第15話 アイスクリーム

鳴っている

自動ドアもエスカレーターも

鞄の中身も裾のフリルも

実は公園の滑り台すら鳴っている

なのに探知機を抱いて歩いても

飛び立つ音すら拾えない


ねえ君が世界を眺める時

咲き乱れる思考の色は何


名前を知ったところで

何度も聞きたくなるのは明白


溶けないアイスクリームを目の当たりにして

その所以に囚われる

実はコーンの方が溶けていることを

今日も伝えたくてたまらない


違和感をつまむ

境界がぼやけて全部がはっきりする

とてつもない恐怖で思考が破ける

律が狂う

臓器も全部裏返る

今日も嬉しくてたまらない


この皮膚に深く彫り込まれた糖度を

麻酔なしで引き抜くとき

形は変わる

踏み入った罰

今日まで生きてこられたこと

そんな事実が何よりも薄情ですが

今日は幾分か幸せです


だからさ

冷たいアイスクリームで舌先が凍結して

私はもう

愛する人に「愛してる」なんて

永遠に言えなければいい

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