、剣が触手を切り飛ばす。
なるほど、ヒドラを相手取るには最高のコンビだ。
だが、驚くべきことにアルディの手数は、フェニックスがヒドラを燃やすよりも遥かに多い。
虹色の剣閃が瞬き、巨大なウミウシの怪物を凄まじい勢いで切り裂いていく。
フランメが飛翔した先に、切り裂かれた跡が広がっているのだ。
「好都合! 行くぞクルミ! アルディが傷をつけたところに投げ込んでいけ!」
「はいですよー!! とりゃとりゃとりゃー!!」
俺とクルミの連続投擲。
炎晶石の雨が、ヒドラの体に叩き込まれていく。
焼かれた部分は再生しない。
つまり、そこを更に切り裂いて、切り裂かれた部分に炎を叩き込んでいく。
『も、もげ、もげええええええっ!!』
ある程度叩き込んだところで、ヒドラが断末魔の悲鳴を上げて、真っ二つに裂けた。
じっと確認していると、再生する気配はない。
「よしよし! 戦闘終了だな。ブラン! 俺をそこまで連れて行ってくれ!」
『わふーん』
アリサが接近を嫌がったため、結局そのへんをトコトコ走り回っていただけだったブラン。
元気に戻ってきた。
そして、アリサをぺいっと横に降ろす。
「あーれえー。いけずですわブランちゃーん」
そして、次いでブランにまたがるのは、俺とクルミである。
沼の上を走りながら、ヒドラの死体に向かってみる。
大変生臭い香りがする。
だが、じゅうじゅうと焼けている所はまあまあ美味しそうな匂いが……。
「ウミウシも貝の仲間だからかな……。しかし、どうしてウミウシがこんなに大きく……。ひょっとして、神話返りってのは、有名なモンスターによく似た姿に、動物達が変異して暴れてるんじゃないだろうな」
「動物が変わっちゃうですか!? それって、だれがやったですかねえ?」
クルミが後ろで疑問を口にする。
それで、ピンときた。
「そうか、原因があるかもしれないんだな。何か動物をモンスターに変えるような……って。まだまだ、ヒドラ一匹だけしか確認してないけどね。さあみんな、街に戻ってまた情報収集と行こうじゃないか!」
俺の声に、アルディとフランメが元気に応じる。
対して、ドレとアリサが休みたい休みたいとぶうぶう言うのだった。
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