第40話 モフモフまた一匹 その5


 アドポリスへと向かう旅路にて。


『わふん?』


「なんで陰謀が蠢いてるって思ったかって? それはもう、割と最初の頃から思ってたよ。あちこちで事件が起こって、アドポリスは混乱してる状態じゃない? そして、Sランクパーティのショーナウン・ウインドの名声は下がり、彼らは行方不明になった。アドポリスは今、頼れる者を失いつつある状態だ」


『わふ』


 それでそれで?

 と、ブランが先を促してくる。


「この状況で、さらに冒険者が外に出たらどうなる? あわよくば、強力なモンスターで冒険者を消してしまえば……」


『わふ!』


「そう! アドポリスを獲れるわけさ。多分、元凶である何者かは、アドポリスそのものを手に入れたがっているんだよ。そいつはSランクパーティをも手玉に取れるとんでもない奴……だと思うなあ、多分。恐らく。あー、でもショーナウン・ウインドを手玉に取ってもなあ……」


 ブランがサモエドっぽい笑顔になった。


「センセエがだまされてないので、悪いやつはしっぱいしたですね!」


 クルミが突然鋭い事を言ってきた。


「どうしたんだい、クルミ」


「そいつ、みんなをだまそうとしたですよね? でもセンセエはだまされなかったです! だからセンセエがいれば安心で、悪いやつはやっつけられちゃうですよ!」


 ブランの上でガッツポーズを決めるクルミ。

 おお、俺への信頼が凄いなあ……!


「そっすね。俺、まだオースさんとの付き合いは浅いっすけど、その悪いやつは一番敵に回しちゃいけない人を敵に回しちゃった感じがするっすね……。どうせオースさん、もう対策を考えてるんでしょ?」


「まあね。レブナント対策は準備中だよ。俺が留守の間、ギルドで作っておいてもらうように依頼してたからね。帰る頃には完成してるだろう」


「まあ。魔法の武器でも作られるのですか? わたくしも、オースさんがその悪いやつとやらに絡め取られなかったのは不幸中の幸いだと思いますわね。あなた、休む間もなくあちこちを駆け回り続けているから、あちらさんも捕捉できなかったのだと思いますけれど。それを考えると、多くのモンスターを出現させて冒険者ギルドの目をそちらに向けるという、いわゆる黒幕の方の野望は裏目に出たとも言えますわねえ」


 ドレをむぎゅむぎゅ抱きしめながら、冷静なことを言う人だ。

 文句を言いそうなドレだが、今は干し肉を口に咥えてもぐもぐやっている。

 肉で買収されたな。


「ちなみにドレ。アンデッドにも君の攻撃は通用しそう?」


『もぐ……アンデッドなるものが不明にゃん』


「はい、これ。レブナントの破片」


 ドレに黄色い破片を手渡す。


「オースさん、まだそれ持ってらしたんですか! 不浄ですよー」


 アリサに咎められる。


「ごめんごめん。色々調べてると面白くて。いや、面白がっちゃいけないんだろうけどね」


 ドレの触手が、破片を撫で回している。


『生物の肉体を置換したものにゃん。ナノ・ヴァンパイアの技術にゃん。ナノ・ヴァンパイアはカリカリしててうまいにゃん』


「それは一体なんだい?」


『小さな結晶の集まりにゃん。物理的な手段では、結晶が攻撃を避けるために痛打を与えられないのにゃん。触れた有機生命体のカリウムを奪うにゃん。カリウムは己もメインごはんにしてるにゃん』


「なんとなく分かった。通常の武器が通用しない理由は、レブナントを構成する肉体そのものが攻撃に沿って変形するからだったのか。それじゃあ、魔法の武器が通用する理由は……」


「ええと……教主様が、じゃみんぐ? とかでアンデッドの肉体を誤作動させ、ういるす? とやらを流し込んで自壊させると仰ってたような。バニッシュの光もつまりはそういうことですわね」


「難しいな……。でもこれ、そこそこの濃度のアルコールに漬けたら、バチバチ言って光らなくなったんだよね。つまり、蒸留酒のアルコール度数が高いやつで魔法の武器を代用できる」


『低品質のナノ・ヴァンパイアならありうるにゃん。揮発するエタノールにより、構成体がメンテナンスモードを誤認し、不活性化するのにゃん。なお、己はエタノールでは酔っ払わないのにゃん。宇宙マタタビを持ってくるにゃん』


 よし、ドレのお墨付きをもらったぞ。

 レブナントレベルなら、蒸留酒で戦える。

 これなら一般冒険者もレブナント退治が可能だろう。


 そして、それ以上のアンデッドが出てきたら……そこは俺の出番だ。


『ちなみに純粋な水に沈めても壊れるにゃん。己も水は苦手だがにゃん』


 あ、そうなの?

 アンデッドが流れる水を渡れない理由って、案外そういうのかも知れないな。


 俺の持っている情報を修正、修正と。


 頭の中で作戦を練り込んでいるうちに、アドポリスが見えてきた。

 前に来た時よりも、街全体が暗い雰囲気に包まれているような気がする。


 事態の黒幕は、少しずつこの都市国家を掌握しつつあるということか。

 そうはさせない。


 今日からモフライダーズは、最大の仕事にとりかかることになるのだ。

 内容は、アドポリスを襲う黒幕の撃破。



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