第41話 おびき出せアンデッド その1

 冒険者ギルドの一角を、俺達用に使わせてもらっている。

 何せ、俺とクルミとアリサとカイルだけならいいが、とにかくブランが大きい。

 そしてドレは小さいものの、金色の猫なのでとても目立つ。


 俺達のいる場所が、視覚的にもとても賑やかになった。


「オースさん、猫増えたのか」


「それもテイムしたんですか。じゃあモンスター?」


「まあね」


 詳しい説明はやめておこう。

 まだ分類されていない、どうやら新種のモンスターだなんて言ったらどんな騒ぎが起こることか。


『己は肉を所望するにゃん』


「こんな早い時間からかい? 胃にもたれたりしないの?」


『心配無用にゃん』


 ブランとドレの肉を注文する。


「はい、ドレちゃん」


 ギルドの受付嬢が、猫用にミルクを持ってきた。

 ハッとするドレ。


『これは何にゃん』


「ミルクだね」


『未知のものにゃん。己はあらゆる毒物を分解できるにゃん。飲んで見るにゃん』


 ぺろぺろミルクを飲みだした。

 これを見つめる、アリサと受付嬢。


 一瞬、ドレの全身に震えが走った。


『こ、こ、これにゃーっ』


『わふん?』


『うまいのにゃん!!』


 ミルクに鼻先を突っ込んで、ずびびびびっと飲むドレ。

 気に入ったようだ。


「かーわいいー」


 アリサと受付嬢が声を合わせた。

 アリサはよく、ドレの本当の姿を見てるのにカワイイとか言えるなあ。


「クルミもミルクが欲しくなってきたのです……!!」


「あ、じゃあ俺も頼もうかな」


「日が高いうちはミルクっすよね。俺もー」


 ということで。

 モフライダーズ全員でミルクを飲むことになった。

 本日は、オフの日である。


 連続で依頼ばかりこなしてても体がもたない。

 たまには休むことも大事だ。


 それに、ちょっとした依頼なら、俺の講義を受けた冒険者達がこなしてくれるようになっているし。


「それで受付さん。街がアンデッド騒ぎで大変だって聞いて戻ってきたんだけど、どうなんだい?」


「ああ、はい」


 ドレに見惚れていた受付嬢が、ハッと我に返った。


「そうですねえ。浮浪者の人達が一人もいなくなったんですよ。それで、翌日にはレブナントになって戻ってきました。慌てて、教会の方々が退治して回ってたようです。今は教会がパトロールしてくれていますね。魔法の武器を持った冒険者もです。一応、アンデッドの巣があるかもということで、教会から神都ラグナスまで救援要請が出るようです」


「なるほど……」


 俺が頷きかけたところで、ギルドの奥で物音がした。

 そこには、俺達をじっと見ている男の姿がある。

 目付きの鋭い男だ。


 見覚えが無いが……。


「あら、サブマスター」


 ギルドマスター補佐みたいな役職の人だったようだ。

 彼は受付嬢に呼びかけた。


「君、それは本当かい?」


「ええ、はい。さきほど教会の方がいらっしゃいまして、護衛で冒険者を雇いたいから、すぐに集めてくれと」


「なるほど……。ああ、これでアンデッド騒ぎも安心だね。襲撃も散発的だから、もう怖くないだろう。無駄に警戒する必要もないさ。なあ、そう思わないか?」


「? そうですねえ」


 受付嬢が首をかしげながら応じる。

 今度はサブマスター、俺達に矛先を向けた。


「おい、冒険者諸君。君達もさっさと仕事に行ったらどうだ。アドポリスを平和にするなら、のんびりしてる場合じゃないぞ。外の仕事をこなして、そうだな、教会の連中も忙しくなってきているから、みんな総出で仕事をした方がいい。そうだ、そうしよう」


 サブマスターはすぐに引っ込んで行ってしまった。


「なんすかね? なんかいけすかねえ奴っすよ」


 カイルが鼻を鳴らす。


「んー、なんか悪そうな感じがしてたですよ。尻尾があったらきっとトゲトゲ尻尾です!」


 クルミもちょっと頬をふくらませている。

 二人の野生の勘みたいなものかな?


 俺も、ちょっと気になった。

 襲撃が散発的って、事態の裏に黒幕がいて、アンデッドの動きもきっちりコントロールしているかのような物言いじゃないか。

 いや、考えすぎかな?


『わふん』


 疑うくらいでいいんじゃないの? とブランからの提案。

 なるほど、確かに。

 アドポリスは異常な事態の只中にあるわけだしね。


 警戒は怠らないようにしておこう。


 この日はオフなので、仕事は受けない。

 めいめい勝手にしていていいのだけど、俺が一つだけ、仲間達にオーダーを出した。


「一人にならないこと。ドレやブランでもいいから、誰かと一緒にいてね」


「うっす!」


「もちろんです!」


 カイルはいいお返事をし、その膝の上にドレが飛び乗った。

 アリサは最初からブランにひっついている。

 教会へ帰還の挨拶はしなくていいのかな……?


 いいんだろうな。

 もともと神都ラグナスから来た司祭だし。


「あ、そうだ。クルミ、ちょっといいかな」


「はいです!」


 俺はやるべきことを思い出した。


「クルミのスリング、今までの戦い方を見てて改良した方がいいと思ってたんだ。武器屋に行こう」


「はいです! 行くです!」


 クルミは元気よく立ち上がると、ちらっとアリサを見た。

 アリサはブランをなでなでモフモフするので手一杯だ。


「よしです」


 クルミがにんまり笑った。

 まだアリサをライバル視してるのか……。


 俺達はギルドを出て、武器屋の方向へ。

 そして俺は、ギルドの奥をちらりを伺う。


 サブマスターが俺達を見ていた。


 もしも、俺達の疑念が正しいなら……出るかな?


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