第50話 運命の出会い!?

☆★☆★ 6月25日発売 ☆★☆★


「魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~」1巻

レーベルはブレイブ文庫!!

イラストレーターはふつー先生です。

ご予約お願いします。



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 王都の北方は有名な危険地帯だ。

 急斜面な上に、滑りやすい岩肌はもちろんのこと、珍しい木の実や魔力が湧き出る泉を巡って、多くの魔獣たちが集まる。他ではなかなか見ないAランク、Bランクの魔獣が野生の鹿や猪と同じぐらいの確率で出くわす。


 次期聖剣使いの審査は、そんな最危険地帯で行われていた。


 聖騎士の中でも選ばれた者にしか与えられない聖剣。

 その使い手になる道は険しく、そして狭い。

 審査官に選ばれたものの推薦から始まり、筆記試験、面接、百番勝負を経て、最後にたった1人選ばれた人間が『竜の試練』と呼ばれる最終審査に受けることを許される。


『竜の試練』とは即ち、名前の通り竜を狩る試験だ。

 聖剣使いの選定は各国々に基準があり、まちまちだが、セレブリア王国では北方の山脈に住む『ゼリオス』というダークドラゴンの一種を倒す事が慣習となっている。ちなみにゼリオスのランクは“A”で、周辺に住む魔獣の長だと言われている。


『ジャアアアアアアアアアア!!』


 ゼリオスの嘶きが山脈一帯にこだまする。

 夜空が落ちてきたような深い紺碧の巨躯。短くもたくましい手と腕についた爪は鋭く、両翼は天を覆い山脈に巨大な影を落としていた。流氷のように鋭い牙がはえる顎門を開くと、極低温の吹雪が吐き出される。もうすぐ初夏だというのに、一瞬にして辺りは銀世界に染まってしまった。


 傍若無人に暴れ回る竜の姿を見て、審査官たちからもおののく声が漏れる。いよいよ濃い藍色の瞳が彼らの方を向いた時、銀世界となった山の峰で黒髪が踊った。


 突如、ゼリオスの前に降り立ったのは、1人の少女である。

 腰まで伸びた艶やかな黒髪に、周りの雪よりも目立つ純白の肌。一切の防具を纏わず、着ていたのは聖クランソニア学院の制服のみ。氷でできたような薄い半透明の細剣だけを握り、ゼリオスに真っ直ぐ向かって行く。


 ゼリオスは吹雪を吐き、あるいは風を操り、闇の魔術を放って迎え討つ。少女はその事如くを討ち払い、巨竜との距離を潰していく。硬い意志で武装された黒の瞳が恐怖に揺らぐことなく、ついにゼリオスを射程に収めた。


 魔術で作った氷の階段を上り、ゼリオスの鼻先までやってくると、弓を引くように細剣を持った腕を引き絞った。


「さようなら」


 薄青い閃光が走る。

 氷と吹雪を固めたような魔術による砲撃はゼリオスの急所付近を穿つ。衝撃で長い首が後ろに跳ね上げられると、ドォッと音を立てて、仰向けでひっくり返ってしまった。


 Aランクのダークドラゴンを一撃で倒した少女を見て、審査官たちからどよめきが起こる。過去に何度と行われてきた聖剣使いの審査だが、一撃で倒したのは初のことであった。


 少女はスカートのポケットから支給品と書かれた魔導具を取り出す。それを耳に当てると、短く「指示を」と尋ねた。魔導具から聞こえてきたのはゴッズバルドの豪快な声だ。


『よくやった、エリアナ・ルヴィエ。ダークドラゴンの死体を確認するので我々もそちらへ行く。しばし待て』

 

 審査官たちがいるのは、谷を挟んだ反対側の峰だ。

 近くに吊り橋があり、そこを渡ればすぐだが、どうしても5分ほどかかる。エリアナは声を飛ばす魔導具に「了解」と短く返事をしてから、審査官たちを待つことにした。


「こんな審査でみんなを守れるのかな」


 雪をかき、現れた野花に語りかける。


 審査が終わった安心感や疲労感よりも、エリアナの表情にはどこか失望感が漂っていた。聖剣使いの最終試験が、こんなものなのか、と。

 ともかく試験は終わった。ようやく肩の力を抜いたエリアナは、得物を鞘に収める。


 ババババババババババババババババッッッッッッ!!


