第43話 おびき出せアンデッド その3

 武器屋に到着し、本来の目的を果たす。

 クルミのスリングの改良だ。


 これは、俺が試作したモデルがあるので、武器屋に見てもらう。


「ほお……紐の持ち手を組み合わせられるのか。こりゃあどうしてこんな構造に?」


「実は、ゼロ族の尻尾がかなり器用だっていうのが分かってね。尻尾でスリングを扱えるみたいなんだ。こうして持ち手を組み合わせられれば、より正確に尻尾でも射撃できるだろうと思って」


「なるほど、面白い! 金を出してくれるなら作っといてやるよ。今暇だから、明日にはできるぜ」


「よし、頼む!」


 俺はそれなりにいい額を支払った。

 カトブレパスを換金したぶんが、まだまだある。

 懐の余裕は持っておくものだ。


「センセエ、尻尾でスリングして、手でもスリングすればいいです?」


「そういうこと。練習すれば、クルミは一度に二回の投擲ができるようになるんだ。やっぱり、ゼロ族はレンジャー向きなんだなあ」


 俺がうんうんと頷く。

 クルミ達ゼロ族にとって、尻尾とは第三の腕であり、第三の足であり、高所で姿勢を制御するバランサーであり、走る時に風をコントロールする帆でもある。


 これを十二分に使いこなせれば、クルミは一流の冒険者にだって引けをとらないだろう。


 こうして、クルミ専用スリングの発注は終わり。

 次は、弾丸を作らなくちゃな。


 蒸留酒をあるだけ買い込んで、小さな瓶も買い込まなければ。

 俺とクルミで酒屋と小物屋を巡り、持てるだけの酒と小瓶を買い込んだのだった。


 ついでに、運搬用に手押し式の荷車も買ってしまった。

 これは余計な散財だったか。


 そして帰り道は表通り。

 こんな大荷物を抱えてレブナントに襲われたのでは、堪ったものではない。


『乗るにゃん』


「ああ、こら」


 ドレは自由である。

 荷物を満載にした手押し車に、ひらりと駆け上った。


 ほう、あんなに大きな猫が乗っているのに、荷車が全く重くなった感触もない。

 それに、積まれた荷物は少しも音を立てなかった。


 ドレは猫的な移動のプロフェッショナルということだろうか。


 当の本人は、荷物の上で丸くなってさぼりを決め込んでいるのだが。


「んーっ! クルミもがんばるですよー! せんようのスリングを使うですー!」


 一方でクルミはやる気満々。

 実力だってついてきているし、これまでの以来での活躍ぶりを報告すれば、一足飛びにBランクにだってなれるかもしれない。


 教えがいのある生徒なのだ。

 

『にゃん』


 途中、横道があるところでドレが荷車を飛び降りた。

 そして、路地にトコトコと走っていく。


 次の瞬間、ごく狭い範囲だが周囲の空気が震える感覚があった。


『にゃん』


 ドレが戻ってくる。


「何をしていたんだい」


『伏せてるレブナントを見つけたから壊してきたにゃん』


 今の一瞬でか。

 なんとも……うちのモフモフ達は頼りになる。


 万一の事があったら、絶対に頼ろう。

 俺は無理だけはしない主義なんだ。




 ギルドに戻ると、アリサがブランにもたれかかって寝ていた。

 それなりに地位のある司祭が、犬の上でお昼寝とかどうなんだろう。

 本人の寝顔が大変幸せそうなので、これはこれでいいんだろうか。


『わふん』


 ブランがドレに、ずるいぞ、と言った。


『にゃん』


 知らんがな、とでも言いたげなドレ。


「オースさん、クルミ、お帰りっす。こっちは何も起きてないっすよ」


 カイルがすっかりまったりしている。


「そりゃあ良かった。こっちは襲撃されたよ」


「なんですって」


 いきなりカイルが戦闘態勢になった。

 傍らの槍を掴んで、周囲に目を配る。


「大丈夫。レブナントだったけれど、撃退したから。それよりも、濃度の高いアルコールを使ってレブナントを倒せるというのが実証されたよ。これで、誰でもあのアンデッドと戦えるぞ」


「本当ですか! 魔法の武器なんぞ持ってないのが普通っすからねえ……」


「ああ。他のパーティが来たら真っ先に知らせないとな。戦う手段を提供できる……っと」


 俺は声を潜めた。

 いけないいけない。

 あんまり大きな声でやるものじゃなかったな。


「ドレ、他に人目は無かったかい?」


『あの怪しい男にゃん? あいつの思念はこの建物の中に感じないにゃん』


 外出していたか。

 良かった。

 ちょっと不用心だったな。


「さて、カイル、クルミ、手伝ってくれ。この小瓶に蒸留酒を詰めるぞ。これがアンデッドへの対抗策になる。俺達の頑張りで、アドポリスの命運が変わってくるんだ」


「わかったです! クルミにおまかせですよ!」


「了解っす。……俺、なんかこのパーティに入ってから雑用作業をすることが増えたような」


「俺みたいに器用になるかもね」


「マジっすか! じゃあ頑張るっす!」


 なんだかやる気になってしまったカイル。

 器用で困るということは無いわけだし、結構なことだ。


 こうして、俺達は次なる戦いのための準備に入ったのである。


 

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