第27話 組決め

アスキスが消えてもその場は凍り続けていた。

誰一人無駄な動きはせず、口を開こうとしない。

アスキスに向けられているのは恐怖と尊敬、憧れの眼差しだ。

一方阿修羅に向けられたものは恐怖。

ぽつんと阿修羅の周りだけ人混みがない。


そこに一人の男が寄ってきた。


「すまんかったなあ」


少し汚れた顔を服で拭きながら寄ってきたのは独特の訛りがあるローガンだ。


「にしても熱田、お前すごいんやな」


阿修羅の右手を触ったりして何やら確かめている。


「別に何か仕込んでるわけでもない、か……。

一体なんの魔術つかったんや?」


不思議そうに阿修羅を見た。

好奇の目をごれでもかとぶつけてくる。


「別に珍しいもんじゃないだろ…。ただの身体強化だよ」


それを言った瞬間、またもや周り時間が止まった。目の前にいるローガンも口を開けて時を停めている。


「……今どき身体強化なんて魔術使うのお前しかおらんでぜったい」


時間の静止は解けてローガンだけではなく、周りの生徒も阿修羅に目を向けた。今度は恐怖にプラスして好奇の目もあるようだ。


それにしても身体強化でここまで驚かれるとはな。まあこれしか七瀬に習ってないんだけども……。


「にしても身体強化か……渋い魔術使うなぁ」


口角を上げたり下げたりとローガンの表情は情緒不安定だ。


「身体強化……身体強化……」


ぶつぶつとローガンは呟き始め、より一層表情の情緒が不安定になった。

徐々に肩を震わせて口角がつり上がっていく。


「ぶはッ!!ぶははははははは!!!

渋すぎる!渋すぎるで熱田!!」


背中をバンバンと叩きながら笑い涙を拭いて喋り続けた。途中、また癖の強い笑いを挟みながらもすげーすげーと盛り上がっていた。

いつの間にかぽつんと穴の空いた阿修羅の周りには生徒が集まりローガンと一緒に盛り上がっていた。


◇◇


『それでは今から組決めに入ります。

新入生は近くに集まってください』


エルの声がこの場に響いた。

盛り上がっていた生徒たちは一瞬で静まり声の方へと移動を始めた。


これが人望と言うものだろう。

俺が言ってもとうていこうなるとは思えない…。


群れの流れに流されるように阿修羅とローガンも向かった。


「こちらに書かれている組日程を見て置くように。会場はそれぞれ違いますのでしっかりと確認してください。

また、組織を創る方には最低10人の組員を集めて学園長室に向かってください」


エルが指さすのは大きな白い垂れ幕だ。

それぞれの組決めの日程と場所が記されている。


「組を創ることもできるんだな」

「まあそこがこの学園のいい所やからな」

「いいところ?」


垂れ幕に目を向けていた阿修羅はローガンに目を向けた。その先の言葉を醸し出すようにじっと目み見つめて。


「ああ、この学園は生徒の自主性を重んじるとかである程度の自由が許されてるんや。だから生徒が住む場所も学園内なら何処でもいいって訳や」


「へー、ローガンはどうするんだ?創るのか?」


んなわけあらへん、と顔と手を同時に振った。


「組を創るのなんて相当な実力がないと出来ん。やから歴代でもそうはいないんや。今ある組が強すぎるってのもあるけどな」


「なるほどなぁ…」


「あの人らはその歴代でも稀にみる人やで」


ローガンの言うあの人らとは、目線の先にいるエルとアルフィフスだ。

確かにエルなら10人なんて直ぐに集まるだろうし実力も伴うだろう。


「エルさんとアスキスさんは知ってたやろ?」


さすがにな、と顔で訴えかけてくる。

残念ながらアスキス・アルフィフスという名はこの場に来るまで知る由もなかった。


「エルさんは知ってたけど、アスキスさんはしらなかったわ」


「まあ、なんとなく予想はしとったわ。

でも逆によくエルさんの方はしっとったな。

何処で知ったんや?」


不思議そうに首を傾げている。

なんでや?なんでや?とローガンは元々近い距離をさらに詰めてくる。


「あー、それはだな」


正直に言うかかなり迷った。

別に言ったところで損はないはず、だが変な騒ぎでまた囲まれる事になるのはごめんだ。

ここは少し嘘をつくことにしよう。


「普通に町で聞い────」

「見つけた」


阿修羅の言葉が消された。

声が声を覆い隠し、どちらの声もあやふやに聞こえなくなった。

周りはまたザワザワとし始めて、ローガンは目をかっぴらいて阿修羅の後ろを見ている。


「どうしたん─────」

「阿修羅」


声はまた被さった。しかし、今回ははっきりとその言葉が聞こえた。後ろから聞こえるその声はさっきも聞いた音だった。


「阿修羅、あなたは私の組に推薦しておいたのでついてきてください」


後ろを振り向けば美人が、何もかもが目立つ人間が阿修羅の後ろに立っていた。

いつもの澄まし顔で阿修羅だけを見ている。

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