第81話 追跡! 神都包囲網 その4

『わおーん!』


『御用! 御用だにゃあー』


『ちゅっちゅ!』


『ピョイー』


 ブランの上にドレ、ドレの上にローズとロッキーが乗っかり、モフモフ動物四銃士みたいになった一団が廃教会に突撃した。


「あれで良かったのかなあ……」


「ロッキーにはわたくしめの呪歌を教え込んでおりますからな。一曲だけならば覚えていられますから、役立つこと間違いなしですぞ」


 ファルクスが自信ありげだ。

 ブランが教会の扉をぶち抜いて少しすると、ロッキーのピヨピヨ言う歌声が聞こえてきた。

 これは、興味を惹き付ける呪歌か!


「隠れている者たちも、顔を出したくなることでしょうな。そこを、ブラン殿とドレ殿が一撃で! さらに、ローズ殿が運の良さを与えてくれるでしょう」


「強いなあ、完璧じゃないか」


 俺が唸っていると、クルミが袖を引っ張ってきた。


「センセエセンセエ! やねのうえにだれかいるです!!」


「なんだって」


 大騒ぎになっている廃教会だが、屋根の上は静かなものだ。揺れてるけど。


 そこに、何人かの忘却派と見られる人影が逃げ出してきており、別の屋根に乗り移ろうとしていた。


「よーし、俺達は逃げ出す奴らを捕まえるぞ!」


「うっす! 全部モフモフ連中に取られてちゃ、戦士として形無しっすからね!! 俺にお任せっすよー!! どりゃあー!!」


 カイルが走っていく。


「クルミも行くですよー!」


「行ってらっしゃい。気をつけてね」


「はいです!」


 棒高跳びの要領で、槍を使って屋根上に飛び上がるカイルと、小さな取り掛かりを利用して壁面を駆け上がるクルミ。

 あっという間に逃走しようとする忘却派の前に回り込んだ。


 おお、戦いが始まっている。

 俺も下から、スリングを使って支援しよう。


「それじゃあわたくし、モフモフな方々のご活躍を拝見しに行ってきますわ~」


「アリサ、異教徒の前に司祭が堂々とやって来るのはどうなのかなあ……」


「ご安心を! ほら!」


 バッとローブを脱ぎ捨てるアリサ。

 その下には、普通の町娘風の衣装を着てきていた。

 ま、まさかこのために用意してきていた……!?


「では、行ってきますわね! ブランちゃーん! ドレちゃーん! ローズちゃーん! ロッキーちゃーん! 待っているのですわー!」


「あーっ! アリサ!」


「あー……。わたくしめが、護衛に行ってまいりますぞ。こう見えて腕には多少覚えがあるので」


「頼む……!」


 ファルクスも去り、俺は一人になった。

 さて……。

 ここで俺が、大局を見ながら状況をコントロールしていかないとな。


 屋根の上では、槍を振り回すカイルが大立ち回りを見せている。

 忘却派は間合いの違いから、うかつに攻め込む事ができない。


 逃げようとすると、クルミのスリングが唸りを上げる。

 

 おっと、後ろ側から一人逃げ出そうとしているな。

 俺は素早く、リュックから組み立て式の棒を取り出した。

 先端にスリングを設置する器具が取り付けてある。


 これぞ、スタッフスリング。

 より遠心力を増し、射程距離を伸ばす強化型スリングだ。


 弱点としてはスペースを取ることと、命中率の低下。

 だが、今回放り投げるのは雷晶石だ。


「そーれっ!」


 ぐるんぐるん振り回して、投擲する。

 猛烈な勢いで飛来した雷晶石が、逃げ出そうとする男の近くに炸裂した。

 壁が破壊され、雷晶石も砕け散る。


 砕けた石から、雷撃が撒き散らされた。


「ウグワーッ!」


 びりびりに痺れて、男が倒れる。

 これでよし、と。


 さて、廃教会の方は……。

 アリサとファルクスが、入り口から中を覗き込んでいる。

 あちこちで壁が破壊され、窓が破られ、何かが飛び出してくるな。


 あれは……地下かどこかにキメラを飼っていたのか?

 それっぽいものが出てくるが、相手がブランやドレじゃなあ。


 やがて、廃教会の建物自体がグラグラと動き始めた。

 あっ、いけない。


「ブラン! ドレ! 撤収ー!! 撤収だ! ローズとロッキーを連れて退却ー!」


『わふーん』


 ブランの声が聞こえた。

 アリサとファルクスが、慌てて教会から離れていく。


 ついに、廃教会は傾き始めた。

 建材がバラバラと崩れ落ち始める。


『わおーん!』


 教会の門扉を破って、ブランが駆け出してきた。

 その上には、大きいモードになったドレが乗っている。


 ドレの触手が、ローズとロッキーを確保しているようだ。


『わおん!』


『にゃ』


『ちゅっ』


『ピョ』


 脱出後、くるりとターンして教会に振り返る四匹。

 彼らの目の前で、廃教会は内側に向けて壊れていき、あっという間に瓦礫の山になってしまったのだった。


「うーん、圧倒的だ」


 俺はモフモフ達に駆け寄る。


「どうだったんだい? 状況を教えてくれないか」


『待ち構えていたにゃ。これは罠だったにゃ』


「なるほど」


 ドレがしゅるしゅると小さくなり、俺の腕の中にジャンプしてきた。

 キャッチ!


『ま、己達が突撃してくるとは思ってなかったにゃ。罠は全部、ローズが不発にしたにゃ。そして己とブランで粉々にして、出てきたキメラは全部倒したにゃ。隠れてるやつはロッキーが誘い出したにゃ。己とブランでぶっ飛ばしてやったにゃ』


「お疲れ様」


『ミルクを要求するにゃ』


『わふ! わふ!』


 ブランもご飯をご所望だ。


「よし、じゃあ戻って食事にしようか。それにしても……罠ということは、忘却派の本隊に関する手がかりはなしか……」


『そうでもないにゃ。己が、あいつらの心を順番に読んでやったにゃ』


「なんだって。ということは……」


『わふん』


 決戦だね、とブランが告げるのだった。

 いつもの、笑っているような犬の顔だった。



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