第14話 魔法の杖

阿修羅とエルは杖屋に入った。

その中は本屋とは対になる部屋で、とても小さく店長らしき老人が一人がいる。

とても杖を置ける様な大きさは全くなく、人が5人ほど入れるくらいの暗くて小さな店だ。


「久しいなぁ…エル」


(この人も日本語だ…)


縁が金色の丸い眼鏡をかけているその老人は眼鏡をクイッとかけ直しエルと阿修羅を見る。


「お久しぶりです」


「今日はなんの御用で…と聞くまでもないか。そこのボーイに杖か」


「彼に合った杖を選んでいただきたい」と頷いてからエルは言った。


「了解。それじゃそこのボーイ、目をつぶってくれるかい?」


阿修羅は言われるがままに目をつぶった。

瞼の裏からは何がおこっているのか分からない。ただ何かが終わるまで待つだけだ。


ごそごそと何やら音がする。

老人がいるであろう場所からだ。

何かが阿修羅に近づいてくる。


つん、とおでこに小さいものがあたった。

その瞬間真っ暗だった瞼の裏は明るくなり驚いて目を開けた。


そこに見えるのは店の老人。

おでこに何が当たっているのかと思い目だけを上に上げると持っているのは杖だ。


老人は目をつぶっていて「ん〜…」と唸っている。


チラッと横目で見れば阿修羅の方をじっと見ているエルがいる。


『目を閉じて』と言うサインなのか目をつぶっては開けて、つぶっては開けてを繰り返し見せてくる。


…少し可愛いと思った邪念を一気に振り払う。


阿修羅は老人に視線を戻し、エルの言う通りにもう一度目を閉じた。


それから数分が経過した。

老人が「……これだな」と一言発し、おでこから杖を退けた。


「もういいぞボーイ」


阿修羅は目を開けた。

特に何かが変わった様子をなく、ただ老人がいるだけだ。


「ボーイに合う杖はクリフォトの杖だな。邪悪な木として知られている木から取られた物だ。何も合わせていない、純正だ」


老人は苦々しい顔と不思議そうな顔、両方くっつけて話していた。


「この杖、作ったは良いものの、人の手に渡るとは思ってもみなかったな。…まあ、とりあえず持って見るがいい」


老人はそう言うと何も言わずに杖を振った。

無詠唱とでも言うのだろうか。

杖を振り下ろした場所にはながぼそい木の棒が出てきた。


「これがクリフォトの杖だ」


手に取って見せる。

特に特徴的な形をしている杖でもない。

一般人が杖と聞いたら想像できるような極普通の杖だ。


「持ってみなさい」


老人が杖を取り出し阿修羅に渡した。

重さはそんなになく、長さも普通だ。


真っ黒なその杖は、阿修羅が持つと魔力の様なものが杖に纏った。



「…杖が君を認めた。これでその杖は君の物だ」


もう一度眼鏡をクイッとした。

阿修羅は杖をエルのようにコートの中にしまおうとしたがポケットが見つからない。


それを見かねたエルが「私は魔法で閉まっているんですよ」とコートの中を見せながら言った。


阿修羅はその勘違いに少しだけ恥ずかしくなりそっとリュックに閉まった。


「それじゃあエル、代金の支払いを」


老人はさっきの本屋と同じように宙に光っている文字を写して言った。


ん〜、この杖の値段は…どれどれ?

0をひとつずつ数えていく。

1、2、3、4、5……


「じゅ、10万ベル…だと…っ?!

…って10万ベルって日本だとどんくらいなんだ?」


「同じ換算で10万円ですよ」


こんな棒っきれ1本で10万だと?

有り得ん、有り得んぞ魔法界!!

いくら魔法が使えるからって…ぼったくりじゃ……


阿修羅は『ぼ、ぼったくり…』と心配そうな目でエルを見た。


そんなエルは少し苦笑をして「大丈夫ですよ」と子供をなだめるように言った。


さっきと同じようにエルはカードを店員に渡した。そして水晶玉に杖を当てて支払いを完了した。


「毎度あり。気おつけてあっちまで行くんじゃぞ」


「ええ、またお世話になります」


エルはそう言い阿修羅と一緒に店を出た。



「次は銀行に行きましょう」


「銀行って…あのでっかいとこか?」


阿修羅が指を指す方は、色々な店が連なる中で一番奥で真ん中に建てられている建物だ。


日本で言うと国会議事堂みたいな外見の建物ですげぇでかい。


「はい、中はもっと広いですよ」


「魔法ってやっぱすげぇな……」


阿修羅は思わず感嘆な声を漏らした。


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