お騒がせ真名ちゃん
智二香苓
第1章:それぞれの価値観
第1話 あの子はだぁれ?
「んほおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉっっ!?」
その嬌声が響いたのは、休み時間のことだった。
教室ではしゃぐ小学生の男子や、談笑に花を咲かせる女子で賑わう中で喘ぎながら、その女子は興奮気味に友人の机にあった筆箱を見て飛び跳ねる。
「このうさぎさん可愛いいぃ! 真名ちゃんの性癖ドストラ、イッグウウゥゥゥ!」
自身のことを真名と呼んだ少女は、筆箱についていたうさぎのストラップを見て絶叫する。すると周りにいた少女たちも反応した。
「私これ知ってる! 今凄い人気のやつだよね。私も同じの持ってるよ」
「友達がそれの色違い持ってたよ。野々花ちゃんも持ってたんだね。私も今度お小遣い溜めて買おうと思ってるんだー」
「ほんと!? 私も気に入ってて種類集めてるんだよねぇ」
筆箱の持ち主である女子、野々花は共感して笑った。
盛り上がった少女たちは野々花の筆箱を手に取り、ストラップを近くで見ようと、みんなで交互に筆箱を渡しながら見せ合う。
「みんな。それ野々花ちゃんの一番大事な宝物だから、気をつけてね」
「え?」
さらりと告げた真名に、野々花は驚きに満ちた表情をする。
「あ、そうなの? じゃあ返すね」
「ごめんね野々花ちゃん、勝手に触っちゃって。ありがとー」
真名の注意により、少女たちはすぐに野々花に筆箱を返した。
「あ、うんいいけど……。え、真名ちゃんなんで私の大事なものってわかったの?」
「ふっふっふー。どんなに隠し事をしても、野々花ちゃんのことなら頭の先からケツの穴まで、全部お見通しなんだよぉ~?」
疑心暗鬼で野々花が尋ねると、真名は上機嫌に人差し指を立てる。
と、そこで始業を知らせる予冷が鳴った。
「あ、次の授業の準備しないと。真名ちゃんも教室戻った方がいいんじゃない?」
「ストラップ見せてくれてありがとね野々花ちゃん。またあとで」
言うと少女たちは急いで自分の席に戻って行った。
「あ~ん真名ちゃん待ってるぅ~。じゃあみんなバイバ――」
「なにしてんだよお前ら! チャイム鳴っただろ!? さっさと席に着けよッ!!」
「ほぉっ!?」
真名が手を振り返したときだった。前の席で座っていた男子が突然肩を怒らし、まだ席に着いていないクラスメイト全員に向かって怒鳴り散らした。
物凄い剣幕に、クラス内は一瞬沈黙する。
「え……? お前なんで急にそんな怒ってんの?」
「みんなが先に座ってればすぐ授業始められるだろ!? 先生の迷惑も考えろよ!」
当惑した男子が問うと、永井は敵意を剥き出しにして叫ぶ。
そんな様子に、女子たちは声を潜めてこそこそと会話した。
「永井君どうしたの? 普段そんなこと言わないじゃん」
「ほらあれだよ。飼ってるハムスターが逃げて、昨日から見つからないって」
「あーだから機嫌悪いのね。それで早く帰りたいわけか」
と、口々にそんな会話が展開されていると、教室のドアが開く。
「はーいみんな席に着いて。授業始めるよー……って、どうしたのみんな?」
そう言って入って来るなり、女性教師はクラスの重い空気を察して首を傾げた。
「えっと……永井君が急に――」
「異常ないでーす! なんでもありまっすぇ~ん!」
野々花が経緯を説明しかけると、真名が手を挙げながら高らかに伝えた。
「えっ!? なに言ってるの真名ちゃん! 今、永井君が――」
「なんにもなかった――よね? 野々花ちゃん」
言いながら真名は、いつの間にか取り出したステッキ片手に野々花を見る。
瞬間、ステッキの先から広がった漣が野々花を包む。野々花はみるみる目を据わらせると、真名の問いかけにこくんと頷いた。
「う……ん、真名ちゃん……なにもなか、った……ね……」
「なので先生、大丈夫です! それじゃお邪魔しましたーっ!」
元気に言うと真名は教室を後にした。教師は首を傾げながらも教室に入る。
すでに生徒たちは席に戻って教科書や筆記用具の準備をしていた。永井も不満気に口を閉じたまま、黙々と準備を進めている。
「今日の永井君、やな感じだね」
「野々花ちゃんも早く座ろ。あいつ今日変だし」
「えっ……あれ? あ、うん……」
小声で指摘されると、野々花はハッとして返事をした。席に戻るとお気に入りのストラップのついた筆箱の位置を調整し、机から教科書を取り出す。
そして誰もが、野々花本人ですら、真名が奇妙な術を使ったことや、ステッキを持っていたことを、不自然なほど気にしていなかった。
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