 突如、けたたましい音がエリアナの背後で弾ける。

 振り返ると、山脈全体が黄金色に光っていた。神の後光とも思えるような不可思議な出来事に、エリアナは構えることすら忘れる。驚くべきはここからだ。心の臓を貫かれたゼリオスが突如息を吹き返し、喉を鳴らして立ち上がったのである。


「そんな! 間違いなく死んでいたはず!」


 Aランクの魔獣を前にしても眉一つ動かさなかったエリアナが呆然と立ち尽くす。我に返って、構えを取った時には、すでにゼリオスの口の中で吹雪の塊が渦を巻いていた。


(しまった。間にあ――――)


 ジュンッ!!


 ゼリオスの復活。さらなる強襲。

 それだけで奇跡というほかないのに、エリアナの前で三度奇跡が起こる。

 空から黄金の槍のようなものが落ちてくると、復活したばかりのゼリオスに直撃する。衝撃は凄まじく、そのまま首ごと地面にめり込んでしまった。せっかく生き返ったゼリオスは再び死んでしまう。


(一体、何が起こってるの?)


 状況が掴めず、エリアナは顔を上げる。

 視界に見えたのは、1人の少女だ。

 歳の頃は自分と同じか下。豊かな銀髪を腰の付近まで垂らし、少し羨ましいぐらい大きな胸をしている。ゼリオスを一撃で倒したことよりもエリアナを驚かせたのは、少女が自分と同じ聖クランソニア学院の制服を着ていたことだろう。それも聖騎士候補生ではなく、聖女候補生の制服だったから、なお驚きだ。


(何者なの?)


 顔を確認しようにも、ちょうど少女はエリアナを背にして見えない。やがて土煙が彼女を隠すと、結局見失ってしまった。


「何か轟音が聞こえたので急いできたが、仕留め損なっておったか」


 ゴッズバルドたちが遅れて到着する。

 前衛的に巨躯が曲がったゼリオスを見て、「ほお」と声を上げた。


「油断せず、冷静に対処したようだな。さすがは神童エリアナ・ルヴィエ。噂に違わぬ才女よ」


「あ……。いえ。これは――――」


 エリアナは正直に話そうとしたが、すぐに口を噤んだ。

 何故ゼリオスが復活したのかはわからないが、あの時エリアナが油断していたことは間違いない。助けらしきものが入らなければ、死こそ免れていただろうが、深傷を負っていたことは間違いない。それが油断と取られ、不合格となる可能性もある。ならば余計なことを言わない方が得策だと、エリアナは判断した。


「謙遜せずとも良い。少し早いがおめでとう。文句なく合格だ。数日後、国王陛下より聖剣【氷華蠍剣アイスコーピオン】が下賜されるであろう」


 ゴッズバルドは自分よりも遥かに小さいエリアナの肩を叩く。

 Aランクのダークドラゴンを倒した稀代の神童は、まだ初等学校の生徒でも通じるほど小さな身体をしていた。


「……はい」


「ん? どうした? 浮かぬ顔だが」


「ゴッズバルド将軍!」


「元将軍だ。何かね?」


「この世にはまだエリ……より強い人がいるのでしょうか?」


 エリアナの真剣な問いに、ゴッズバルドは少々狼狽しつつ、頬を掻く。ゆっくりと答えの引き出しを開けた後、元将軍は柔らかな笑みを浮かべた。


「世界はまだ広い。広すぎるほどにな。いつかきっと、そなたを脅かす者が現れる。必ずな。それまで鍛錬を怠らないように。良いな」


「はい……」


「……さて私は失礼させてもらう。色々と立て込んでいてな。今度は戴剣式で会おう」


 予言めいた言葉を残して、ゴッズバルドは山を下り始める。

 大きな背中を見送りつつ、少女が脳裏で見ていたあのゼリオスを打ち倒した少女であった。



 ◆◇◆◇◆ 一方、その少女はというと…… ◆◇◆◇◆



「ゼリオス、すまん!!」


 我は土下座していた。

 場所はセレブリア王国王都北方の山脈。

 魔獣どもの住み処の中心で、我は額を冷たい岩肌につけていた。

 はっきり言うが、我が頭を下げることは滅多にない。

 少なくとも魔王時代にはなかったことだ。


 どうしてこんなことをしているかというと、単純に我が未熟だったからである。


『魔王様、頭を上げてください』


『んだんだ。うちのゼリオスが弱かっただけだっぺ。折角、魔王様が胸を貸してくださったのに。あんな簡単に負けて、この馬鹿息子が』


 ゼリオスの母君が尻尾で息子の背中を叩く。

 愛の鞭というが、それなりに攻撃力があり、ゼリオスは吹っ飛ばされてしまった。


『か、かあちゃん。いてぇよ。俺、一応ダークドラゴンの長になったんだぜ。もう少し優しくしろよ』


『何が優しくしろだ。そんなことだから、幼馴染みのセリーナにフラれるんだ』


『なっ! それはかーちゃん、言わない約束だっぺ!』


 親子喧嘩が勃発する。

 竜同士の喧嘩は迫力満点で、山脈に地鳴りが響く。


 我がこのダークドラゴン親子とあったのは、1ヵ月ほど前になる。

 いつも通りアップで世界一周をしていたら、突然この親子に襲われたのだ。もちろん返り討ちにしてやったのだが、その時母親より息子を鍛えてやってほしいと頼まれた。


 何でも年に1回、人間たちが山にやってきて、ゼリオスたちダークドラゴンを退治しにきているらしい。どうやら腕試しのためにゼリオスたちを利用しているそうだ。去年ゼリオスの父が敗れ、今年はゼリオスの番。だが後を継いだ倅はどうも頼りない。そこでゼリオスの母君に泣きつかれたというわけである。


 はっきり言って、我は仲間が欲しくてトレーニングに誘うことはあっても、明確に鍛えるために弟子を取ったことは1度もない。それは魔王自体から一貫している。最初断ろうと思ったのだが、結局母君の熱意に心を打たれ、今に至るというわけだ。


「なのに、我が……我が未熟だっただけに!!」


 我は岩に額を擦りつける。

 火が付き、岩は拳1個分すり減っていたが、我は謝罪を続けた。

 ゼリオスが勝利できなかったばかりか、我の回復魔術が暴走してしまった。実は最初ゼリオスが生き返ったのは、イレギュラーだったのだ。試練の前に景気づけにかけた回復魔術が、タイムラグで発動した上にゼリオスの精神を乗っ取り、バーサーカーにしてしまったのである。


 すぐに我が介入し、事なきを得たが、すべてが我の回復魔術で台無しになってしまった。折角のゼリオスの晴れ舞台だというのに。


「いや、回復魔術が暴走したことよりも、もっと我にとってショックなことがある」



 ゼリオスの弱さが何1つ治っていないことだ!!



 治っていないことだ。――ことだ。――だ。

 我の絶叫は遠く峰の方までこだまする。


『かーちゃん。おれ、今の魔王様の言葉が一番きついかも』


『事実なんだからしょうがないでしょ。あんたが強くなればいいのよ』


 悔し涙に我が咽ぶ一方、ゼリオスたちはそんな我を呆然と見つめている。


「ううっ……。ゼリオス! 母君!!」


『うおっ! びっくりした!』


『どうされました、魔王様』


「特訓だ! 次の試練まで特訓するのだ!!」


『いやでも、次いつあるかわからないし。オレ、死んでるかもしれないし』


「何をぶつくさ言っている! 行くぞ!!」


『あっ! ちょ! ルブル様、尻尾! 尻尾を掴んで引きずらないで。あ。あ……やめて。そこは、よ、よわ――――』


 見ておれ、人間たちよ。

 我がゼリオスを立派なドラゴンに育ててみせるからな!


 まずは手始めに、腕立て伏せ10万回からだ!!





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